「どうしてあなたはメイクをしているんですか?」。この質問にみなさんはどう答えるだろうか。ハッキリと答えられる? それとも、なんだか責められている気持ちになる?
「なんとなく」「そうするものだから」以外の答えを自分の中に持っている人が読むと、心に突き刺さる本がある。10月に発売された劇団雌猫編著の『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(柏書房)だ。
「私たちの周りにはね、たくさんの呪いがあるの。自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いからは、さっさと逃げてしまいなさい」――。これは大ヒットしたドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」でアラフィフのメインキャラクター百合ちゃんが語ったせりふだ。
「若い方が価値がある」「20代のうちに結婚するのが普通」「女性は稼ぎすぎていないほうがかわいげがある」といった、なんとなく刷り込まれている“こうあるべき”というプレッシャーを「呪い」と表現した百合ちゃんの言葉は、(石田ゆり子さんの好演もあって)いろいろな人にぶっ刺さった。
一時期は誰もかれもがこの「呪い」という言葉を使いたがっていて、もしかしたら読者の少なくない人が食傷気味かもしれない。それでもこう言いたい。『だから私はメイクする』は呪いの話だ。「呪いとどうやって生きるか」の十人十色の解答がある。
15人の女たち
軽やかに乗りこなせる人もいる。例えばCHAPTER.1「自分のために」に登場する「コスメアカウントを運営する女」は、大学3年の就職活動でのストレスをきっかけに、「コスメ垢(SNSでコスメの情報発信をしているアカウント)」の世界に足を踏み入れる。約5年間でコスメに費やした金額は50万円近くに上る。
〈コスメ垢を始めてから、単調な日々が充実するようになった。予定がない平日の仕事終わりはフォロワーとコスメ談議に興じることができるし、会社に行きたくない月曜の朝も、土日に買ったコスメを使おうと思うと、出社する気になった。私にとってコスメは、コミュニケーションのツールだ〉
努力で乗り越える道を選んだ人もいる。CHAPTER.2「他人のために」の「デパートの販売員だった女」は、〈この顔になるまで、長い長い時間がかかった〉と語りだす。デパートの販売員として働き始めた彼女は、売り場の店員として求められる容姿になるために試行錯誤を繰り返す。他人の視線と鏡に囲まれる中で、“自分の顔”を作り上げていった。
〈私はこんな顔していたのか。メイク、笑顔、接客。すべてが、今の私になるために必要だったのだ。正直、自分の顔が好きだと思える瞬間がくるなんて、思ってもみなかった〉
一度は押しつぶされた人もいる。CHAPTER.3「何かを探して」の「痩せたくてしかたがない女」。就活に失敗し、来月まで食いつなぐために、スナックとラウンジとキャバクラの面接のアポを取った。しかしスナックの体験入店で起こったある出来事に、〈自己肯定の魔法が解けて〉しまう。
〈痩せた自分を、自分自身で認めてあげたいと思う。食事を減らし、運動をして、自分とは違う世界のものだと思っていた「キラキラ」や「ふわふわ」を、やっと自分に許せるようになった。あの女の子たちもそうなのかもしれない〉
本書では、15人の匿名の女たちの15通りの「メイクをする理由」――呪いとの付き合い方が読める。元気になったり、笑ってしまったり、苦しくなってしまったり、読んでいると精神がジェットコースターだ。TBSの宇垣美里アナウンサーやライターの長田杏奈(おさ旦那)さんのインタビューも収録されている。
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