宇垣美里が忘れられない“付き合わなかったけど相思相愛だった人” 「往生際」作者と恋愛トーク(1/2 ページ)
スピリッツの人気作『往生際の意味を知れ!』作者・米代恭さんと、同作が大好きな宇垣美里さんの対談です。
恋愛漫画『往生際の意味を知れ!』の作者・米代恭さんと、漫画やアニメ好きで知られるフリーアナウンサー・宇垣美里さんの対談が、11月16日発売の週刊ビッグコミックスピリッツ51号に掲載されています。ねとらぼでは同対談より恋愛部分にフィーチャーした独自の構成でお届けします。
「スピリッツ連載作では『往生際』が一番好き」という宇垣さんと、「出演ラジオをよく聞いていた」という米代さん。実際に会うのは初めてながらも、「(恋愛における)忘れられない人」「恋愛≒戦場」「“編集された“自分との折り合い」など、さまざまなテーマで盛り上がっていました。
米代恭
漫画家。1992年生まれ。2012年にアフタヌーン四季賞佳作『いつかあの子』でデビュー。2020年2月から『往生際の意味を知れ!』連載中。先日初めて、新宿・伊勢丹を「上から下まで」全て巡り、買い物の楽しさを知った。
宇垣美里
フリーアナウンサー。1991年生まれ。2014年4月~2019年3月にTBSテレビ在籍。現在はオスカープロモーション所属。2020年春に念願の犬を飼い始め、「この子のゴハン代を稼ぐために生きていく」と考えている。
忘れられないのは“付き合わなかったけど相思相愛だった人”
米代:「往生際」を作るにあたって、「今までで一番忘れられない元カノって誰?」といろんな男性に聞いて回ったんですが、あまり女性に聞いたことはなかったなと。宇垣さんには、忘れられない元カレや彼氏じゃなくても好きだった人はいますか?
宇垣:「付き合わなかったけど“お互い絶対好きだったよね”」という人は忘れられないと思います。若い頃はお付き合いをして関係が変わるのが嫌で……付き合ったら別れるじゃないですか、人は。別れるなら、仲のいい友人という形で一生関係が途切れないほうがいいと。でも、よく考えたら「絶対に変わらない関係」なんてありえない。だから当時の選択は、子どもというか浅はかだったなと思います。
米代:その方とは、もう恋愛関係にはなれない距離感になってしまったんですか。
宇垣:そうですね。一歩踏み出さなかったという意味での後悔がずっと残っているから覚えているんだと思います。その人には出会えてすごく良かったし、いまだに何かあったことに対する返答で勇気をもらったり、間違ってないと思ったりします。
――宇垣さんから後悔という言葉がでてくるのは意外でした。
宇垣:その経験があって「やらぬ後悔はまじで無駄」と思うようになりました。
米代:私、アトロクの疎遠になった友達のコーナーが好きで、そこで宇多丸さんが「宇垣はまだ生傷だから」と言ってましたよね(笑)。
宇垣:あれですね、元トモが単行本化されたんですけど、私もコラムを送ったんです。それが大学時代までは親交があった友達のことで、他の方のように小学生時代の友達とかではないから、多分生傷と言ったんだと思います。
【アトロクの疎遠になった友達】RHYMESTERの宇多丸さんがパーソナリティーを務めるTBSラジオ「アフター6ジャンクション」のコーナー。昔は仲が良かったのにいつの間にか疎遠になった友達(元トモ)のエピソードを紹介する。漫画版もジャンプ+に掲載中。
初対面で付き合うかどうか“直感”が働く!?
米代:恋愛は自分から行くタイプですか。
宇垣:自分から行ったことはないんですけど、初対面で「あぁ付き合うんだろうな」と思った人と付き合うことが多くて、片思いの期間があまりないんです。むしろ恋仲になってから続ける方がいつも大変。
――その「付き合うかも」というのはどんな感じですか。見た目、態度、言葉……など分解していくと。
宇垣:雰囲気ですかね。私は1人でも何かを楽しめて、かつ自己肯定感がある人が好きなんです。先輩には「だからお前はだまされるんだ」と言われました(笑)。確かに動物のようなところがある。
米代:その感じわかります。好きになる人は初対面で好きなんですよね。直感で好きになるから後になって「……あれ!?」みたいな。
宇垣:人柄を知ってから、じゃないんですよね。男友達から徐々に好きになることもなく、会った瞬間にパーンって。男友達は男友達のフォルダに入っていて、恋愛フォルダに移行できない。
米代:それもわかります。ただ、私はそもそも誰かとちゃんと恋愛関係を築いたことがないので、スタートラインに立てていない。「続けることが難しい」とよく聞きますが、「一体何が!? 始める以上に難しいことってある!?」と思っちゃいます。
宇垣:やっぱり価値観の違いが出てくる。私の「絶対」と違うものを人は持っているじゃないですか。そのすり合わせが難しいし、結局はすりあわせられない。それぞれ違う人だから一緒になることはなくて、どちらかが負けるしかなくて、そういう常に片方が負けている状態を続けるのはしんどい。
――宇垣さんは勝ちにいくんですか。それとも負けてあげるのか。
宇垣:好きだから負けちゃうときもあれば、ここは譲れないというときもある。それに疲れたり、もしくは一方的になったりすると“関係として破綻している”ので「あぁもうだめだ」と。私はギリギリまで頑張るんですけど、ある日プツンとなって、「もう終わりです(相手とてもびっくり)」と。人と付き合うって難しい。
“戦場のような心理状態”≒恋なら、もう恋はできない!?
――プツンとなるのは、日和と市松の別れ方みたいですね。宇垣さんは「往生際」だと誰に一番共感しますか?
宇垣:どっちも逸脱してる部分があるので、一から十まで共感することは難しいんですけど、それぞれにわかるな……という部分はあります。日和は多分、市松のこと好きじゃないですか。でも誰かの何かになるのが怖かったり、結局一緒にいたいから理由をつけて会ったりするのはわからんでもない。市松のずっと思っちゃう気持ちもわかります。例え違う人と付き合ってたとしても一生、心に残る人ってきっといる。
米代:男性に聞くと「わかる」という人がとても多くて、「そんなに忘れられない女がいるんだ!」となりました。
宇垣:「あの時もうちょっと頑張っていれば……」「あの人がここにいたら……」という気持ちは理解できます。その忘れられない人が「往生際」みたいに突然現れたら、私はどうするんだろう――と考えると「本当に来ないでくれ」ってなります。
――来ないでほしい(笑)。
宇垣:樹木希林さんが「(内田裕也さんに)来世では会わないように気をつけたい。会ったらまた恋してしまうから」と仰っていた。それに近いです。会ったらまた大変な目に合うし、でもその自分を止められない。
――米代さんは昔好きだった人に会ってまた恋に落ちることは考えられますか?
米代:会っても相手に好かれる想像がほとんどできない……。傷ついた記憶が前面に出て「……お久しぶりです!」で終わっちゃうと思います。好きだった部分よりつらさが上回る場合は無理ですね……。
――宇垣さんもつらさが上回ったり、まだ恨みがのこってる人間関係はあったりするんですか?
宇垣:愚かなのが、絶対辛かったのに、ちゃんとリストアップしたら恐ろしいことになるのに忘れちゃうというか、好きだっだ部分を思い出してしまう。その頃の“戦場のような心理状態”が恋だとするなら、私はもう恋はできないかもしれない。
米代:そんなにすごいんですね。
宇垣:当時を思い出すと、あれはあれで「生きてるー」って感じがしたんですけど、でもその生き方は正しくない。私は戦場で生きたくない。
――(笑)。そのとき一番つらかったことは何なんですか?
宇垣:互いは好きなのにわかりあえない部分がありすぎたこと。価値観や倫理観が違ったこと。
米代:なるほど。
米代恭が考えるフィクションの力
――宇垣さんは片思いの期間はあまりないとのことでした。それでいうと米代さんは片思い派というか、好きな人を信仰する系の漫画を描いています。
宇垣:『あげくの果てのカノン』は信仰ですよね。あれを読んでいると「私は本当の意味で推せていない」と思う(笑)。
米代:カノンはかなり過剰に描いています(笑)。漫画を面白くするためには自分の本音を言葉にしないといけないんですが、それを掘っていくとバッドに入ってしまうときがあって。
宇垣:しんどそう。それが故のカノンのパワーなんですかね。
米代:あれは強引にアッパーに寄せています。何もしないとどんどん内向きになっちゃう人はたくさんいると思うんですけど、それをアッパーに持っていけることがフィクションの力であって、主人公の格なんだと。そう割り切って、自分の気持ちにアッパーな要素を足して描いていました。
宇垣:えい、やっちゃえができる。自分だとなかなか踏ん切りがつかないけど、キャラクターなら「よし。もう彼のところに行ってしまえ!」と。確かになぁ。
恋愛のエネルギーはめちゃくちゃ美しく、東京は人が多すぎる
米代:自分の恋愛では大変な目にばかりあってるのに、「なんで恋愛漫画を描いているんだろう?」と考えると、さっき宇垣さんが言ってた“戦場のようなもの”のエネルギーに希望を持っていて、それは良い意味でも悪い意味でもめちゃくちゃ美しい。でも、その恋愛をリアルにやるとなったら、「そんなエネルギーないよ」と。
宇垣:もう十分ですよ。『赤毛のアン』を書いたL・M・モンゴメリの伝記に「最初の恋人(死別)をすごく好きだったけど、その人は自分が読んでいる本のことは知らず、共通の話題もなかった。結婚相手となった牧師のことはすごく好きとかではないけど、考え方のレベルが同じで、倫理観も一緒。だから穏やかな生活ができるだろうし、この人で良かったんだ」と振り返るシーンがあって、まじで真理って思いました。
宇垣:私は“戦場”にいたとき、常に何かを揺さぶられていたので、「書くこと」のモチベーションが高かった。文章を書くときは大体“怒り”があって、それがめっちゃ湧いてくるから毎週テーマに困らなかった。でも、今は平和だから「何書こうかな?」となっちゃって(笑)。
――米代さんは恋愛が佳境の間、仕事ができなかったんですよね。恋愛とその他のバランスを取れる派ですか?
米代:できなかった……。
宇垣:脳が別になってますね。アナウンサーは一定のパフォーマンスをずっと求められて、それができないと使いものにならないと判断されちゃう。何か一つ才能があって、それをパンって出せたらみんなに拍手されるような仕事じゃないんです。コンスタントに与えられた仕事をこなすにはプライベートのグダグダを出すわけにはいかないし、それは負けな感じがして。でも、あるとき放送後に何かが出ていたらしくて。
――妖気ですか(笑)。
宇垣:察知した先輩がご飯に誘ってくれました。「どうしたの宇垣。仕事はしてたけど終わったあとの怒気すごかったよ」「えへへ」と。
米代:アナウンサーになる前に、恋愛で大変になったことはありますか?
宇垣:学生時代は平和だったので、東京に来てからですね。大学があった京都は時間が止まったように穏やかな場所で、派手なこともなく、そもそも情緒が安定していました。でも東京は人が多すぎる! 人の層が厚すぎて、誘惑がありすぎる! だから東京で若い頃をすごした人はすごいなって思います。
米代:私は10代からずっとオタクで、キラキラしている人に会ったら「うわー」となっちゃうんです。宇垣さんも漫画好きで内向的なイメージがありますが、アナウンサーはキラキラしている人にたくさん会いますよね。ギャップってありました?
宇垣:高校まで周りに無頓着で、大学で初めて「見た目が褒められることもある」と気付いて、たまたまそれを使う職業に就いてしまった。だから、そもそも人から受けるイメージと自分自身のイメージにギャップがありました。
「編集された自分」と「自分が思う自分」は違っていい
――イメージの話でいうと、フリー転向や書く仕事が増えたことで「自分として生きられる」みたいな感覚はありますか?
宇垣:書く仕事の「自分の考えを自分で構成できる」「何度も見返せる」ことはもはやセラピーになっています。テレビだとその瞬間を切り取って、前後がないままどこかに出ることがあって、そうすると全然違う私になるんですよ。そうじゃない自分を一つ確立できるから、書く仕事があってよかったです。
米代:「編集された自分」への折り合いは付けていました?
宇垣:最初は「そんなんじゃないのに」「これはこういう文脈だったのに!」とモヤモヤしたんですけど、途中から自分が思う自分をテレビの先の人に伝えなくてもいい、同じ自分像を持ってもらう必要はないと考えるようになりました。視聴者が○○だと思っても、幼馴染は□□だと思っている。別にそこに食い違いがあってもよくない? 自分って多面的だから。
――面白い! その自身の立ち位置を確かめるうえで大事なのは幼馴染や家族との会話なんですか。
宇垣:そうですね。学生時代の友達は「何者でもない自分」を知っているので。あと妹と話すのが一番ホッとするし、気持ちのリセットになります。
【妹】年子の妹。「指示語だけで会話して意思疎通ができる」ほどの仲良し。
米代:よくわかります。私も10代から知っている人と話さないと「しんどいなー」と思うことがあります
――宇垣さんがよく海外に一人旅してたのも「別の自分」と関わる部分がありそうですね。今は新型コロナウイルスによって旅行しにくい状況になってしまいましたが……。
宇垣:厳しいですね。4~5月は観たい映画やドラマもあったのでそんなに旅行欲がなかったんですけど、最近は“日本語の聞こえない場所”へ行きたい気持ちがすごくて。ただ、「これは長引くぞ……」とは思っていて、今までのような海外旅行はもうできない。あのとき行った店ももうないかもしれない。世界が変わってしまった。ただ、そういうときでも救ってくれるのがアニメや漫画や本といった物語。物語の中なら私はどこにでもいけるし、何にでもなれるので、それで本当に救われています。
(了)
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