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かなわぬ「夢」に価値はないのか? 「映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」レビュー(1/3 ページ)

「魔法では解決しない」「多様な夢の過程を肯定する」物語だった

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 動員120万人を超える大ヒットとなった「映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」(2019年)の続編「映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」が公開中だ。

「映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」予告編

 前作は、一見子ども向けのようで実は大人にもグッとくる内容が評判となり、「パステルカラーの『ジョーカー』」や「逆詐欺映画」といったパワーワードで例えられたことでも話題となった。今作ではいじらしくかわいいキャラクターの魅力はそのままに、新たに「夢」というテーマに真摯に向き合い、子どもや大人に大切な価値観を伝えてくれる秀作に仕上がっていた。これらのテーマをどのように扱っていたのか、より詳しく見ていこう。

魔法では解決しない物語

 本作では「夏目友人帳」シリーズの大森貴弘が監督を務め、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」シリーズや映画「若おかみは小学生!」(2018)の吉田玲子が脚本を担当。制作スタジオのファンワークス、井ノ原快彦と本上まなみのナレーションは続投している。

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 あらすじはこうだ。キャンプに来ていたすみっコたちは、5年に1度の青い大満月の夜にやってきた魔法使いたちのおかげでナイトパーティーを満喫する。だが、魔法使いたちはすえっコのふぁいぶを間違えて地上に置いてきてしまった。優しいとかげは、ふぁいぶを家に泊めてあげるのだが……。

きょうだいに間違えて置いてかれてしまったふぁいぶはとかげの家に住むことに(画像は予告編より)

 タイトルからも分かるように、物語の中心には「魔法」がある。だが、「魔法を使って何でも解決しちゃう」内容にはなっていないことがミソだ。何しろ、今回のゲストキャラクターであるふぁいぶは魔法をうまく使うことができず、ナイトパーティーでも失敗ばかり。

 物語上で魔法が話を動かす原動力になっていたとしても、魔法だけで安易に問題を片付けたりはしない。このような展開になった理由は、脚本の吉田がパンフレットに記した言葉からでも分かる。

吉田玲子 魔法で何でもかなえちゃうという話だと、すみっコぐらしらしくないと思いました。自分に足りないものや欠けているもの、コンプレックスを持っているのが、すみっコなので。かなわない想いを抱えているからこそ、その人そのものだということを根底に流れるテーマとしました。そして、すごく邁進して努力するキャラクターではないけれど、少しだけ成長したい、変わりたいという気持ちは持っている。そんなすみっコの存在そのものが愛おしいという感じになるといいなと考えました

(「映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」パンフレットより)

 ネガティブだったりコンプレックスを抱えていたりするすみっコぐらしのキャラを大切にしながらも、かなわない思いを抱えることを普遍的な「その人らしさ」として肯定していくねらいは、とても誠実だ。何でもかなえてくれる魔法は現実にはないし、その魔法で安易に何かが良い方向に変わってしまう物語は、確かに現実で生きる「糧」にはならないはずだ。

夢を持つことが、アイデンティティーの肯定になる

 さらに重要なのは、本作が「夢」の本質をも突いた内容になっており、それが前述した「魔法で解決してしまわない」物語と密接に絡んでいることだ。

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 ハッとさせられたのは、劇中でふぁいぶが「(きょうだいが)魔法でなんでもかなえちゃうから、夢って何かが分からない」という認識でいたことだ。

画像は予告編より

 夢を持つことは生きる理由につながり、それに向け努力することは人生の目標にもなる。同時に、それはさまざまなコンプレックスを持つすみっコたちの、もっと言えば普遍的な人それぞれのアイデンティティーだともいえる。

 例えば、しろくまは寒がりで人見知りな性格だからこそ「1年中暖かい場所で暮らす」夢を持っており、ぺんぎん?は自分が何者か分からないため「本当の自分を見つけ出す」夢を持っている。こうしたキャラクターとしての“らしさ”が、彼らをよりいとおしい存在にしている。

 このように、本作では夢がかなうことそれ自体ではなく、夢を目指す「過程」にいる人そのものを肯定する物語になっており、夢をなくしてしまうと、アイデンティティーの崩壊や絶望にもつながるのだと教えてくれる。

 逆に、夢は「持っているだけ」で幸せなことなのだとも解釈できるだろう。こうした夢を、自分が努力してかなえようとするすばらしさだけでなく、みんなで応援したり手伝ったりする尊さも描かれていた。

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