千葉・南房総ではなぜ、安価な「あわび」の駅弁を提供できたのか?:安房鴨川「あわびちらし」(1250円)(2/3 ページ)
千葉・南房総へ行ったならばぜひ食べたい海の幸。60年も続くロングセラー「あわび」の駅弁、いかがですか?
臨時売店も開設する大盛況! 房総の夏休み
―昔はどのように駅弁を販売していたのですか?
越後貫:草創期はよくわかりませんが、昔は駅弁をはじめ改札内でお土産や牛乳などの売店をやっていたと聞いています。(いまのような冷蔵・冷凍技術が発達していないころは)夏になると自家製のバニラアイスクリームを作っていて、弊社でもよく売れました。(鉄道構内営業)中央会の加盟業者同士でノウハウを教え合って、販売に取り組みましたね。私も勝浦駅のホームで「アイス~アイス~」と声を出して、立ち売りをしたものです。
―昔から房総は、夏場、多くの海水浴客でにぎわったと言いますね。
越後貫:昔は夏になると、房総半島の海に多くのお客様が鉄道でお越しになっていました。房総夏ダイヤという臨時ダイヤが組まれ、さまざまな臨時列車がやって来ました。南総軒も、勝浦の他、御宿(おんじゅく)、鵜原(うばら)両駅に臨時売店を開設していたほどです。準急・急行の時代から、車内販売にも携わっていて、駅弁は本当にたくさん売れました。(当時の始発駅)両国から安房鴨川まで、車内販売のために全区間乗車したものです。
南房総の海女文化を詰め込んだ、贅沢な駅弁!
―昔は、どんな駅弁があったんですか?
越後貫:普通弁当(幕の内弁当)が中心だったのではないかと思われます。ただ、南総軒の幕の内には「とこぶし」を入れていました。正式名称ではありませんが「とこぶし弁当」と呼ばれて評判になりました。ただ、1年を通してではなくて、「とこぶし」が取れる時期だけ入れていましたので、残念ながら入荷のない時期にお越しになったお客様から、「とこぶし弁当はないんですか?」と訊かれることがよくありました。
―どうして「とこぶし」を入れることができたんですか?
越後貫:いまも、南房総には「海女」の文化があります。勝浦にも当時は海女さんがいて、都会へ出荷する商品にはなりにくいものの、味としては遜色ない“キズもの”の魚介類を、海から上がってきた海女さんが、地元の人向けに売りにきたんです。南総軒では、この“キズもの”のとこぶしやあわびを仕入れて、お値打ちな価格で駅弁として販売しました。いまも続く「あわびちらし」は、このころから続くロングセラーなんです。
越後貫薫夫会長が小学生だった昭和30年代にはもうあったという、南総軒が誇るロングセラー駅弁「あわびちらし」(1250円)。見せていただいた昭和43(1968)年の価格表では、何と200円で販売されていました。平成16(2004)年3月、私が当時の駅弁膝栗毛に記事を書いたときでも720円。このお値打ちな価格には、南房総の海女さんが売る“キズあわび”の存在があったというわけなんですね。
Copyright Nippon Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.