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壁に顔をこすりつけ地面に這いつくばるファンタジー世界の男と少女『この世界は不完全すぎる』探求者ハガの奇妙な行動(1/4 ページ)

一話はネタバレ注意!

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ファンタジー、なんですが…?

 『この世界は不完全すぎる(以下「このふか」)』というマンガが面白いので紹介したい! と思ってこの記事を書いているのですが、1話目ラストのネタバレが極端に致命的すぎる上に、そこに触れないと作品の話が何も出来ない。なので、一旦試金石的なコマを貼らせて頂いてから、紹介しようと思います。「このふか」のもっとも「らしい」シーンです。

なんでしょうこれ…?

 ハガというたくましい男がファンタジー世界でゴリゴリと壁に身体を擦り付けて歩き回る。這いつくばってジロジロ地面を見ながら伏せて進む。ずっとこんなこと続き。女の子の方は常識人っぽい。かわいい。

 これを見て「何かあるな?」と思った人は、迷わず今回掲載させていただいている1話を読みに行ってください! 次に貼らせていただく画像の後から、内容の紹介に移ります。

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探求する男と、抜け出した少女

モンゴル的もこもこ感がキュート

 田舎の小さな村に現れた、屈強な見た目の男、ハガ。村の娘ニコラは彼に出会っていつもと違うワクワクを感じた。彼女は「探求者(シーカー)」らしきハガについて行こうと決意し、村を抜け出した。

 ……というニコラ視点で言葉にすると、とってもナチュラルなファンタジー作品。しかしハガの旅は冒険ではないです。「探求者」というのはあながち間違いではなく、世界の隅々までくまなく調べるのが彼の仕事。

 実はハガはデバッガーで、現実世界からプレイヤーの姿でログインしてゲームであるこの世界のバグ探しをしている、というかなりひねった設定の作品です。ゲームに入り込む作品だと「ログ・ホライズン」や「ソードアート・オンライン」が有名ですが、プレイヤーじゃなくてデバッガーなので、やることなすことすべてがものすごいメタ

 「異世界転生・転移もの」の面白さのひとつは、現実社会との文化ギャップです。世界が完全に1つの文化で完結しているハイファンタジーと異なり、現実社会の文化と異世界の文化のズレがあったり、知識がチートになったりするのが楽しいもの。「このふか」も大きなくくりで言えば、異世界ものの構造をなぞっています。ハガはゲームを制作したリアル社会の知恵を持ち合わせており、ニコラはNPC。知識量は圧倒的にハガの方が多く、この世界の住人に対して勝つとか負けるとか、そもそもありえません。チート状態のはずです。

 けれどもハガの行動は、NPCよりも遥かに地道で慎重でゆっくり。サクサク進めるだろうに、常に石橋を叩いて渡る。足を止めてもう一度もう一度と同じことを繰り返すので、NPC側に呆れられるほど。一話のドラゴン退治のように不格好ですらある。地道なバグ探しは、「知る者」の有利感があまりありません。

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地道なお仕事

 現在のゲームプレイヤーなら、最初に貼った画像が壁の隙間探しだと理解できます。RPGのバグで壁やら地面やらの隙間に挟まって出られなくなったり、ダメージで死んだりした経験がある人、結構いると思います。こういう致命的なミスをできる限り0にしていくためにあれやこれやとゲームプレイで実験し、バグを事細かに探して見つけていくのが、デバッガーの役割。ゲームしてお金がもらえる、なんていう気軽なものではない。経験と知識と忍耐が必要な、途方も無い労力を費やす仕事です。

女の子になんてことを

 ハガが言う通り、やみくもに動き回っていたらいつまでたっても終わらない。こうやったらこうなるんじゃないか? という目星をつけて行動するのが重要。アクションゲームだったら「ここであえて逆の行動をやったら?」みたいな感じ。ハガ、めちゃくちゃ優秀なデバッガーです。

 ただしNPCとはいえ女の子の顔に傷がつく作業をさせちゃうあたり、デリカシーはないです。真面目が行き過ぎているのを感じさせてくれる異様なページ。しかもこれ一周で終わりじゃなくて何度も繰り返します。ひとつひとつマメに地面から壁からチェックし、全てをメモに取っていく。必要に応じて0からのやり直しも辞さない。

 彼の言動の真面目さはかなり狂気的。いくらデバッガーだって休日くらい取るだろうに、彼は一日中かけて調べ回り、丸覚えするほどに同じことを幾度となく繰り返します。極めて慎重で、ちょっとしたバグも見逃さぬよう地面のテクスチャに顔を寄せてジロジロ見る姿には、周囲の人から怪訝な視線を向けられ続けます。執念のように地味な作業を続けるハガの奇妙な生き方。この作品が描く「人間の精神バランスの不安定さ」をコミカルに象徴する重要なポイントになっています。

ハガとニコラのお仕事

3Dモデラーが毎日目にするやつ

 これはバグとしてはわかりやすい例。キャラクターにモーションがついておらず、Tポーズのまま浮遊して動いている状態。3D制作者なら「あるある」だと思います。ここまで露骨なら気づくだろ! と思ってしまいそうですが、ゲーム内の膨大なNPC数を考えたら一区画まるごとシステムの連携が外れていて後から気づいた、なんてことは十分にありそう。

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「直る」のって快感なんですよね

 「抜けてましたよー」と連絡して終わりではない。ニコラと2人でボーンのままの村人や動物にひっついて回って、動作をすべてチェック。試行回数は5回で、5回とも同じなので「5/5」と記入し、開発チームに転送。次の日に修正の連絡が入ったら再度村人の動きを確認。

 実際のデバッガーも再現回数このくらいなんでしょうか、もう見ていて気が遠くなる。ハガは集中して、他のことを考えずこなし続けています。

 この作品確かに、デバッガーはいかにストレスを抱えることになるかを感じさせてくれるシーンだらけです。しかしこのボーンの回は、ちゃんと修正されることですっきり気持ちが良い状態になるのが、明確に表現されています。仕事の達成感は確実にあります。

デバッグモード

 デバッガーは彼一人ではありません、かなりたくさんいたようです。ここで大きな問題がひとつ。デバッガーは一般プレイヤーと同じ環境でやらなければ意味がない。しかしなんでもできるようにできる「デバッグモード」も権限として持っている。もしデバッグモードばかり使用し続けていたら、それはもうデバッガーの意味がないのではないか?

文字通りのチート

 作中にはデバッグモードを使って遊んでいる他のデバッガーも登場します。彼らはなんでもできるコマンドを持ち合わせているので、酒池肉林どころじゃない好き勝手し放題。NPCをぶん投げて殺す「NPCダーツ」のようなスプラッターな遊びも盛りだくさん登場。

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 彼らがデバッグモードでやっていることは絵的には残虐です。でもNPCを殴り殺したり破壊行動を繰り返したりって、現実のプレイヤーでも一般発売されたゲームでも割とやるような気がする。だってNPCですし。誰かが傷つくわけではなく、プレイヤー扱いのデバッガーもキャラクターだから薬ですぐ回復できる。つい試しちゃうのは、絶対悪とは言い切れない。

 加えてハガたちデバッガーは、1年以上この世界から出ることができていません。戻れる希望がないから、仮に仕事の報酬があったとしても意味がない。せめてプレイヤーとして生き生きとこの世界で暮らせるのならいいのだけど、デバッガーであるがゆえに全部知り尽くしてしまっていて、やることがない。

足跡を追うどころじゃないバグ探し。ひたすらに地味です

 ハガはデバッグモードを絶対に使わないし、使う人を許さない。

 マンガの見た目は楽しいファンタジーですが、実際は精神的極限状態に置かれているデバッガーたち。その目の前に置かれた「デバッグモード」という禁断の果実。あえてそれを取らず、過酷でストレスフルなデバッグの仕事を黙々と続けるハガの狂気こそ、正気だと見え始めてからが「このふか」の本番です。

 NPCとは思えないニコラのAIはどう動いているのか、デバッグの権限の仕組みはどうなっているのか、デバッグモードがなぜ危険なのか。多数出てくるメタな疑問は、基本的に1巻を読むとだいたい理解できると思います。ゲーマーならあるあるネタも多いのでかなり楽しいはず。そしてあらゆるゲームのデバッガーさんたちに、心から感謝。地道な活動のおかげで、ゲームを安心して楽しく遊べています。

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たまごまご

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