空から音がふりそそぐ演奏会……そんな光景を思い描きながら実験を繰り返している人たちがいる。それが「千住フライングオーケストラ」だ。1月16日に東京・荒川河川敷で行われた「音の出る空飛ぶもの」の実験&研究発表会に行ってきた。
千住フライングオーケストラとは、NHKドラマ「あまちゃん」の作曲などで知られる音楽家・大友良英さんが中心となって、東京・足立区千住地域にて始まったプロジェクト。“空から音がふりそそぐ演奏会”をめざして2011年より活動し、これまでに「音の出る凧」や「音の出るちょうちん」を開発している。また、六本木アートナイト2013、Maker Faire 2015など、千住を離れた遠征活動も展開している。
これまで、地上での楽器演奏と凧から出る音を組み合わせた演奏会や、静寂の中に響くノイズ+音の出る提灯を組み合わせたパフォーマンスなど、さまざまな活動を行ってきた。昨年、発起人である大友良英さんからテクニカルディレクター・山元史朗さんへと引き継がれ、実験を続けている。
今回は凧とロケットの実験が行われた。まず凧だが、連凧には1つ1つに鈴がついており、引っ張るとシャンシャンシャン、と音が鳴る。しかし風が弱いため、上空遠くの鈴の音は聞こえない。「音を増幅させる小さいアンプをつけてみるのはどうか」という案が出ていた。また、凧糸の振動をもとに音を共鳴させる実験も行われた。
凧だけでなく「音の出るペットボトルロケット」も発表された。ロケットからピューという音が出ていたが、仕組みは簡単。通常のペットボトルロケットの上に空のペットボトルを連結させて、小さな穴を4カ所開けている。そこを空気が通り抜け、音が出ているようだ。穴の開け方によって音色を変え、複数飛ばせば演奏に近づくかもしれない。
発想の元になっているのは、中国の「笛凧」。大きめの笛を凧にくくりつけて飛ばすと、上空でヒューという音が鳴る。世界の国際凧揚げ大会にも参加する凧愛好家・武田晃男さんを中心に海外の凧のリサーチも行っており、音を鳴らすアイデアのヒントを得ている。
凧を揚げるのは簡単そうに思われるが、“障害物のない開けた場所”、“一定以上の強風”など、さまざまな制約が伴う。「ほかにも、凧どうしが絡まる、糸が切れて電線や想定外の場所に落ちる、などの危険性も考慮にいれないといけないからね」と語るのは、メンバーの一人・遠藤一郎さん。
ドローンにスピーカーをつけて飛ばせばよいのでは? と思ったが、そういう単純な話ではない。ディレクター・山元史朗さんいわく「下から電気を送って上で音を鳴らすのはナシかな」。昨年からメンバーに加わった音楽家・アーティストの和田永さんも「凧を揚げてると、風をつかまえてる感じがする。カッコよく言えば“自然との対話”なんですよ。だからなるべく自然の力を利用して演奏することが重要じゃないかな」と語る。
今後の可能性として、山元さんは「凧を自在に操縦する“スポーツカイト”という競技があるんだけど、それに音を出す仕組みをつければ演奏につながるかも。かなり練習が必要だけどね」と話していた。
ドローンなどの最新技術を使わず、あえてアナログな手法を追及し続けているこのプロジェクト。果たして“空から音がふりそそぐ”演奏会は実現可能なのか? 引き続き調査・実験を行い、来年度は演奏会までこぎつけたい、とのことだった。
(村中貴士)
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