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首を切られた時に面白いくらい血が噴き出した少年を祭る神社!? 鹿児島にある「面白殿」の歴史が深かった(2/3 ページ)

現代の感覚では残酷ですが、真相は果たして……?

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「斬首した時面白いほど血が噴き出した」は半分正しい

 それでは、面白殿の名前の由来の1つである「斬首した時面白いほど多量の血が噴き出した」の「面白い」とはどのような意味なのでしょうか? 濱崎さんに尋ねてみると、次のような回答が返ってきました。

 「『面白い』といっても『愉快だ』という意味じゃないですよ。昔と今とでは、言葉の意味が違いますから。おそらく『びっくりするほど』のような意味合いだと思います」

 筆者が『日本国語大辞典』を参照してみたところ、古語の「おもしろし」には「趣深い」「愉快だ」「こっけいだ」などの他に「奇妙だ」「一風変わった」という意味がありました。さらには、大分の方言で「変だ」「珍しい」といった使い方がされていたという記述も。大分と地理的に近い阿久根市において「(驚くほど)珍しい」というようなニュアンスで使われていてもおかしくはない気がします。

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 また、戦乱の当時は、敵・味方関係なく非業の死を遂げた者は慰霊されました。濱崎さんは面白殿が建てられた背景として、「戦が早く終わってほしいという願いも込められていたのではないか」と推測し、その命名に「愉快だ」「こっけいだ」などの侮蔑の意図はなかったとします。

 長い年月を経た現在、面白殿は地域の守り神とされているとのこと。その一見ぎょっとするようなその名前の由来は、現代の私たちが想像するような残酷な意味ではなかったようでした。

米次千人塚のたたりは本当?

 吉蔗さんのツイートでは面白殿の他に、その味方勢が多く葬られているとされる「米次千人塚」についても触れていました。

米次千人塚

 『阿久根市誌』によると、米次千人塚は面白殿が処刑された中之山(首塚山)の戦いの前年に生じた「田代の戦い」で戦死した者の首を埋葬した塚であるといいます(162ぺージ4行目~163ページ9行目)。なお、濱崎さんによると千人塚の「千人」は、実際に埋葬された戦死者の数というより、「大勢」というニュアンスに近いそうです。

千人塚の説明書き

 この千人塚について、吉蔗さんのツイートには地元の人と思われるアカウントから、「塚石を周辺ごと埋め立てて道路にしようとしたら重機の故障が相次いだので埋めた塚石の真上に写真の石を目印代わりに置いてる」というリプライが。この説について濱崎さんに聞いてみましたが、実際にそのようなことがあったかどうかということまでは分からないとのことでした。

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吉蔗さんの訂正文

 ただ、阿久根市には千人塚以外にも、鷹首山や田代西之城跡のように大勢が亡くなり慰霊されている場所が点在していて、そうした生死にかかわる場所を掘り起こすという行為にリスクが伴うという感覚は、地元の習俗として今も残存しているといいます。そうした理由から、たたりを恐れ米次千人塚の塚石を動かさなかったとしてもおかしくないと濱崎さんは話します。

 濱崎さん自身も墓や慰霊碑を動かすことはなかったものの、道路拡張の工事の際におはらいに行ったことがあるのだとか。実際に米次千人塚の工事でたたりがあったのか、真偽は不明ですが、現在もそうした慰霊の感覚が残っているということは間違いないようです。

 

まとめ

 「首を切られた時に面白いくらい血が噴き出した少年を祀る神社」こと「面白殿」。現代の感覚では一見残酷にも思える名前の由来ですが、そこには当時の人々の平和への祈りがありました。

 このように、ちょっと不思議な歴史的産物を調べることで、過去と現代の感覚の違いや時を超えたつながりを学ぶことができます。ひいては、それが現代の感覚を相対化するヒントになることも。休日などにあらためて、図書館で地元の歴史などを詳しく調べてみるのも「面白い」かもしれませんね。

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※画像提供:吉蔗さん(@kissya_ch

参考文献

  • 『日本国語大辞典』第二版
  • 阿久根市誌編さん委員会編『阿久根市誌』(阿久根市立図書館、1974年)
  • 郷土誌編集委員会編『阿久根の文化財』(阿久根市立図書館、1982年)

 

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