“個人の時代”に個人で出来ないその先へ:クリエイターズ・サバイバル アーティストの戦略教科書 第3回 loundraw×石井龍(2/2 ページ)
その場しのぎではない信頼関係の築き方
―― アーティストとしてもマネジャーとしても一般的なそれとは異なる道を歩むloundraw氏と石井氏。唯一無二たるそれぞれの仕事にやりがいや難しさはどのように感じているのだろうか、マネジャーでありながらプロデューサーとしての顔も持ち、現場に積極的に関わる石井氏の場合。
石井 単純に楽しいだけではすまないことがほとんどですが、それでもとても楽しいですよ。
何が楽しいか一言では表せないですが、僕の周りには仕事を仕事と割りきって、仕事だけをやりますというスタンスの人はあまりいないです。課されたミッションを達成することは仕事の取り組み方として当然必要ですが、気持ちの面では趣味の延長というか、もともと映画や音楽といったカルチャーが好きだからというところから出発している人が多いので、楽しみながら仕事をできているのかなと思います。ありきたりかもしれないですが、だからこそ充実感も高いです。
逆に言えば休日と仕事がスパッと分けられるものでもないし、こだわろうと思えばどこまでもこだわれてしまうので、そうやって生活と仕事がミックスしてくるのに抵抗がある人には大変だなとも思います。
とはいえ仕事として向き合っている以上、全てが自分の思い通りにいくこともなく、誰かに意思や時間を支配されていると考えてしまう瞬間も自分自身多少あると思います。そこをどうポジティブに変換できるかは仕事の向き合い方として大切ですし、総じてメンタリティーの強さは重要ですね。
―― 見ようによっては壮絶にも見えるクリエイティブの現場に挑む上で求められる強靭(きょうじん)なメンタリティ、それを養成する秘訣(ひけつ)や日々の姿勢とは。
石井 僕は突き詰めて考えたいタイプなので、日々のルーティーンやマインドセットも厳格に定めているのですが、自分だけでなく周りにもそれを押し付けようとするところがあります(笑)。
loundraw 「走れ」とかよく言ってきますね(笑)。
石井 言う(笑)。loundrawに関していうと、創作に集中するあまりそのとき生み出している作品性がメンタルに影響を与えたり、場合によってはネガティブな思考になる場合もあるんです。それはそういうものとして作家としては自然な変化ですが、クリエイターがネガティブになったときにマネジメントまで一緒にネガティブの穴に入ってしまうと、われわれの役割はなんなのかとなりますよね。そこはちゃんと穴の外で命綱を握っているのが僕らの役目だと思っています。
とはいえ、これはただの個人的なスタンスですけど、マネジメントはクリエイターの前では絶対にネガティブになってはいけないと思います。精神が強くなくてはいけなくて、そのために自分で自分を整えることはやはり普段から意識しています。
―― 仕事のやりがいと難しさ。イラストレーションを中心に、多彩な表現に挑むloundraw氏の場合。
loundraw やりがいは自分が作ったものや思いが世に出ていくこと。
もはや僕の作品は僕個人の声だけではなく、いろんな人の声を代表するような形になっているのですが、それでも特別ですし、すごくうれしくて光栄なことだなと思っていて、それができているのはやはり楽しい。
その一方で、現代では世間の目や評価というものが作品にどうしてもひもづいてしまう運命にあるので、自分の考えと世間の評価との壁がだんだんなくなってくるようにも思えてきます。それによって制作や仕事における難しさというよりは、「自分は何をしたいんだろう?」という根本的な悩みに陥ることがあるんです。
つらいことはしたくないですが、絵から逃げ出せば楽になるのかというとそうではなく、結局どういう人生の終わり方をしたかったのかと考え出してしまったりしますね。
お金が欲しかったのか、作品が出したかったのか、隣に大事な人がいればそれでよかったのか、と。
石井 最近のloundrawは自分の感情を作品に落とし込むように変化している印象があります。なので、思い詰めてしまうこともあるのかなと。
そのときにこぼれてしまうネガティブな言葉は本心で言っているのか、勢いで言っているのかなどいろいろと感じることもあって、真意はある程度くみ取れても全部は理解できません。
クリエイターとマネジャーとはいえ、どうしても僕たちは個人個人違う人間なので理解し合えない部分がある。ですが、それを越えて信頼しあうためには向き合うしかないですよね。
クリエイターさんによってさまざまな向き合い方があると思いますが、loundrawに関しては同じ時間を過ごすことが大切だと思っています。その場しのぎの励ましはいくらでも言えますけど、そうしないことによって深まっていく信頼もありますから。
―― 今でこそ良好で、どこにもない独特の信頼を築き上げた2人だが、出会いのときはお互いをどう思っていたのだろうか。
石井 あんまり話してないよね?(笑)
loundraw そうですね。最初は石井さんが直接担当してくれたわけじゃないので、第一印象は端で議事録を書いている人でした。
石井 そのときは今ほど深く関わってはいなかったです。その後運命的な巡り合わせがあってあらためてloundrawを担当することになりました。
最初は担当できないと言っていたんですよ。そのときは別に自分が持っているプロジェクトがあり、彼を担当することで僕のやりたかったことが全部できてしまうからきっと入れ込みすぎてしまうと思ったんです。
なので会社全体を考えたうえでの判断としてやらない方がいいかもと思ったのですが、それだけ強い思いがあるならやりなよと言ってもらえました。
実際進んでみたらなんとかやれているので、今となってはチャレンジして良かったですね。後押ししてくれた代表をはじめ会社のスタッフ一同にも感謝しています。
loundraw スポーツの話もそうですが、石井さんは体育会系の文脈を持ちつつも文化とかアーティストのことを考えられる人だなとは最初から思っていました。それはすごく珍しいことで。
そもそもloundrawは何をしたいのかみたいな話をすごくしてくれて、単純にアーティストとしてではなく、一人の人間として知ろうとしてくれているんだなと思いましたし、すごく信頼できたんです。
その上で、どこまでも親身というわけではなく、自分が踏み込めない相手の領域にも意識がある人でもあって。「最終的に人は自分で助かるしかない」ってポリシーを著しく感じることがあります。僕の愚痴は聞いてくれますけど、薄い励ましとかは意味がないから言わないところとか。
石井 根本的な解決はやっぱり自分にしかできないからね。もう今日は全部やめちゃって飲みにいこうぜ! とか声をかけることもたぶん大切なのですが、それじゃ行き着く先が見えてしまいます。また同じ状況になったときに、場当たり的な対処では次に進めない。
ですが、loundrawしかり、選ばれし者は越えなきゃいけない壁をちゃんと伝える方がいいと思っています。その瞬間はつらいでしょうけど、乗り越えた先に強くなれる。最終的にどちらがいいかといったら、強くなれた方がいいでしょうから。それに、乗り越えられると思っているからこそ伝えます。もちろん心の中では「ごめんね」と思っていますけどね(笑)。
―― 石井氏はマネジャー、プロデューサーとしてだけでなく、もはやloundraw氏を導く教育者的な立場も持ち合わせているように見えた。
loundraw 石井さんは東京の父ですからね。東京に出るにあたっては、わざわざ地元まできて両親にあいさつもしてくれましたし(笑)。
石井 そのときはまだ22歳の学生だったので、ご両親も心配するだろうなと思ってのことです(笑)。もしかしたら普通のアーティストとマネジャーという距離感ではないかもしれませんが、僕のスタイルとして一緒に活動するのであればとことん付き合おうと思っています。loundrawに限らず一緒にプロジェクトを動かすメンバーとは、できる限り一緒に働きたいですし、腹を割って話せる関係性を築きたいですね。
それが良いと受け入れてくれるタイプのアーティストもいれば、一人で作品に向き合いたい人もいる。loundrawは普段は孤高の存在で緊張感があるので、少しでも自分の素を出せる場所があると良いと思います。なので、みんなで遊びにいったり、よくサッカー観戦にも行くんです。
―― お互いに対する強いリスペクトを感じる2人だが、それ以外にも生き方やワークスタイルにおいて参考にする人物はいるのだろうか。
loundraw 僕はあまりないです。
モデルケースがないですし、そもそも誰かのようになりたいとこの仕事に決めたわけではないですから。逆に事務所の方々などの日々の働き方をみて、アーティストとしてこれをもう少しできたら面白くなるのかなと考えることもあるので、事務所の方々に勉強させてもらっているかなとは思いますね。
石井 僕もモデルケースはないのですが、そもそもこれがしたいというものが明確にはなかったんですよ、ずっと。
編集者になりたくて編集者になる、デザイナーになりたくてデザイナーになるという願いのかなえ方もあると思うのですが、僕はそういう職業に憧れるのではなく、こういう人と働きたいという気持ちだけがありました。
それは自分が目標とするような人や友人などで、そういう人たちと一緒に何かがしたいという気持ちが前提にあったので、誰かをリスペクトするということでいうと、今一緒にいる人たちがそうで、仕事もプライベートもなく付き合うので関係も濃くなりがちです。
―― 以上で前編をお届けした。後編ではSNSなどによって変貌した現代カルチャーシーンを行く上でのそれぞれの考えを擦り合わせる中で、未来のクリエイターの道しるべとなる提言を探っていく。
(聞き手・取材:オグマフミヤ / 編集:いちあっぷ編集部)
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