3月14日、プロ棋士とコンピュータ将棋ソフトによる5対5の団体戦「将棋電王戦FINAL」の第1局が行われ、ニコニコ生放送で中継されました。
団体戦形式での開催は今回が最後となる将棋電王戦。これまで負け越しているプロ側は若手を中心に、徹底的にコンピュータ将棋ソフトを研究して勝ちに行く布陣で挑みます。人間側の先鋒は真っ直ぐな将棋と人柄、そして甘いマスクで「西の新王子」とも呼ばれる人気の若手棋士・斎藤慎太郎五段。コンピュータ側は前回の世界コンピュータ将棋選手権で優勝も飾った実力ソフト「Apery」が登場しました。
対局会場となったのは世界遺産・二条城で、実際にかつてお城の給仕が行われていた二の丸御殿の「台所」に対局場を設置。斎藤五段の登場シーンは入場ならぬ「入城」になるというユニークな光景になりました。将棋ソフトの指し手を盤上に再現する代指しロボット「電王手くん」も一新され、名前を「電王手さん」とあらためて初登場。さらに進化したスムーズな動きで駒を操り、恒例となった対局開始時の「おじぎ」も披露してくれました。
戦型は斎藤五段の居飛車対Aperyの振り飛車という対抗型に。Aperyが飛車を四筋に構える「四間飛車」を選択すると、斎藤五段が「いやー」と頭を抱える場面がありました。その後も何度か動揺したような仕草が見られた斎藤五段ですが、対局後のコメントによると「考えていた形のひとつではあるが、本命の将棋ではなかった」とのこと。
過去の棋譜や定跡と同じ場面でも自力での思考を行うソフトであるAperyは、序盤から1手ごとに長考。それに対して、斎藤五段はほとんど時間を使わず指し手を進め、残りの持ち時間に早くも1時間以上の差が開きます。このあたりは過去の電王戦でも見られた展開で、事前研究や定跡に長けた人間にとって有利な点のひとつ。解説の鈴木大介八段は「人間は中盤が難しいけど、コンピュータには手の広い序盤のほうが難しいのでは」と分析しました。
将棋は当初、お互いが玉をがっちりと固めあう「相穴熊」模様に進行しますが、途中でAperyが玉を囲いきらないまま攻撃に転じます。相手の飛車を成らせて自陣の守りの金を捨てても攻撃の手を選択するなど、Aperyがいかにも「コンピュータ将棋らしい手」を見せました。斎藤五段がそれに冷静に対処していくと、多くのプロ棋士が「斎藤五段有利ではないか」と見る展開に。しかし、そこからの粘り強さがコンピュータ将棋の真骨頂であることは、過去の電王戦で多くの棋士やファンが痛いほど経験済みです。無数の変化の中から、たった一つ読みを外しただけで取り返しがつかなくなるのが対コンピュータ戦。ここからは斎藤五段が一転して長考に沈みます。
ニコニコ生放送ではニコファーレでの大盤解説のほか、現地控え室や対局場近くで開催された解説会からも中継が行われました。将棋ソフトの評価値や予想手を表示できるシステムを搭載したタブレット「Surface」を使った解説や、将棋用語に特化した音声認識システムを使って現地控え室にいる棋士の声をニコ生コメントに表示するなど、電王戦らしいテクノロジーと将棋の融合の数々も披露されました。
夕食休憩後、いよいよ局面は終盤戦に突入。斎藤五段はミスなく指し手を進め、とうとう素人目にも「必勝」と呼べる展開に持ち込みます。一方、Aperyは持ち時間を使い切り、電王戦史上初めてコンピュータ側が1手1分の「1分将棋」に突入。次第に時間稼ぎのような無意味な手が目立つようになります。人間同士なら投了する局面ではありましたが、Apery開発者・平岡拓也さんの「せっかく棋譜が残るのだから、コンピュータの特徴的な手を残したい」「最後の1手まで指します」という事前の宣言どおり対局を続行。斎藤五段も最後まで気を抜かず、115手にて斉藤五段がAperyを詰ませての完勝となりました。
斎藤五段は事前に数百局の練習を重ね、20〜30パターンほど有力と思われる局面を用意していたそうですが、本番では「まさかここまで一気の勝負になるとは思っていなかった」と驚いたとのこと。これまで電王戦で勝利した棋士は事前準備どおりの展開にソフトを誘導して勝つパターンが多かったですが、結果として真っ向勝負で見事に強豪ソフトを撃破した形になりました。平岡さんも「こちらの読みに無い手を指されるたびにAperyの評価値が下がっていった。今回の将棋は完全に力負けでした」と斎藤五段の実力を賞賛。斎藤五段が「普段対局していたときの強さはやや影を潜めていた」と語るように、プロの事前研究を避けるため評価値としての最善手以外の手をランダムで選択するAperyの思考が裏目に出た部分もあったようですが、完璧な指し手で相手の隙を逃さなかった斎藤五段が、プロ側にとって大きな1勝目をあげました。
(たろちん)
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