「聖闘士星矢Ω」(Saint SeiyaΩ)やアニメ映画「ブッダ」(Buddha)などで背景美術を手がけるスタジオパブロの方にお話を伺っている。前回は、背景美術ならではの工夫や作業手順について教えていただいた。日本で約70社ある背景会社のうち、手描き作業をメインとしているのはおよそ10社。今回は、その手描きならではのこだわりについて聞いてみよう。
Q. 背景美術ってアニメ作品にとってとても重要な役割を果たしていますけど、見逃しがちですよね。それでもあえて、手描きにこだわる理由は何なんでしょうか。
背景制作の主流はデジタル作画ですがSTUDIO PABLOでは手描き背景をメインにしています。単純な理由ですが、手描き背景が好きだからです。過去には手描きにこだわらずデジタルだけで描いたり、3Dをつかって作画したりしてみたことはあるのですが、どうも自分には向いていないように思いました。デジタルでの色補正は便利なのでつかっていますが、手描きの感じを狙ったデジタル使用には疑問を感じます。デジタルでしか表現できない世界を描いているときは楽しいと思いますけども……。
Q. 見ているときに空気感の違いを感じますが。
マニアックな話になりますが、情報量が全く違うと思います。 普通に考えるとコピーペーストができるデジタルの方が情報量が多いと思われていますが、これは複数の対象物を配置する場合です。単体の対象物を描くなら情報量は手描きの方があると考えています。
例えば壁のグラデーションを手描きとデジタル描きで比較してみましょう。上がった背景画をドット単位で見比べてみると違いがあきらかです。手描き画の拡大ではドット単位で色が違います。手描きでは隣り合うドットの色は異なりますがデジタル画の拡大ではドット単位の色の違いはほぼありません。均一に塗られる為少しずつ色は変化しますが隣り合うドット同士の色はほぼ同じです。手描き画の方がドットが多様といえると思います。
普段目にしている光景にはチリやほこりなど「ノイズ」が混ざっています。このノイズはデジタル画面上でのドットに相当していてドットの多様さが空気感として感じられるのかなと思います。すごいなと思うのは人間の眼がこの違いを無意識に認識できるところです。デジタル画のグラデーションと手描きのグラデーションを比較してどちらが普段目にしている景色に近いかを無意識に判断できているわけですから。ちなみにデジタル画でもノイズを混ぜてこのドット単位の差を出す手法がありますが不思議なことにやはり均一感から抜け出せない印象があります。
Q. アニメの背景ならではの工夫ってあるんでしょうか。
お話しの中での背景の役割があると思いますので、そのシーンで必要な雰囲気を出す為の工夫はします。例えば「デザインが同じベッドがある部屋」を描く場合でも男の子の部屋と女の子の部屋では影の色を変えたりします。男の子は元気にはっきりとしたメリハリのある影色をつかいますが、女の子はかわいらしく色を使った影色を使用します。他にも悲しいシーンなら部屋の色彩から彩度を抜いたり暗くしたり、楽しいシーンなら逆に彩度をあげたり色数を増やす工夫をします。求めらる雰囲気にあわせた色使いやタッチを描き分けるようにしています。この狙いがうまくいったときはとても嬉しいです。
「確かに空間はあるんだけど、違和感がある」手描きに対するこだわりについて、声を弾ませながら話してくれる様子は非常に生き生きとしている。見る人の印象をがらりと変えてしまう、独特の暖かみがある手描きの背景美術。みなさんもぜひ一度、意識しながら見てみてほしい。
英文:The Obsession with Hand-Drawn Background Art: Interview with Background Company Studio Pablo Vol. 2
© Tokyo Otaku Mode Inc.
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