外国人観光客の増加や、2020年の東京五輪に向けて宿泊施設の不足に悩む日本。今、政府が規制緩和に向け進めているのが、「Airbnb」に代表される仲介サイトを通して一般住宅に有料で宿泊できる「民泊」ビジネスです。
ところがこの「民泊」ビジネスに対し規制緩和に向かう日本とは逆に、欧州では規制「強化」にかじを切っています。なぜなのでしょうか。
民泊禁止に踏み切るベルリン、観光大国フランスでも次々と問題が
ドイツのベルリンでは5月、アパートでの民泊を禁止する法律が施行されました(条件付きで運営が可能)。違反した者には最高で10万ユーロの罰金。施行の背景には、利益率がよい民泊ビジネスに多くの家主が乗り出した結果、アパート不足や家賃の高騰を招いたことが挙げられます。
とりわけ、仲介サイトに「匿名で登録できること」は違法な貸主を増幅させる一因となっています。不動産を専門にするある弁護士はねとらぼの取材に対し「登録している貸主のうちおよそ80%以上が違法だと思われる」という実態があり「むしろ違法である方がノーマルな貸主といえる状態」と話しています。
民泊による価格破壊は世界一の観光大国であるフランスのホテル業界でも重い問題です。安さが魅力の民泊は、5つ星以上の高級ホテルを選ぶ客層とは別の需要が考えられ、住み分けもできているという声もあります。確かに5つ星以上のホテルが並ぶ1区や8区では民泊をあまり見かけませんが、3区、4区、10区など、市の中心ではたくさん見つけることができます。ちなみにパリは東京の約6分の1ほどの小さな街。移動は容易です。
3月17日に、民泊の問題を抱えるフランスから関係者が来日し、日本に警鐘を鳴らす緊急フォーラムが開かれました。パネリストらは民泊規制緩和の動きが見られる日本に、上記のような同国の現状を伝えています。
民泊に関わる問題を考える上で重要な「違法な貸主」の存在。日本では2015年11月から13回に渡り「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」が開かれましたが、この問題に対する解決策はまだ議論の途上。そうした中で、無許可運営などの違法業者が書類送検されるなど、問題の大きさが予見されています。
違法な貸主の問題を解決する方法はあるのか、緊急フォーラムでパネリストの1人だった、ホテル・カフェ・レストランなどの事業者団体「GNI-Synhorcat」の代表、ディディエ・シュネ氏に聞いてみました。
フランスの解決策とは?
シュネ氏は「この問題はとても気掛かりなもの。(緊急フォーラムでは)日本のホテル業界や公的機関の方々と建設的な交流ができたのは大変喜ばしいこと」と前置きした上で、回答してくれました。
―― 民泊の違法な登録者が日本でも今後問題となりそうですが、フランスでは対策をお持ちですか?
シュネ フランスの国会では2016年前半に「デジタル法(Loi numerique)」について議論がなされました。本文は下院で調整され、9月に上院で適応される予定です。この法令は、民泊の規則に対する疑問に幾つかの解決をもたらすと思います。
この法令はとりわけ、「貸主としてあらかじめネット上で登録しておくシステムを市町村が設ける」可能性を規定しています。貸主がシステムに登録すると、番号が交付され、情報として貸し出しの際に記載されることになります。
一方、そうしたシステムは、登録されるのが主な住居(1つ目の住居)か、あるいはそれ以外(2つ目以上の住居)かを把握するものでなければいけません。主な住居(つまり民泊の定義上、貸主が実際に住んでいなければならないはずの住居である場合)の場合は、年に120日以上貸し出せないこと、そして市町村でこれを周知させることに留意しなければいけません。
―― その中で重要なポイントは?
シュネ 重要なことは2つあります。
1つは、貸主として各市町村で申請時に付与される番号が、その土地での民泊市場における正規の貸主の証しとなること。これにより、利用者(借り手)は違法な貸主の提案を避けることができます。
もう1つは、そうしたシステム、プラットフォームが今後は(特に個人の)貸主たちに責任感を与えるということです。彼らは違法性を有さないよう気を付けるようになるでしょう。
―― ホテル業界と民泊業界が調和しながら市場を伸ばしていくことは可能だと思いますか?
シュネ GNIは、フランスで2つの業界が協力し合いながら活動し、発展していくことを妨げたいと願ったことは1度もありません。個人による民泊は、フランスの法下で、土地の適性や需要によってその規模を広げながら、長らく存在してきたもの。これはより多くの観光客を受け入れるためです。
ホテルと民泊が市場を分かち合うことには何の問題もありません。だた1つ、全ての人が規則を尊重すること、そして、その規則はあらゆる形態の事業主にとって公平であることが条件なのです。
日本ではいまのところ、民泊の貸主も旅館業法によって簡易宿所許可の申請が義務付けられていますが、利用者が仲介サイト上で「この貸主は違法なのか」を見分ける方法はありません。厚生労働省によれば「保健所に聞いていただくのがよいのでは」とのこと。利用者側が積極的に動くしかありません。
また、「主な住居の場合は年120日以上貸し出すことはできない」という規定は、日本では「180日以下」という条件で「規制改革実施計画」の中に盛り込まれ、6月2日に閣議決定されています。フランスの180日に対し日本は120日と余裕がある一方で、フランスでは「主な住居」のみに適応されるのに対し、日本では主な住居以外(前者は日本でいう『家主居住型』、後者が『家主不在型』に相当)でも適応されるとのこと。この規定には「厳しい」という声と「もっと強化してほしい」という声があり、賛否両論のようです。
「Airbnb Japan」に聞いてみた
民泊の規制緩和に関し、仲介サイトの大手「Airbnb Japan」では、違法な貸主をサイトに入れない、または追放するために何か有効な対策があるのかコメントを求めたところ、次のような回答が得られました。
Airbnb Japanの回答
Airbnbは191カ国、3万4000都市に広がるグローバルなプラットフォームです。Airbnbに物件を掲載する手続の一貫として、私どもは、ホストの方全員に対して、関係法令を順守していることを保証するよう要求しており、ホストの方々は、利用規約に同意された上で、Airbnbに物件を掲載されています。また、ホストの責任のページでもご案内をしております。
ただ、実際には、ホストの多くの方から、現行の法制度は不明瞭で分かりにくいという話をよく耳にしております。このため、私どもは、日本でのサービス開始以降、日本政府を含む多くの方と協議を続け、現在も、法律の分かりにくさを解消すべく、ホームシェアリングのための公平かつ分かりやすい、新しいルールを整備するよう日本政府と協働しております。
旅館業法(1948年第138号)は、70年前、今とは異なる時代に、異なる業界のために作られたものです。シェアリングエコノミーはまさに日本における第四次産業革命の萌芽であり、インターネットが存在すらしていなかった70年前の1948年の規制デザインにホストをはめ込もうとするのではなく、新しい時代に併せた規制デザインの変革が必要であると考えております。
また、現在ホームシェアリングに関する政策議論が大きな前進を遂げており、簡単で分かりやすく現実的なルール作りが進んでおります。ホームシェアリングに関わる全てのコミュニティーに対し、安心・安全なルール作りができるよう、弊社でも引き続き政府関係者と協議を重ねて参る所存です。
最近の動きとしましては、Airbnbのホストと近隣の皆さまとの橋渡しをする相談窓口設置いたしました。窓口では、フォームに必要事項とご返信のためのご連絡先をご記入いただきます。この窓口は、ホストやゲスト以外の第三社の方からもお問い合わせいただけます。お寄せいただいたトラブル内容は、弊社担当者が内容を確認させていただき、Airbnbに掲載中のリスティングであることが特定された場合には、該当するホスト様にご懸念事項を申し伝えるよう最善の努力を尽くします。
行政の皆さまとも良好な関係を構築させていただいております。また法執行機関などから特別なケースで法執行機関からご連絡をいただいた場合は、ご協力させていただいております。
日本は先進国の中では物価が安く、ホテルの宿泊料も欧州からの観光客にとってみれば驚くほど安価。極端な価格破壊を避け、効率的に、また分かりやすく違法業者が可視化される方法を探るなど、民泊ビジネスにはまだまだ議論が必要となりそうです。
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