自分を変えるチャンスもあるー「神は見返りを求める」吉田恵輔×「空白ごっこ」セツコが明かす激動の時代の創作(2/3 ページ)
世代の異なる2人で違った見解も。
「“音楽で人を変えたい”という野心が全くなくて」
―― 作品の内容についてもうかがっていければ。田母神が「(若い世代の)私たちとは作る作品のセンスにズレがある」っていう厳しい言葉を食らっていたシーンがグサッと刺さりました。クリエイターにはついて回る宿命的な問題ですが、お2人はどのように捉えていますか?
吉田 ミレニアル世代やZ世代から見て、俺はもう2世代上の人間だけど、一応今も監督として走っているじゃないですか。ただ、こうした世代を意識して作品を撮っているかというと撮ってはいないんですよ。
※執筆者注:「ミレニアル世代」は1980年から1995年の間に生まれた世代、「Z世代」は1995年から2010年ごろに生まれた世代を一般的に指す。
それは、「俺の感性で作っているものが、まだ受け入れられている」ということだと思いますけど、その1点がズレたときが俺の引き際だなと。「センスにズレがあるんじゃないですか?」っていわれたら、「じゃあ帰ります!」って(笑)。
「自分のカラーと完全に同じではないけど、ちょっとだけなら合わせられる」ということができたとして、そもそもの根本姿勢がズレてきてしまったらダメですよね。
―― 裏を返すと、「まだ自分は前線でやっていけているぞ!」という自信がある?
吉田 ですね! 今の段階ではこうやって需要があるしいろいろやれてもいるから、まだ大丈夫なのかなとは感じています。もっと早く終わりが来ると思っていたんですけど。
―― セツコさんは?
吉田 Z世代でしょう?
セツコ (笑)。私の中で音楽が今のところ、生活の中心になっていますが、「音楽でどうにかしたい、人を変えたい」といった野心がもともと全くなくって。
逆にズレていくことを意識することで音楽活動を重くしんどくさせない、「あまり深刻に考えずにやっていいんだよ」という“免罪符”になっているところがあります。
吉田 面白いですね。
時代が追い付いた「神は見返りを求める」
―― 興味深いです。……同作では「かなりきわどいこと」をやって、視聴回数を稼いでいるYouTuberたちがいました。ただ昨今では、危うさのある創作に厳しい目が向けられるようになってきていますが、現状をどう感じていますか?
セツコ みんなイライラしていて閉塞(へいそく)的な空気を感じます。世界がこれまでにないような状態におかれてしまっている分、今までだったらみんな心に余裕があったので、衝突するにしてもうまい落としどころを見つけられたのが、ここにきて良い部分も悪い部分も一気に浮き彫りになってきているなって。
―― そんな厳しい状況の中、どういうスタンスで創作をやっていきたいと考えていますか?
セツコ 自己満足のために創作するのだったら別に世に出す必要がないので。
さまざまなところに配慮した上で作品を出して、それでも批判されてしまったら周囲の人の意見を聞きます。その上で、「確かにここの部分がダメだったな……」と自覚できるなら仕方ないのかなと。
―― 吉田監督はいかがでしょうか?
吉田 世間一般の話で考えると、攻撃的に排除する方向へ物事が日々進んでいるようにみえます。それはSNSがあるから可視化されたのであって、昔から多分そうだったんだろうなって。
何かを排除する空気に対しては、「……それなら、あなたに降りかかったら、あなたの子どもに降りかかったら、どうします?」という感情を抱いているので、みんながもうちょっと別の目線に立って考えられるといいなと感じています。
あと、「自分の発した言葉の責任はちゃんと取らないとダメだよね」とも思う。無責任な言葉を吐くっていうのは、実は相手を殴るのと変わらない可能性がありますから。
ただ一方で、“弱者の声”のように取り入れていくべきものがちゃんと目に見えるようになった側面も今の流れにはありますよね。「自分を変えられる」チャンスもいろいろあるでしょう。言葉ひとつ取っても、「気を付けるようになろう」「もうちょっと冷静に言おう」と考えることで困る人や嫌な人は誰もいません。それは悪いことではないからです。
―― 全くその通りですね。この映画は世の中の流れとリンクしているようにも思えました。
吉田 作中に“ゴッティー”という暴露系YouTuberを出したら、似た名前の人が出てきたり(笑)。インスパイアされて撮ったと思われちゃう(笑)。
セツコ あの場面で本当にビックリしたんですよ!
吉田 時代の方が追い付いちゃった(笑)。
―― とすると、社会がこうした状況になる前に作られたんですか?
吉田 そうです。2018年ごろに脚本執筆と企画会議が始まって、2020年に撮影しているから、かれこれもう4年ぐらい前にさかのぼりますね。
―― 監督にとって同作は、“世間を写す鏡”といった思いがあるのでは?
吉田 全くです。でも、敏感に生きてると「世の中は今後こうなるだろうな」という予感がするんですよ。その中でイヤな予想を作品の形にしたくなるんですけど……。リアルになってしまうと「キツいな」と思います(笑)。
(C)2022「神は見返りを求める」製作委員会
公開情報
6月24日から全国の映画館で公開
監督・脚本:吉田恵輔 企画:石田雄治 プロデューサー:柴原祐一、花田聖
主題歌:空白ごっこ「サンクチュアリ」 挿入歌:空白ごっこ「かみさま」(ポニーキャニオン) 音楽:佐藤望
出演:ムロツヨシ、岸井ゆきの、若葉竜也、吉村界人、淡梨、柳俊太郎(「柳」は木へんに夘)、田村健太郎、
中山求一郎、廣瀬祐樹、下川恭平、前原滉
配給:パルコ 宣伝:FINOR 制作プロダクション:ダブ
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