キラキラどころじゃない珍ネームが原作とオリジナル映画をつないだ 「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」ポール・キング監督、来日インタビュー(1/2 ページ)
撮影には本当に食べられるチョコレートが使用されています。
映画「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」が12月8日から全国公開。「チャーリーとチョコレート工場」で有名な工場長ウィリー・ウォンカの若き日の物語を「パディントン」シリーズのポール・キング監督が描いています。
基になっているのは英作家ロアルド・ダールによる児童小説『チョコレート工場の秘密』。1971年と2005年にそれぞれジーン・ワイルダー、ジョニー・デップ主演で映画化されていますが、今回の作品はいずれとも直接のつながりはない主人公の若き日を描くオリジナル作品で、夢いっぱいの瞳をキラキラさせたチョコ職人のウォンカをハリウッド注目の若手俳優ティモシー・シャラメが演じています。
映画公開に先駆け、11月中旬に主演ティモシーとウォンカのチョコを狙う謎の紳士ウンパルンパ役のヒュー・グラント、そしてキング監督が来日。ねとらぼでは、脚本も担当したキング監督にインタビュー。いかにしてダール作品“らしさ”を成立させたか、またティモシーやヒューといった注目キャストの撮影秘話までを聞きました。
ダールらしさのカギは珍ネームにあり! オリジナルキャラのネーミング裏側
ロアルド・ダール作品にとって、1つの特徴は“毒っけ”。『チョコレート工場の秘密』でいえば、チョコレート工場へ招待された子どもたちは決して天真らんまんなだけの存在ではなく、彼らがたどる顛末(てんまつ)は散々なもの。また英語話者以外には伝わりにくいものの、ネーミングセンスも秀逸でなかなか自分の子どもにつけたいとは思えない独特なキャラ名がずらり。ダールの意図と英語のニュアンスをくんだ柳瀬尚紀氏による翻訳版では、ベルーカ・ソルトはイボダラーケ・ショッパーに、オーガスタス・グループはオーガスタス・ブクブトリーにそれぞれ訳されていました。
―― 今回の映画は『チョコレート工場の秘密』を基にしたオリジナルストーリー。キング監督は脚本も担当されていますが、ダール“らしさ”をどう再現しようと試みましたか?
ポール・キング監督(以下、キング監督) 『チョコレート工場の秘密』でダールは、別の世界を感じさせる名前を多用していました。バイオレット・ボーレガード(Violet Beauregarde)はとてもフランス的、オーガスタス・グループ(Augustus Gloop)はドイツ人っぽいし、マイク・ティービー(Mike Teavee)はアメリカ人の名前のように聞こえます。ゴールデンチケットを手に入れた子どもたちは、世界のあちこちからやってきたとダールは表現したかったのでしょう。同時にギャグとしても成り立っていて、“グループ”なんてつい吹き出してしまう。現実ではありえませんから。
今回の映画でもダール式命名の再現を試みました。洗濯屋を経営しているのがスクラビット(scrub=洗う)とブリーチャー(bleach=漂白)。どちらも現実では聞かない名前で彼らの仕事を表しています。そろばん(abacus)を使って数字を処理(crunch)しているアバカス・クランチは会計士といった具合に、ちゃんと名前に聞こえるけど現実にはありえないキャラ名を作っていきました。それがダールの世界観を再現するのに役立つと考えたからです。
ただ、一部のキャラクター名は原作と共通しています。例えばチョコレートの町を牛耳る3人組のチョコレート組合、スラグワース、プロドノーズ、フィクルグルーバーは一瞬ですが『チョコレート工場の秘密』に登場するんです。彼らの名前は原作からそのまま拝借しています。もちろん、ウィリー・ウォンカもね。
―― 主人公ウォンカは今回の映画で、偶然出会った少女・ヌードルと絆を育みます。2人がだんだん周囲を巻き込み、まるで家族のような関係を作っていくさまが印象的で、血のつながりではなく自分で選んでファミリーを作っていくいわばchosen familyのような、現代らしいテーマも感じさせました。さまざまなタイプの“家族”が描かれるこの映画で、監督が伝えたかったことは?
キング監督 『チョコレート工場の秘密』において興味深いのは、ウィリー・ウォンカは工場で完全に1人ぼっち。ウンパルンパはいるにしても、広い工場でたった1人の人間だということです。だから彼の過去はどんなものだったのか? との問いかけからスタートしました。
私自身、ウィリーのような孤独な人間にとても興味をそそられます。ウィリーは世界中を旅して、各地で友人を得てきた。だけど旅の仲間はいないし、家族もいないんです。チョコレートの町へやってきたウィリーはそこで仲間を見つけます。ヌードルは明らかに彼にとって誰より大切な友人です。それだけではなくて、洗濯屋で出会った人々も。ですが『チョコレート工場の秘密』に至るまでに、いずれ別れはやってくる。
私は人生における、出会いと別れの物語に引かれるんです。誰しも人生のある地点で出会った相手と、つかの間一緒の時間を過ごすけれどやがて別れは訪れるものです。ウィリーがどれだけ家族を、愛を求めていたのか。ネタバレはしたくないけれど、この映画のラストシーンで私は泣いてしまいました。
ティモシー・シャラメの新境地 「まるで天啓のような存在でした」
ウォンカ役を演じるのはティモシー・シャラメです。プリンス・オブ・ハリウッドとも称される若手の人気実力派で、2014年に「インターステラー」で主人公の息子を演じて注目されると2017年には映画「君の名前で僕を呼んで」で第90回アカデミー賞で主演男優賞にノミネート。以降も「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」(2019)「DUNE/デューン 砂の惑星」(2021)と順調にキャリアを積み上げています。
―― ウォンカを演じたティモシー・シャラメの印象は? この映画では歌って踊って、八面六臂の活躍を見せています。
キング監督 何てことでしょう。ティモシーはすばらしい俳優で、同世代でもトップの1人とみています。彼には心底驚かされました。この映画は、彼が過去に参加してきた作品とは明らかに異なるタイプの作品です。ふんだんにある歌と踊りを含むシーンには技術が要求されますし、それと同時に役であり続けなくてはならない。ただ歌ってダンスするだけではなく、感情を表現しなくてはいけないんです。
ティモシーが(主題歌の)「ピュア・イマジネーション」を歌い出した瞬間に、私は彼に夢中になってしまいました。ヌードルを見つめる視線ときたら! とても美しい場面になりました。
ティモシーを俳優として特別な存在たらしめているのは、自分自身の魂の深い部分にまで到達し、感情を表現できることです。ニュアンスや面白さまで完璧にコントロールしつつ、パワフルなパフォーマンスができる。得難い存在ですよ。
―― ティモシー自身からアイデアを提供するといったこともあったのでしょうか?
キング監督 もちろんです。何といっても私にとって直近の2作品は主演がクマだったから、主演が人間というだけでありがたいものでした(笑)。
役者としてのティモシーの長所には、自分のパフォーマンスに関して非常によく分析していることも含まれます。テイクごとに私と一緒にモニターで確認していたのですが、彼は賢くて自分の演技がどう映るか、また映らないかを隅々まで把握しているんです。彼はとても利口な役者で、カメラの前でどう振る舞えば効果的か熟知しているので頼りになりました。まるで天啓のような存在でしたよ。
―― 脚本はどのように完成させたのでしょうか?
キング監督 この作品の脚本は、私とサイモン・ファーナビーによるもので、サイモン自身もすばらしい喜劇役者。動物園の警備員として出演しています。
私たちは脚本を書く過程で、せりふをより優れたものにするべくお互い何度も何度も声に出して仕上げていきました。おかげで台本を読むと自然にサイモンの声でせりふが再生されるように。だからいざ撮影となったときは、サイモン以上に面白くせりふを言ってくれるだろうかと不安になっていたほどなんです。
しかし出演者はみんな人並外れた才能の持ち主で、脚本をさらに新しいレベルまで引き上げてくれました。とても喜ばしいことです。まるで駄菓子屋にきた少年のような心境でしたよ。キャスト全員がすばらしい喜劇役者として、想像以上のパフォーマンスを見せてくれたんです。
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