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映画「ゆるキャン△」レビュー 愛に満ちた「社会人物語」の大傑作(2/3 ページ)

環境は変わった、でも変っていない、みんながそこにいた。

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 とはいえ、ずっと順風満帆にキャンプ場作りができるわけでもない。そのようにいつもポジティブで明るく、どんな困難をも乗り越えてきたはずの野クルのメンバーは、やがて「どうしようもない」事態にもぶち当たってしまうのだから。それまで「社会人になっても変わらないみんな」を描いてきたからこそ、そのことにより強く胸を締め付けられるようにもなっているし、だからこそ「その先」の物語に感動が待ち受けていた。

社会人の当たり前のこと

 本作は「社会人の当たり前のこと」を描いているとも言える。それは例えば、「自分の仕事が、何かの良い影響を誰かに与えるかもしれない」ということだ。

 それは「お金」という行動原理をも超えたものでもある。例えば、アウトドア用品店に勤めるなでしこが、たき火台を探すお客さんにどのような勧めかたをしたか。名古屋の出版社で編集者として働くしまリンが、どのように企画を進めたか。山梨の小学校の先生として働くあおいに、どのような環境の変化が訪れるか。それぞれのエピソードが、社会人としての在り方、そして人と人をつなぐ「縁」を示しているようでもあるのだ。

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(C)あfろ・芳文社/野外活動委員会

 野クルのメンバーの本質は何も変わっていない。だけど、社会人としての責任が彼女たちには生じているし、取り巻く環境も大きく変化している。それを持って、この映画は「ゆるキャン△」という作品の素晴らしさの拡張にも成功している。

 なぜなら、これまではキャンプをただお客さんとして楽しむ側だった彼女たちが、キャンプ場作りを通し提供する側になって、新しく「今だからこそできたこと」、そして「得たもの」があるからだ。そこには、社会人になった誰もが少なからず到達する、普遍的な喜びもあった。

 そして、おいしいご飯を食べたり、きれいな風景を眺めたり、 温泉にゆっくり漬かったり……そんなキャンプや日常的な生活にまつわる幸せなひとときは、キャンプ場に携わる人だけでなく、たくさんの社会人の力があってこそ成り立つものだ。それもまた当たり前のことだが、その当たり前を尊く提示してくれることこそに、本作の優しさと、最大の感動がある。

(C)あfろ・芳文社/野外活動委員会

共に時間を歩んできたからこその感動

 本作はアニメとしての演出も素晴らしい。例えばオープニングでは遠い場所に見えた、富士山と花火をみんなで見ているという光景があるのだが、終盤ではこれと「対」になるシーンがあり、その美しさにも涙した。背景美術もとても細やかで、大きなスクリーンで見届けて良かったと心から思えたのだ。

(C)あfろ・芳文社/野外活動委員会

 いわゆる「飯テロ」具合も恐ろしいことになっている。出てくる料理がおいしそうすぎて、マジで劇場内でお腹が鳴ってしまうこともあり得るし、見た後は自分も同様のキャンプ飯を作りたくなるし、もはや良い意味で拷問級にしんどい。

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 「社会人がキャンプ場を作る」という分かりやすいプロットであるため、「ゆるキャン△」を全く知らなくても楽しめるのだが、キャラクターを知っているとさらなる感動があるというバランスも見事。特に、あおいのイラッともしてしまうはずの「口癖」をもって涙腺を刺激してくるのがズルい。こんなの泣くに決まってんだろ!

 そして、「ゆるキャン△」の原作は2015年より連載開始、2018年にはテレビアニメ1期、 2020年にその2期の放送、そして今回の映画が2022年公開と、およそ7年がリアルタイムで経過したことになる。映画の劇中でどれだけの時間が経過したかは詳しく語られていないが、それは女子高生だった彼女たちが、社会人として働き始めるタイムスパンとほぼほぼ一致している。

(C)あfろ・芳文社/野外活動委員会

 そのため、ファンはキャラクターたちと共に時間を歩んできたからこその思い入れも持てるという、まるで「トイ・ストーリー」シリーズのような感動までもが備わっているのだ。改めて、社会人になったみんなを描く映画オリジナルストーリーというアプローチそのものを称賛したいし、それを最高の形で提示したスタッフとキャストに、「本当にありがとうございます」とお礼を申し上げたい。

 この映画「ゆるキャン△」を見た後は、社会人の1人としてもう少し頑張れるような気もするし、身近なことにもっと幸せを感じられるかもしれない。そのように「世界がちょっと違って見える」のは、素晴らしい作品だという証拠だ。

 そして、これまで疲れた社会人を癒してきたであろう「ゆるキャン△」という作品が、今回は映画で社会人の心に沁みわたる物語を提示してくれたということも、うれしくて仕方ない。ぜひ、劇場でご覧になってほしい。

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ヒナタカ

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