【「ソウルハッカーズ2」肯定寄りレビュー】文化が停滞した未来像とリンクする「続編としての在り方」 素直な続編ではないが、単体のJRPGとして見れば悪くない(2/5 ページ)
アトラス作品のシステムを混ぜ合わせて、ライトに生まれ変わったJRPG。
ライトな女神転生×ペルソナであり、平均点以上は取れるJRPG
21世紀半ばの今よりも少し先の近未来。人知れず起きたシンギュラリティより生まれし、電脳の存在「Aion(アイオン)」から派遣されたリンゴとフィグは、世界の崩壊を防ぐためにデビルサマナーたちと協力。謎のエネルギー体・コヴェナントを巡り、ファントムソサエティのエージェント・鉄仮面と敵対する……。
「ソウルハッカーズ2」の物語は、主人公のリンゴと仲間たちの活躍に重きが置かれた「女神転生」とも「ペルソナ」とも、そして「デビルサマナー」とも「ソウルハッカーズ」とも異なる作品だ。キャラクターの掛け合いの面で言えば「幻影異聞録♯FE」を思わせる前向きさがあり、大人たちが主役という意味では「ペルソナ2罰」の雰囲気もわずかばかりある。「ソウルハッカーズ」のフレーバーに「幻影異聞録♯FE」の明るさを加え、絆(相互理解)がシステム面でも重要な立ち位置を占める点から見れば「ペルソナ3」以降の物語構造にも近い。主にキャラクター寄りの作風だ。
世界観こそ前作「ソウルハッカーズ」の延長上にあるが、合体を担当するヴィクトルやサブクエスト(リクエスト)を受注できるマダム銀子といった一部のキャラクター、ファントムソサエティなどの組織や単語、サマナーが存在するという設定などを除いて直接的なつながりはない。DLCのネミッサを除けば前作のメインキャラクターはいっさい姿を見せず、本作からでも問題なく遊べる……というよりも、リブートされたような作品となっている。
まず、最初に本作がどのような層に受けるのかを言えば、キャラクター重視のJRPGが好きな層だろう。学生ではなく、登場人物がある程度の大人であるため若さ故の衝突や無謀な行動などもなく、そうした面で物語上のストレスはたまらない。「ソウルハッカーズ」の続編として見れば、組織や単語。世界設定が拾われており、開発側も伝承と絡む物語よりもサマナー同士の戦いやキャラクターの面で続編としての要素に重きを置いている。そちらの方面で楽しめれば、古参であっても続編として受け入れられる可能性は高い。
また、ライトな女神転生およびペルソナ派生作品ではあるが、両作品の良さを完全に継いだものではなく、ある意味でどちらの要素も簡略化された別物でもある。それ故に、ライトであるため入門として勧められるが、いわゆるアトラスファンが望んでいたコアな部分は薄いことから、誤解が生じる部分もあるだろう。そう考えると、従来よりも軽い部分に目を瞑って楽しめる玄人向けでもあり、どこかチグハグさがあるのは否めないが、客観的に見ればまずまずの出来だ。満点でなくとも(値段は少々高いが)、決して悪いことではない。
逆に単語こそ拾っているが、前作ほどには神話が根底に置かれていない(限定版に付属している25周年記念のアニバーサリーブックで、開発者自身が神話やグノーシス主義(※)をあまり根底においていないことを明言している)ため、「ソウルハッカーズ」が出た旧時代のアトラスらしい神話や伝承の再解釈、各種悪魔へのリスペクトを求める層には不向きだ。DLCの造魔でさえも新デザインは存在しない。「デビルサマナー」や「ソウルハッカーズ」シリーズで登場したガルガンチュアシリーズでもなく、キンマモンやヨシツネといったゲーム中に登場する悪魔の3Dモデルから、色と一部のモデルを変えただけの使いまわしだ。予算の面でもチャレンジの面でも、悪魔が好きな古参の層に響くとは言い難い。裏を返せば、前作や神話の知識が必要ないので、そうした面ではライトに入りやすくなっている。
※グノーシス主義:人間の本質は至高の神の一部であり、正しい認識(Gnosis)をもって本来あるべきものへ立ち返らねばならないとする思想。アトラス作品では「真・女神転生NINE」の物語で根底に置かれている。「真・女神転生V」では、神々の最下位であるアイオーンのソピアー(ソフィア)が、邪教の世界の主として悪魔合体を担ってくれた。彼女がテーマである「知恵」の名を冠すること。「アルコーンの本質」という文書において、傲慢(ごうまん)な獣を生み出す描写があったことからも、邪教の主として配置された理由が想像できる
神話が根底に置かれていないため、デザイン面から再解釈された悪魔や、新規の悪魔が中ボスとしても登場せず、ボスは基本的にはサマナー(召喚士)と既存の悪魔だ。とはいえ、Aionの概念自体がグノーシス主義から来ているものではあり、コヴェナントも旧約聖書から取られたものではあるので、限りなく薄いが神話の要素は作品の背景に存在している。
オカルトオタクとしてのアトラスファンというよりも、キャラクターに重きを置く層の方が楽しめるのは間違いなく、アトラスをまったく知らないユーザーの方が受け入れやすい点は確かだろう。システムとしても複雑化したプレスターンバトルではなく、全体的にカジュアルに寄せられた。近年のアトラス作品は、敵の弱点を付くことで行動ターンが増える「プレスターンバトル」を採用しており、弱点を突くメリットと突かれたときのデメリットの緊張感に満ちた戦闘が好評を博している。これはPS2の「真・女神転生III NOCTURNE」で初採用されてから手を変え品を変え、現在まで続いていることからも分かるものだ。
ただし、プレスターンバトルは弱点を突かれたときに相手のターンが増加。こちらの攻撃が防がれると敵のターンに切り替わって一方的に攻められるなど、プレイヤー側のデメリットが大きかった。それが難しさにも直結している。本作では、そうしたプレスターンのデメリットを排除。敵の弱点を突くことでスタックがたまり、ターンの最後に強力な総攻撃を行う「サバト」に変化した。敵がサバトを行うことはなく、こちらが弱点を突いても行動ターンが増えないが、逆に弱点を突かれても敵のターンにはならない。レベル差をきちんと埋め、敵の弱点属性を用意する準備を怠らなければ、プレイヤー側が有利なシステムだ。
近年の作品を見ているとプレスターンからの退化にも見えるが、スタッフ的にはまっとうな進化でもある。これは、スタッフの前作である「幻影異聞録♯FE」のセッションと、「真・女神転生DEEP STRANGE JOURNEY」のデビルCO-OP。およびコマンダースキルを組み合わせたバトルだからだ。システム的には「ソウルハッカーズ」から継承されたものではない。パーティ編成も主人公のリンゴと味方サマナー3人の4人パーティで、悪魔たちはスキルを使用する装備品のような扱いになった。前述したサバトを行えば姿は見られるが、棒立ちのあとに突進する程度であり、悪魔を重視する層にはやや物足りないかもしれない。通常の攻撃時には悪魔の姿が見られず、サバト時にランダムで発生する固有の追撃スキルも持っている悪魔が限られている。サバトはパターンも少なく、そのうちスキップしてしまう程度の演出だ。ペルソナを召喚する「ペルソナ」シリーズのバトルよりも、仲魔の印象は薄い。
とはいえ、戦闘の感覚はしっかりと「女神転生」シリーズであり、個人的にも悪魔を装備品にするシステム自体には可能性を感じる。既存の「デビルサマナー」シリーズのパートナー側が主役だと考えれば、悪魔召喚ではなく「神降ろし」で戦う本作のバトルには一定の合理性はあるだろう。反発を招いたのは、戦闘における悪魔の見せ方による問題といえる。
例えば、スキル選択時のウィンドウだけではなく、攻撃時に仲魔が見えるだけでも印象は違う。そこから(専用の悪魔だけでも)味方サマナーと仲魔の掛け合いがあれば、「デビルサマナー」の系譜から続く「ソウルハッカーズ」の続編として見る人は増えたのではないだろうか。配慮が足りないだけで、戦闘のシステム自体は古参でも肯定できる理屈は組めている。もちろん、そこにこだわりがない古参層や新規なら全く問題がないバトルだ。
戦闘における悪魔の活躍には個人的にも物足りなさがあったが、今回は探索時に仲魔と会話できる「悪魔探索」の要素が代替として用意されている。これは、ダンジョンの探索開始時に仲魔たちが散らばり、行き止まりや室内で話しかけることでアイテムの譲渡や回復を行ってくれるシステムだ。仲魔たちが悪魔を紹介してくれることもあり、戦闘中の交渉はなくなったが悪魔会話自体は(簡略化されているものの)継続している。言ってしまえば、いわゆる宝箱やNPCがランダムに配置されているのと変わらないものではあるのだが、ダンジョン内で仲魔と会話できるのは新鮮で、味方と総出で探索している感覚は出ていた。個人的にも、このシステムは本作独自の良さだと思う。会話の内容も、ドッペルゲンガーやDLCで加入できるネミッサ(前作のヒロイン)などに専用の会話が用意されていたり、ゲームの終盤では仲魔たちの会話が変わったりと、それなりに凝っている。小ネタも多く探索時の癒しとしても機能しており、最終決戦に向けてのテンションも盛り上げてくれるだろう。
完全にランダムなのかといえばそうではなく、キーアイテムに関して言えば配置される場所は決まっていた。そのため、分かってしまえば通常のダンジョンでキーアイテムを探す感覚と変わらず、周回しても足止めを食らうことはない。ダンジョンのバリエーションの少なさや、ややユーザーフレンドリーとは言い難いシステム(大マップから施設を選んだ場合は直接施設内へ飛ばせばいいのに、なぜか施設の入口に飛ばされる謎の仕様など)といった気になる面はあるが、キャラクター主体のJRPGとして見れば総じて悪いゲームではない。なぜか、コンフィグをいじらないともっとも快適性が低い状態がデフォルトなので、その印象のまま判断されている部分もあるだろう。カメラ距離は最大まで離し、キャラクターは中央、ロード中のTIPS表示を表示しない設定に変えるだけでも、印象は大きく変わる。客観的には辛めに判断しても普通。本作が好きな人なら良作という評価を下せるものであり、登場するメインキャラクターや彼らの掛け合いが気に入れば、より高く評価できるはずだ。
では、なぜ現状のような世界的に賛否両論の状態になっているかといえば、冒頭で述べたように需要と供給のミスマッチといえる。続編として求めている層の需要と、作り手側の供給に対するズレが、現状の評価に直結してしまったのだ。アトラスのファンが続編として要求していた「ソウルハッカーズらしさ」の分水嶺と、作り手側が「ソウルハッカーズらしさ」だと考える最低ラインに、多くのユーザーとのズレがあったと言ってもいいだろう。
一口に「ソウルハッカーズらしさ」と言っても人によって異なるので、本作がなぜ反発されるのか理解できず、むしろソウルハッカーズらしいという意見も1つの正解である。社会人の年齢層が今どきの話題を語り、サマナーという存在が暗躍する世界で悪魔を使役して戦う者たちがやりとりする物語と、デジタルな存在からの人間のアプローチという作り手が押す部分や、前作やそれ以前の「真・女神転生デビルサマナー」を調べて取り入れた要素(造魔と新月の関係など)や単語、設定に共感を得られれば、本作は「ソウルハッカーズ2」だ。
そうではなく、アトラスの歴史から連綿と続く悪魔や神話の描写。メタバース的なネットワーク要素。そこに、ネイティブアメリカンのアルゴンキン族が伝えてきたマニトゥの伝承と、デジタルな物語が密接に関係していた前作の「ソウルハッカーズ」のように、作品ごとに新たな解釈をされた悪魔と、人間の組織、主人公が三つどもえとなる初代「真・女神転生 デビルサマナー」から続いた系譜を期待すると、本作は「ソウルハッカーズ2」ではない。
歴代の変化とも大きく異なるものなので、続編としてもめるのは個人的にも当然のことだと言わざるを得なかった。タイトルが「ソウル・マトリクス」や「ソウルハッカーズ外伝」などの続編を思わせないものなら印象は違っただろうし、作り手の得意分野を広げたキャラクター主体の表現という意味では、個人的に「幻影異聞録2♯SH」が正しい感覚だ。
英語圏では近年の「ペルソナ」シリーズと比べられることも多く、UIを寄せたことで逆に評価を下げている一面もあった。設定で大風呂敷を広げたものの前作よりもスケールは狭く、続編というよりは同じ世界観の外伝という印象も強いため、2でないほうが受け入れられたと思う。
同じ世界観、デジタル側からのアプローチ、単語を拾ってはいるが、25年という歳月を考慮に入れても、やはり続編というよりは別シリーズなのだ。現状ではSteamのデータを取ると、言語圏によって多少前後するものの約半数から4割の前作ファンに拒絶されている。その反面、これまでのアトラス作品を知らない新規層や、前作を全く知らないファンは純粋に楽しんでいるようだ。しかし、新規層には2という数字が手に取りにくい原因となってあまり届いていない。前作ファンにも新規層にも届きにくく、需要と供給がズレ気味だ。
事態をややこしくしているのは、今回の変化がかつての新作と同様の変化ではないことだろう。自分としては、発売前に「真・女神転生III」や「ペルソナ3」のようなシリーズとしての変化と捉えていたのだが、それらに比べて本作の変遷は異なっていた。「真・女神転生III」は、あくまでも真・女神転生シリーズの延長上としての変化であり、「ペルソナ3」も同様にペルソナシリーズとしての変化として、作品の骨子を残しつつビジュアルやシステムが変わっている。しかし、本作は25年という歳月のせいか、続編というより換骨奪胎されて大幅に変わったリブートと呼ぶほうが正確だ。シリーズの延長線として望まれていた変化よりも激しく変わっている。
デビルサマナーの型という意味では、「葛葉ライドウ」シリーズを挟むと既に1度大きく異なる形式を採用しており、作り手としてはその延長上にあるものとしての意識が働いたのだろう。だが、遊ぶ側は「25年ぶりのソウルハッカーズの続編」として見る人が多かったように見える。すると、どうなるのか。ライドウシリーズを挟んだ変化ではなく、ソウルハッカーズとしての進化が求められ、そこを納得させる説得力が薄いのだ。もしも、25年かけずに2が出た場合、このように変わるのかという視点に欠けていたのかもしれない。
そこを考慮に入れても、フラットに見てもらうためには「2」と付けるべきではなかったと考えている。そうした点を抜いて1つのRPGとして判断すれば、肯定できる作品だ。
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