“個人の時代”に個人で出来ないその先へクリエイターズ・サバイバル アーティストの戦略教科書 第3回 loundraw×石井龍(2/2 ページ)

» 2019年09月26日 18時15分 公開
前のページへ 1|2       

その場しのぎではない信頼関係の築き方

―― アーティストとしてもマネジャーとしても一般的なそれとは異なる道を歩むloundraw氏と石井氏。唯一無二たるそれぞれの仕事にやりがいや難しさはどのように感じているのだろうか、マネジャーでありながらプロデューサーとしての顔も持ち、現場に積極的に関わる石井氏の場合。

石井 単純に楽しいだけではすまないことがほとんどですが、それでもとても楽しいですよ。

 何が楽しいか一言では表せないですが、僕の周りには仕事を仕事と割りきって、仕事だけをやりますというスタンスの人はあまりいないです。課されたミッションを達成することは仕事の取り組み方として当然必要ですが、気持ちの面では趣味の延長というか、もともと映画や音楽といったカルチャーが好きだからというところから出発している人が多いので、楽しみながら仕事をできているのかなと思います。ありきたりかもしれないですが、だからこそ充実感も高いです。

 逆に言えば休日と仕事がスパッと分けられるものでもないし、こだわろうと思えばどこまでもこだわれてしまうので、そうやって生活と仕事がミックスしてくるのに抵抗がある人には大変だなとも思います。

 とはいえ仕事として向き合っている以上、全てが自分の思い通りにいくこともなく、誰かに意思や時間を支配されていると考えてしまう瞬間も自分自身多少あると思います。そこをどうポジティブに変換できるかは仕事の向き合い方として大切ですし、総じてメンタリティーの強さは重要ですね。

クリエイターズ・サバイバル loundraw 石井龍 イラストレーター ▲loundraw氏の代表作の一つである『君の膵臓をたべたい』(著者:住野よる)のイラスト。実写映画、アニメ映画化もされた

―― 見ようによっては壮絶にも見えるクリエイティブの現場に挑む上で求められる強靭(きょうじん)なメンタリティ、それを養成する秘訣(ひけつ)や日々の姿勢とは。

石井 僕は突き詰めて考えたいタイプなので、日々のルーティーンやマインドセットも厳格に定めているのですが、自分だけでなく周りにもそれを押し付けようとするところがあります(笑)。

loundraw 「走れ」とかよく言ってきますね(笑)。

石井 言う(笑)。loundrawに関していうと、創作に集中するあまりそのとき生み出している作品性がメンタルに影響を与えたり、場合によってはネガティブな思考になる場合もあるんです。それはそういうものとして作家としては自然な変化ですが、クリエイターがネガティブになったときにマネジメントまで一緒にネガティブの穴に入ってしまうと、われわれの役割はなんなのかとなりますよね。そこはちゃんと穴の外で命綱を握っているのが僕らの役目だと思っています。

 とはいえ、これはただの個人的なスタンスですけど、マネジメントはクリエイターの前では絶対にネガティブになってはいけないと思います。精神が強くなくてはいけなくて、そのために自分で自分を整えることはやはり普段から意識しています。

―― 仕事のやりがいと難しさ。イラストレーションを中心に、多彩な表現に挑むloundraw氏の場合。

loundraw やりがいは自分が作ったものや思いが世に出ていくこと。

 もはや僕の作品は僕個人の声だけではなく、いろんな人の声を代表するような形になっているのですが、それでも特別ですし、すごくうれしくて光栄なことだなと思っていて、それができているのはやはり楽しい。

 その一方で、現代では世間の目や評価というものが作品にどうしてもひもづいてしまう運命にあるので、自分の考えと世間の評価との壁がだんだんなくなってくるようにも思えてきます。それによって制作や仕事における難しさというよりは、「自分は何をしたいんだろう?」という根本的な悩みに陥ることがあるんです。

 つらいことはしたくないですが、絵から逃げ出せば楽になるのかというとそうではなく、結局どういう人生の終わり方をしたかったのかと考え出してしまったりしますね。

 お金が欲しかったのか、作品が出したかったのか、隣に大事な人がいればそれでよかったのか、と。

石井 最近のloundrawは自分の感情を作品に落とし込むように変化している印象があります。なので、思い詰めてしまうこともあるのかなと。

 そのときにこぼれてしまうネガティブな言葉は本心で言っているのか、勢いで言っているのかなどいろいろと感じることもあって、真意はある程度くみ取れても全部は理解できません。

 クリエイターとマネジャーとはいえ、どうしても僕たちは個人個人違う人間なので理解し合えない部分がある。ですが、それを越えて信頼しあうためには向き合うしかないですよね。

 クリエイターさんによってさまざまな向き合い方があると思いますが、loundrawに関しては同じ時間を過ごすことが大切だと思っています。その場しのぎの励ましはいくらでも言えますけど、そうしないことによって深まっていく信頼もありますから。

クリエイターズ・サバイバル loundraw 石井龍 イラストレーター ▲お互いの信頼関係が見える取材であった

―― 今でこそ良好で、どこにもない独特の信頼を築き上げた2人だが、出会いのときはお互いをどう思っていたのだろうか。

石井 あんまり話してないよね?(笑)

loundraw そうですね。最初は石井さんが直接担当してくれたわけじゃないので、第一印象は端で議事録を書いている人でした。

石井 そのときは今ほど深く関わってはいなかったです。その後運命的な巡り合わせがあってあらためてloundrawを担当することになりました。

 最初は担当できないと言っていたんですよ。そのときは別に自分が持っているプロジェクトがあり、彼を担当することで僕のやりたかったことが全部できてしまうからきっと入れ込みすぎてしまうと思ったんです。

 なので会社全体を考えたうえでの判断としてやらない方がいいかもと思ったのですが、それだけ強い思いがあるならやりなよと言ってもらえました。

 実際進んでみたらなんとかやれているので、今となってはチャレンジして良かったですね。後押ししてくれた代表をはじめ会社のスタッフ一同にも感謝しています。

loundraw スポーツの話もそうですが、石井さんは体育会系の文脈を持ちつつも文化とかアーティストのことを考えられる人だなとは最初から思っていました。それはすごく珍しいことで。

 そもそもloundrawは何をしたいのかみたいな話をすごくしてくれて、単純にアーティストとしてではなく、一人の人間として知ろうとしてくれているんだなと思いましたし、すごく信頼できたんです。

 その上で、どこまでも親身というわけではなく、自分が踏み込めない相手の領域にも意識がある人でもあって。「最終的に人は自分で助かるしかない」ってポリシーを著しく感じることがあります。僕の愚痴は聞いてくれますけど、薄い励ましとかは意味がないから言わないところとか。

石井 根本的な解決はやっぱり自分にしかできないからね。もう今日は全部やめちゃって飲みにいこうぜ! とか声をかけることもたぶん大切なのですが、それじゃ行き着く先が見えてしまいます。また同じ状況になったときに、場当たり的な対処では次に進めない。

 ですが、loundrawしかり、選ばれし者は越えなきゃいけない壁をちゃんと伝える方がいいと思っています。その瞬間はつらいでしょうけど、乗り越えた先に強くなれる。最終的にどちらがいいかといったら、強くなれた方がいいでしょうから。それに、乗り越えられると思っているからこそ伝えます。もちろん心の中では「ごめんね」と思っていますけどね(笑)。

クリエイターズ・サバイバル loundraw 石井龍 イラストレーター

―― 石井氏はマネジャー、プロデューサーとしてだけでなく、もはやloundraw氏を導く教育者的な立場も持ち合わせているように見えた。

loundraw 石井さんは東京の父ですからね。東京に出るにあたっては、わざわざ地元まできて両親にあいさつもしてくれましたし(笑)。

石井 そのときはまだ22歳の学生だったので、ご両親も心配するだろうなと思ってのことです(笑)。もしかしたら普通のアーティストとマネジャーという距離感ではないかもしれませんが、僕のスタイルとして一緒に活動するのであればとことん付き合おうと思っています。loundrawに限らず一緒にプロジェクトを動かすメンバーとは、できる限り一緒に働きたいですし、腹を割って話せる関係性を築きたいですね。

 それが良いと受け入れてくれるタイプのアーティストもいれば、一人で作品に向き合いたい人もいる。loundrawは普段は孤高の存在で緊張感があるので、少しでも自分の素を出せる場所があると良いと思います。なので、みんなで遊びにいったり、よくサッカー観戦にも行くんです。

クリエイターズ・サバイバル loundraw 石井龍 イラストレーター

―― お互いに対する強いリスペクトを感じる2人だが、それ以外にも生き方やワークスタイルにおいて参考にする人物はいるのだろうか。

loundraw 僕はあまりないです。

 モデルケースがないですし、そもそも誰かのようになりたいとこの仕事に決めたわけではないですから。逆に事務所の方々などの日々の働き方をみて、アーティストとしてこれをもう少しできたら面白くなるのかなと考えることもあるので、事務所の方々に勉強させてもらっているかなとは思いますね。

石井 僕もモデルケースはないのですが、そもそもこれがしたいというものが明確にはなかったんですよ、ずっと。

 編集者になりたくて編集者になる、デザイナーになりたくてデザイナーになるという願いのかなえ方もあると思うのですが、僕はそういう職業に憧れるのではなく、こういう人と働きたいという気持ちだけがありました。

 それは自分が目標とするような人や友人などで、そういう人たちと一緒に何かがしたいという気持ちが前提にあったので、誰かをリスペクトするということでいうと、今一緒にいる人たちがそうで、仕事もプライベートもなく付き合うので関係も濃くなりがちです。

―― 以上で前編をお届けした。後編ではSNSなどによって変貌した現代カルチャーシーンを行く上でのそれぞれの考えを擦り合わせる中で、未来のクリエイターの道しるべとなる提言を探っていく。

クリエイターズ・サバイバル loundraw 石井龍 イラストレーター クリックで後編を読む

(聞き手・取材:オグマフミヤ / 編集:いちあっぷ編集部)


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. /nl/articles/2412/18/news145.jpg “月収4桁万円の社長夫人”ママモデル、月々の住宅ローン支払額が「収入えぐ」と驚異的! “2億円豪邸”のルームツアーに驚きの声も「凄いしか言えない」
  3. /nl/articles/2412/16/news079.jpg “プラスチックのスプーン”を切ってどんどんつなげていくと…… 完成した“まさかのもの”が「傑作」と200万再生【海外】
  4. /nl/articles/2412/17/news060.jpg 100均のファスナーに直接毛糸を編み入れたら…… 完成した“かわいすぎる便利アイテム”に「初心者でもできました!」「娘のために作ってみます」
  5. /nl/articles/2412/17/news197.jpg 「巨大なマジンガーZがお出迎え」 “5階建て15億円”のニコラスケイジの新居 “31歳年下の日本人妻”が世界初公開
  6. /nl/articles/2412/17/news078.jpg 鮮魚コーナーで半額だった「ウチワエビ」を水槽に入れてみた結果 → 想像を超える光景に反響「見たことない!」「すげえ」
  7. /nl/articles/2412/18/news059.jpg 「奥さん目をしっかり見て挨拶してる」「品を感じる」 大谷翔平&真美子さんのオフ写真集、球団関係者が公開【大谷翔平激動の2024年 「妻の登場」話題呼ぶ】
  8. /nl/articles/2412/18/news015.jpg 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  9. /nl/articles/2411/25/news189.jpg 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」
  10. /nl/articles/2412/18/news056.jpg 日本人ならなぜか読めちゃう“四角形”に脳がバグりそう…… 「なんで読めるん?」と1000万表示
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」