“子ども時代に、大切なものを奪われてはいけない” 「屋根裏のラジャー」西村義明 1万4000字インタビュー(3/10 ページ)
プロデューサー自らが脚本を手掛けた理由と、本編で描ききれなかったキャラクターの背景とは。
――具体的には、脚本のどういったところに、ご自身で作り上げたところがあったのでしょうか。
一例をあげれば、原作では、アマンダは特別な想像力の持ち主として描かれていて、他の子は想像力がないから図書館からイマジナリを借りているということになっていた。ただ、子どもの想像力に優劣なんてないです。だとすれば、アマンダがなぜあのような想像をできるかという別の理由を仕立てる必要があります。想像は現実からしか生まれませんから、アマンダの現実に想いをはせるわけですが、原作にはアマンダの描写は少ない。そこで付け加えたのが、アマンダの家を本屋にすることでした。
小学校のときに松村文川堂という今もある本屋に住んでいる友だちがいたんですが、1階が本屋で、2階が家だったんですよ。 毎週土曜日に松村くんの家に行くと、火曜にしか発売されない「週刊少年ジャンプ」が先んじて読めたんです。なので、土曜日によく遊びに行っていました(笑)。
しかも、当時連載していた「キン肉マン」では、自分が考えた超人ヒーローを漫画に登場させてくれる企画があったんです。よし、俺たちも超人を作って載せてもらおうと松村君と話して、じゃぁ、どんな超人にしようか、そうだ昆虫超人だ!とまではいいんですが、数多の昆虫を知っているわけではない。そうしたら、松村君が「下に昆虫図鑑があるよ」と言って、1階の本屋から昆虫図鑑を何冊も持ってきてくれるんです。「この家には知りたいことがすべてある」って興奮しました。その記憶をたどって、アマンダが想像したすべては、アマンダの実体験から生まれたものばかりでなくて、本屋の本たちであり、本を愛する親から読み聞かせられた数多の物語が礎にあるという状況を作ったんです。
例えば、スープの出汁にはなりたくないってのは、グリム童話のカラスとネズミとソーセージの寓話とか、そういった具合に。運よくイギリスにも住居が一体の書店があることが分かりまして本屋を舞台に採用しました。1階、2階と屋根裏の縦構造も、過去・現在・未来というような寓意を込められる。というよりも、ファンタジーって結果として寓意を内包してしまう物語形態とも言えますから。
――そのときから、ご自身が身近な場所からキャラクターを作り上げていたのですね。
そんな大したものではないです。ただ、今回の映画では、「なぜ、主人公はこのラジャーじゃなきゃダメだったのか」が重要ですよね。遊び相手として女の子ではなくて男の子を選んだ理由があるのか。なぜ、人型の友だちを想像したのかとか。なぜ飛べないのか、なぜクローゼットに住まわせているのか、とか。それらは原作にはないんですよ。
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