「みんな恋愛しながら仕事していてエグい」 DJ松永×米代恭が語るクリエイターの“仕事と恋愛”(1/2 ページ)
2年ぶりの新作『往生際の意味を知れ!』を刊行した米代恭と、“世界一のDJ”ことDJ松永の初対談です。
恋愛漫画『往生際の意味を知れ!』の作者・米代恭さんとDJ松永さんの対談が、7月20日発売の週刊ビッグコミックスピリッツ34号に掲載されています。ねとらぼ編集部も収録現場に同席し、“恋愛に特化”した2人の対談から独自の構成でお届けします。
DJ松永さんは親友の朝井リョウさんから、前作『あげくの果てのカノン』をおすすめされ、米代作品に出会ったとのこと。初対面とは思えないほど盛り上がった様子を、漫画の試し読みとあわせてご覧ください。
【朝井リョウ】小説家。代表作に『桐島、部活やめるってよ』『何者』。TBSラジオでDJ松永さんを“Dの意志を継ぐ者”と呼んでいたが、深い意味はないらしい。「ラジオで友達の名前を出すの恥ずかしいんですよ」(DJ松永さん談)
“1人を好きになったら、そのまま死ぬ!?”
DJ松永:恋愛の話にはいろいろ葛藤があるんです。例えば合コンとか出会い系とか幸せになるための最短ルートには度胸がなくて行けない。めちゃくちゃ幸せになりたい奴みたいじゃないですか。実際に幸せになりたいのに。そもそも女性とデートするのも罪悪感があって。どこに向けての罪悪感なのかはわからないんですが……。
米代:どういうことですか?
DJ松永:はしたないことをしているような。なんなんですかね。どこか後ろめたさがあって全力で乗れないんですよね。デートしたいんですけどね。
――デートにトラウマがあるんですか?
DJ松永:全然ないです。小中学生からの延長線上なので、単純に進歩してないというか。
米代:(笑)。松永さんは1人を好きになったら長い方ですか?
DJ松永:多分超長いです。相手から別れを告げられない限り、死ぬと思います。一生そのままで。「1人を好きになっている」というドラマに自分で酔いたい。自分で自分を洗脳しにかかるのが好きなんです。
米代:自分で自分を洗脳しにかかるのが好き……!?
DJ松永:何かを信じるの気持ち良いし、余計なことを考えなくて済むようになるから楽ですよね。部屋をいつも同じように整えたり、同じ服を着たり、自分ルールを設けるのが好きなんですが、それも似たような理由。でも、好きな人ができたら、その人に自分ルールを引っ剥がされるのが一番快感です。「パーカーがいいよ」って言われたら絶対パーカー買うし、好きな人とは結婚したいと思ってるけど、その人が結婚制度にこだわらないスタンスだったら、自分から「紙切れ1枚でさ……」と言い出しそう。
【同じ服】DJ松永さんの服装の変遷。ずっと長袖長ズボン(中学生頃まで)→ずっと短パン&サンダル(高校生から約8年)→ずっとスーツ(約5年)
米代:自分のルールを破壊してくる存在にひかれると。
DJ松永:あんなに頑なだった自分が、簡単にルールを破壊されてる瞬間が快感なんでしょうね。普段は「お前は自分という宗教に入信してる」ってR-指定によく言われますが。
【R-指定】ラッパー。DJ松永さんと10年前に出会い、2013年に「Creepy Nuts」を結成。板橋区で一時同居していた。「Rはよく近所のコンビニで上下パジャマで立ち読みをしていました」(DJ松永さん談)
米代:心に神様を持つと気持ちが楽になるっていいますよね。
漫画「往生際の意味を知れ!」はめっちゃ面白かった
――「往生際」を読んでいかがでしたか。
DJ松永:めっちゃ面白かったです。ずっとくらってました。1話で家が燃えるじゃないですか。よーしよしよし! それで元カノを忘れられるなら燃え尽きてくれって思いました。
米代:(笑)。うれしいです!
DJ松永:燃えて1話で完結、ハッピーエンドじゃんと思ってたら電話かかってくるでしょう。マジで最悪な展開。でも市松にめちゃめちゃ共感しますね。1人の人をずっと好きで気持ち良くなってる感じがめちゃわかります。
――ヒロインの日和は言行一致、HIPHOPでいったらリアルなタイプです。松永さんは日和みたいな子を気に入りそうだと感じました。
DJ松永:そう思います。俺、秒ですよ。日和なら秒で……。2話で急に呼び出されて「精子欲しい」って言われるじゃないですか、あのときの市松の心境はよくわかりました。「じゃあ入籍しよう」とかまんま言うと思う。
――(笑)
DJ松永:1巻のラストもびっくりしました。映画を撮り始める時点で「おいおい」と思っていたのに、これでさらに市松に落ち度があるなんて展開になったら……。
米代:市松がかわいそうすぎるのは私が描けなくなります(笑)。その選択肢もあったんですけど。
DJ松永:良かったー。俺、それで過去の自分の落ち度とか、考え直しちゃいましたもん。気づいてないだけで、もっと自分も悪いところあったんでは? と。
「俺みたいのを好きなわけないじゃん」 DJ松永の複雑な心境
米代:私、片思いだけは多くて、そのときに「片思いの好き」と「相手がレスをくれるときの好き」は種類が違うなと思ったんです。レスポンスされる快感と、ただ一方的にあなたのことを何も知らないけど好きの快感は違う。
DJ松永:俺、何も知らなくて一方的に好きってのはないかもしれない。
米代:本当ですか? じゃあある程度レスがある人じゃないと……。
DJ松永:絶対傷つきたくないから、見込みのある試合しかしたくないって思っちゃう。ダサい……。
――片思いの好きは「推し」に近いのかなと感じました。松永さんはオードリーのファンでしたが、その感覚と比べてどうですか。
【オードリー】若林正恭さんと春日俊彰さんによるお笑いコンビ。DJ松永さんは「オードリーのオールナイトニッポン」を全回5周するくらいのヘビーリスナーだった。2018年に同番組ツアーのテーマソングとして「よふかしのうた」を制作。若林さんの自宅に朝井リョウさんと2人で行ったこともあり、「トップオタ」として知られている
DJ松永:どうなんだろう……。オードリーほど恋愛対象の著名人を好きになったこともないので、その感覚はわからないかも。そもそも俺らのライブに足を運ぶファンの気持ちを完全に理解できている自信がないというか、ライブ中も冷静になると「俺みたいなのを好きなわけない」という視点が入っちゃってパフォーマンスが落ちます……プロにあるまじきことですけど。
米代:ええっ(笑)。HIPHOPの先輩や好きなアーティストを崇拝することは?
DJ松永:それはしますよ。でもこと自分になると「俺だぞ? そんな(ファンに好かれる)ことあるわけない」と思っちゃいますね、マジで。
恋愛しながら仕事をするのはエグい
DJ松永:レスの話に戻ると、俺、自分からは行かずひたすら待ち続ける。だから一方的に始まることはなくて。情けないですが。
米代:私、自分から行ったことしかないですね。それで相手にされなくてシュン……みたいな。
DJ松永:うわっ……つらい!
米代:でも待ってるだけもつらくないですか?
DJ松永:つらいです。待ったところで誰も来ないから、結果良い歳こいて何も始まらないんですよ。でも、好きな人できたら全神経そっちに持って行かれて、生活どころじゃなくないですか。みんな恋愛しながら仕事しているんですよ。エグくないですか? どんなキャパしてるんだろう。
米代:私、「一体恋愛における望みってなんだろう」とすごく悩んだんですよ。それで「仕事と恋愛を両立することだ。じゃあ仕事頑張ろう」と思ったら、恋愛をしなくなりました。みんなすごいですよ。
――恋愛で問題が生じると作品が進まなくなると。
米代:完全にそうですね。だから「カノン」から「往生際」まで2年かかりました。
DJ松永:お疲れさまです……! そうなっちゃいますよね……! むしろ、切り抜けられたことが十分素晴らしい。1人と付き合ってトラブルなく結婚して、そのまま生涯終えれたら楽なのにな。
恋人とは揉めない自信がある! 「優しさでマウントを取りたい」話
――恋愛している間も傷つくことはあるかもしれません。
DJ松永:らしいですね(笑)。でも、なぜか相手と喧嘩しない自信があります。毎回ふざけるなって言われるんですけど、なぜか揉めない自信がある。
――恋愛相手を嫌いになることについてどう考えていますか。何をされても好き?
DJ松永:何ですかね……。「無」か「好き」のどっちかにしたいですね。恋愛相手から期待を裏切られて怒ってしまうと、自分の器の小ささに直面してしんどくなるんで、相手が想像してる以上の器の大きさを見せつけて、優しさでマウントを取りたいんですよね。めちゃくちゃ傷つくけど、自尊心だけなんとか死守できます。相手からは何も気づかれなさそうだけど(笑)。
米代:わかるーー。私は怒ってしまったんですよ。器が小さかった。「衝突があったら話し合えば大丈夫、それが現代人の恋愛だ」と思っていたけれど、いざ「話し合おう」となったら「○○が嫌だって言うならもう会わないよ」や「□□であることに合意したんだから、今さら(略)」となってしまい……。
DJ松永:こわっ! 俺も話し合いで全て解決できるという幻想を抱いているんですが、取り合ってくれないこともあるんだ……。しかも、その論破スタイルは血が通ってない感じで、マジ止めてほしい。
米代:そういうのでちょっと限界点を突破して、私は負けてしまいました(笑)。
DJ松永:恋愛相手がディベート対象になるの嫌ですね。仮に衝突しても、お互いの落ち度を理詰めで責め合うことにはなりたくないなぁ。
――米代さんは漫画を描くことで過去の恋愛感情を消化しているんですか?
米代:全然できなくて……すぐ「怒り」に戻っちゃうんです。でもそうすると描けなくて。怒りと憎しみの意味のなさが、描いていて全く面白くない。
DJ松永:不毛な怒りや憎しみ……。作品にも還元できないなんてつらすぎる。
米代:本当に不毛なんですよ! しかもそうした体験をすることで知見を得られるという期待もあったのに、「これで思ったこと全部『カノン』で描けてたな、想像でいけたな」と。
DJ松永:しんどい思いしといて、想像でいけたやつ! 怒り損マジで嫌だなー。
恋愛経験が少ないと“恋愛あるある”がわからない
米代:自分の恋愛を振り返ると「どこかに見返りがないと絶対に無理だな」と思っていて。松永さんは「彼女と会えるだけで幸せ」とかも見返りになるんですか?
DJ松永:なんだろう……。いやでも付き合えてないからな俺(笑)。一丁前に恋愛したみたいな感じで今日話してますけど。
米代:なまじ恋愛漫画を描いているから、人の恋話を「なるほどね」と聞いちゃうんですけど、実際の経験はほとんどない……。
DJ松永:だから恋愛あるあるがわからない(笑)。何がベタで何がベタじゃないか。
米代:恋愛経験が少ないとめちゃくちゃ考えて「これが私の意見だ!」って思ったものがすごくよくあるやつになるんですね。
DJ松永:中学生で1回通ってるみたいな。「どういう人を好きになるんですか?」という質問が怖いんですよ。自分の好きなタイプの統計が取れてないから、「顔が好みで、優しい人」とか言っちゃいそうで。
――聞いたことのある話では“性の匂い”を出されるとクラっとくるとか。
米代:自分が性的に見られていると思うと好きになっちゃう。
DJ松永:なんかわかるかも。
仕事をすればするほど“大人”にならなければいけない
――CREAで朝井リョウさんと「気持ちの話」をしていると語っていました。その「気持ち」とは?
DJ松永:今日みたいな話は近いかも。
米代:私も担当編集の金城さんとずっと「気持ちの話」をしています。楽しい。
DJ松永:「気持ちの話」はよほど波長が合わないと難しいですよね。俺の会話が下手クソなだけだと思いますが、大抵引かれる。
米代:えっ、どういうことですか? 重いってこと?
DJ松永:「急になに込み入った話してんだ」みたいな。だから、共通の趣味の話題があると友達が増えるのすごいわかるんですよ。
米代:私、人の愚痴を聞くのが超好きで(笑)。
DJ松永:楽しいですよね。最高ですよ。
米代:愚痴やネガティブな話は、その人の内面の柔らかいところに触れられる。だから「してほしい」って思っちゃう。
DJ松永:すごいわかる。でも、それが楽しいと思って社会に出るとマジで迷惑らしいですよ(笑)。あとめちゃ子ども。ヤバくないですか、つらいですよこの事実。
米代:あーー。私はそれが許される人とばっかり接しているから、その辺の距離感を客観視できていない可能性があります。
DJ松永:音楽の仕事を始めて、特にHIPHOPなんかだと「当たり前の社交性」とか免除されると思うじゃないですか。俺学校辞めてるし、そういうの関係ないところでいけるんだと思って。でも、仕事すればするほど周りに大人が増えていって、結局社会になってくる。そうすると迷惑かけられないし、みんなが幸せじゃないとこっちも不幸せになっちゃう。あと気を使われるのが嫌なんで。
米代:わかる。「接待されてる」って思った瞬間に「ごめんなさい!」みたいな。
DJ松永:「裸の王様」にはなりたくないし、気を使ってほしくもない。でもそうさせてるのは俺だし……しんどいですよ。だからやればやるほど大人にならないとなって思いますね。
米代:うんうん……。(了)
おまけ:DJ松永が「インスタライブ」をしない理由
対談中、DJ松永さんに「インスタライブ」について聞く機会がありました。本題とは逸れますが、そこでのコメントが興味深かったため、編集後記に代えて掲載します。
DJ松永さんが考えるインスタライブ
インスタライブはやりません! 理由はいくつかあって、一つは自宅からオールナイトニッポン0のリモート放送をしたら、管理会社経由でクレームが来たこと。次に、配信の一部を切り取られてYouTubeにアップされるケースがあること。その場のノリでやったものを後から冷静に見られるのはマジで耐えられない。それに配信だとめっちゃ1人しゃべりをするじゃないですか。みんな昼の帯(番組)できるじゃん。すごくない? 仕事以外でそれをやる勇気がない。もちろんそんなハードルを高くしてやるもんじゃないと思うんですけど。
あと、朝井リョウがインスタ配信の快楽を知ってしまうのが怖くて、無音の世界でも常に作品が出せる状態でいたい的な趣旨のことを言ってたんですが、すごいわかる。俺も本当はエゴサーチやめたい。
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