「死産したアザラシ」を100年後の未来へ―― “解剖”から見えた国立科学博物館のウラ側(1/3 ページ)

解剖は未来の命をつなげる大切な作業。

» 2018年09月01日 11時00分 公開
[あだちまる子ねとらぼ]

 『月刊!スピリッツ』(小学館)で連載中の人気漫画『へんなものみっけ!』(早良朋)とコラボした企画展標本づくりの技(ワザ) −職人たちが支える科博−が9月4日から国立科学博物館(東京・上野)で開催されます。

へんなものみっけ 標本づくりの技 博物館の“ウラ側”を知れる

 ねとらぼ生物部ではそれに合わせて、「国立科学博物館 筑波研究施設」(茨城県つくば市)を取材! 解剖調査の現場に立ち会ったり、大迫力の標本の山々に驚かされたり、実際に施設で研究をしている先生の生きものへの思いに感動したり……。企画展をますます楽しめる、貴重な研究施設の“ウラ側”をお届けします。

へんなものみっけ 標本づくりの技 『へんなものみっけ!』(C)早良朋/小学館

漫画『へんなものみっけ!』

 市役所から博物館に出向することになった“ごく普通”の主人公、薄井透と、日夜獲物(資料)を求めて海へ山へ飛び出す若き鳥類研究者、清棲あかりを中心に、博物館で働く個性豊かな研究者たちや、博物館の日常を描いた作品。


へんなものみっけ 標本づくりの技 「標本づくりの技(ワザ) −職人たちが支える科博−」

企画展「標本づくりの技(ワザ) −職人たちが支える科博−」とは

 職人たちによって作られた数々の標本や、あまり知られていない標本づくりの「技(ワザ)」、貴重な研究成果など、漫画『へんなものみっけ』でも描かれている“博物館のウラ側”が知れる企画展。自然史や科学技術史研究の中核拠点として、研究施設と標本収蔵施設を置く「筑波研究施設」にいるような臨場感を味わえる。



筑波研究施設の作業部屋

 博物館に展示される標本は、研究者や職人の手によって作られている……ということは知っているけれど、実際どんな過程を経て作られていくのか、どのような研究に生かされているのかは知らないもの。その中でも“解剖”は生物を「標本化」する上でよく行われる作業で、国立科学博物館で展示されている標本も“解剖”を経て作られるものが多くあります。

 今回私たちは、そんな「標本化」のウラ側を見るべく、筑波研究施設の作業部屋でアザラシの解剖に立ち会ってきました。案内をしてくれるのは、国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹で、海棲哺乳類のストランディング(海棲哺乳類が岸に打ち上げられること)の原因を病気という観点から研究している田島木綿子先生。とっても気さくでチャーミングな方です。

へんなものみっけ 標本づくりの技 少し薄暗くて不気味

へんなものみっけ 標本づくりの技 ここが“作業部屋”

へんなものみっけ 標本づくりの技 漫画の中で描かれていた作業部屋

 案内された作業部屋は小さな鳥の標本が積まれた廊下の先にあって、ちょっぴり不気味。見たことのない器具や積み上げられた資料、何げなく置かれたシマウマやマレーバクの毛皮に圧倒されます。

へんなものみっけ 標本づくりの技 シマウマの毛皮が……

アザラシの解剖

 今日ここで解剖調査を行うのは、水族館から引き取った死産とみられるゴマフアザラシ。体は小さく、毛皮はまだ真っ白の状態です。その死体を台の上に置き、体重や体長、眼球の大きさまで細かに計測していく田島先生。肺が膨らんだ形跡があるかを見て、生まれて呼吸をしてから死んだのか、死んだ状態で生まれたのかを確認するなどして、死因を推測していきます。

へんなものみっけ 標本づくりの技 解剖するゴマフアザラシ(オス) 死産と思われる

へんなものみっけ 標本づくりの技 細かに計測していく田島先生

へんなものみっけ 標本づくりの技 記録方法はアナログ。それぞれの動物専用のシートに手書きで記入していく

 メスを入れられていくアザラシの姿に最初こそは目を背けていたものの、田島先生の手さばきや解説の面白さに前のめりになっていく筆者たち。漫画『へんなものみっけ!』の第1話でも、交通事故で死んだカモシカを手際よく解剖しながら、研究の意義や未来を雄弁する清棲の姿に感銘を受ける薄井のシーンが印象的ですが、筆者たちもまさにその状態です。

へんなものみっけ 標本づくりの技 きれいに皮を剥がしていく田島先生(※クリックでモザイクが外れます)

へんなものみっけ 標本づくりの技 初めは目を背けていた筆者たちも気付けば食い入るように様子を見守っていた(※クリックでモザイクが外れます)

へんなものみっけ 標本づくりの技 死因を推測しながら解剖をしていく田島先生の姿はまるで清棲(作中のキャラ)のようでした

へんなものみっけ 標本づくりの技 博物館の役割

 きれいに皮を剥きながら、アザラシの生態や解剖から剥製までの流れ、実物に忠実で生態を生かした剥製づくりを心掛けていることを語る田島先生。アザラシやクジラなどの海棲哺乳類が私たち人間が保有する臓器と同じ臓器を持っているものの、泳ぐ上で邪魔になってしまうことから睾丸を体内に収納する進化を遂げた、という話に驚いていると「触って確かめてみてごらん、人間と同じだから!」と手袋を渡され睾丸の感触を確かめてみることになりました。同じでした。


科博を支えるもの

へんなものみっけ 標本づくりの技 骨を煮る晒骨器。人間の骨にも使われる装置だが、ここにあるものは大型動物の解剖用に作られたもの

へんなものみっけ 標本づくりの技 中に入っている骨 ラーメン屋さんから漂う匂いに少し似ていた……

へんなものみっけ 標本づくりの技 作業部屋の近くにある冷凍庫

へんなものみっけ 標本づくりの技 パンパンなのも同じだった

 この他に、肉を煮出して骨から分離するための晒骨器など、普段は見られない博物館のウラ側をたっぷりのぞいた筆者たち。これらの管理は、研究者だけでなく非常勤の職員やボランティア、学生たちによって支えられているものだということを一番伝えたいと田島先生は話してくれました。

へんなものみっけ 標本づくりの技 解剖は未来の命をつなげる大切な作業(※画像一部加工しています)

へんなものみっけ 標本づくりの技 100年、200年後に残るかもしれない

 動物を「標本化」をする上で欠かせないプロセスの一つである“解剖”は、展示のためだけではなく、未来の命をつなぐ研究に生かされる大切な作業。100年、200年後に残るかもしれないさまざまな標本を作る職人たちの技(ワザ)を垣間見た貴重な時間でした。


試し読み:『へんなものみっけ!』 第1話

へんなものみっけ

へんなものみっけ

へんなものみっけ

へんなものみっけ

へんなものみっけ

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2409/15/news052.jpg 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
  2. /nl/articles/2409/14/news009.jpg そうはならんやろ “バラの絵”を芸術的に描いたら……“まさかの結果”が200万再生 「予想を超えてきた」【海外】
  3. /nl/articles/2409/16/news020.jpg 「猛犬注意! 触らないでください」と貼られたフェンスをのぞいたら…… 吹き出し注意の光景に「ちょっと!www」「休憩中?」
  4. /nl/articles/2409/16/news032.jpg 100均の紙粘土でこのクオリティーを!? 『ファイブスター物語』のモーターヘッドを制作、野生の原型師に称賛
  5. /nl/articles/2409/16/news010.jpg 100均のクッションゴム、まさかの使い方に目からウロコ 家中の“プチストレス解消法”に「思いつかなかった!」「これはすごい」
  6. /nl/articles/2409/16/news037.jpg 「とんでもなく遠い」 空港に向かうドライバーを絶望させる“衝撃の標識”が話題 「なぜそこに」「飛行機が必要そうな距離」
  7. /nl/articles/2409/11/news120.jpg 「やば絵文字」見つけた―― LINEで送られてきた“見たこともない絵文字”の正体が予想外 「え、ほしい」「どうやって使うんや」
  8. /nl/articles/2409/16/news018.jpg 88歳女性「誰もしてないようなメッシュにしたい」→驚がくの大変身が850万再生 「どぅえええええ?!」「カッコ良すぎて憧れます」
  9. /nl/articles/2409/16/news034.jpg フーセンガムの「あたり」を磨き続けたら…… “とんでもない発想”が斜め上すぎる 「もうええやろw」「今までで一番理解できない」
  10. /nl/articles/2409/16/news031.jpg 仙猫カリン様そっくりだった子猫、3年後には…… 「本物だ」「想像以上にカリン様」と反響を呼ぶ成長っぷりが10万いいね
先週の総合アクセスTOP10
  1. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  2. 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
  3. 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
  4. 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声
  5. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  6. 猛毒ガエルをしゃぶった30分後、口がとんでもないことに…… 直視できない異常症状に「死なないで」「この人が苦しむってよっぽど」
  7. 33歳の「西郷どん」二神光さん、バイク転倒事故での急逝に衝撃 1年前の共演者は“願い”明かし「叶わないなんて」
  8. 「コレ入れると草が生えない」 外構工事のプロがやっている“究極の雑草対策”に注目
  9. 「へー知らんかった」 わずか7年で“消えた駅” 東京メトロが明かす“知れば納得の歴史” 「だからあんなに……」
  10. 秋葉原のトレカ店が“買い占め被害” 近隣店とその常連客が共謀し“全口購入の人員確保” 「大変遺憾で残念な限り」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ったら……飼い主も驚きの姿に「もはや魚じゃない」「もう家族やね」 半年後の現在について飼い主に聞いた
  2. 「もうこんな状態」 パリ五輪スケボーのメダリストが「現在のメダル」公開→たった1週間での“劣化”に衝撃
  3. 「コミケで出会った“金髪で毛先が水色”の子は誰?」→ネット民の集合知でスピード解決! 「優しい世界w」「オタクネットワークつよい」
  4. 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  5. 「米国人には想定できない」 テスラが認識できない日本の“あるもの”が盲点だった 「そのうちアップデートでしれっと認識しそう」
  6. ヒマワリの絵に隠れている「ねこ」はどこだ? 見つかると気持ちいい“隠し絵クイズ”に挑戦しよう
  7. 「昔はたくさんの女性の誘いを断った」と話す父、半信半疑の娘だったが…… 当時の姿に驚きの770万いいね「タイムマシンで彼に会いに行く」【海外】
  8. 鯉の池で大量発生した水草を除去していたら…… 出くわした“神々しい生物”の姿に「関東圏では高額」「なんて大変な…」
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「なんでこんなに似てるの」 2つのJR駅を比較→“想像以上の激似”に「駅名だけ入れ替えても気づかなそう」