日本初のオフラインRTAイベント「RTA in Japan」主催者インタビュー 遊び方を突き詰めていくプレイヤー達の「圧倒的熱量」(2/2 ページ)
2016年末に3日間を通して行われたオフラインRTA(リアルタイムアタック)イベント「RTA in Japan」、その主催者にインタビュー。
――RTAプレイヤーの方々はどのようにRTAに取り組んでいるんでしょうか。見ている限りでは、RTAには「テクニックの部分」と「研究の部分」の二つの方向性があると思っています。
もかさん けっこう分かれるんですよ。僕や昔からやってる人は戦略に重きを置くというか、記録は二の次で、とにかく机上の空論でいいから方法論を考えるという人も多い。記録よりも方法論の方が重要で、プレイ自体は流れ作業でやるみたいな感じですね。逆にスポーツのように1フレ単位で競うというのは、アクションゲームをやり込む人に多いですね。ジャンルによってパターンの考え方が違うことが多いです。
――AUTOMATONでもたまに取り上げるんでが、グリッチやすり抜けといったすごい発見があって、スピードランの歴史が変わるみたいなニュースがありますよね。そういう研究をすることだけが好きな人もいる。
もかさん いますね。実際プレイはしないけども研究だけはすごくて、その研究で記録が塗り変わるみたいのありましたね。初代の『スーパーマリオブラザーズ』で数カ月前、4分56秒台がでたってニュースがありましたけど、あれも実は研究が重要でした。『スーパーマリオブラザーズ』って、最後は旗に飛びますよね。あの時、一定以上マリオが下にいると、マリオの動きがキャンセルされるという仕様があるんです。当初は1フレーム単位の操作を続ければそれを実現できるというのが分かったんですが、相当難しくて「TAS」でしか使われてなかったんです。でもそれを研究していた方が、1フレ単位の行動を2回すれば、簡単に実機で再現できるととこぎつけたんですね。
――理屈は分かるんですけど、1フレ単位の行動を二回するって、ものすごく難しいですよね……。
もかさん 結構できるみたいです。ぶっちゃけ、熟練プレイヤーは3回に1回くらいやってますね。56秒台を出した方は、それを1-1と4-1で2回決めてましたね。
――もかさん自身はそういう研究をされるタイプですか?
もかさん 僕はあんまりしませんね。僕は研究されたものをまとめて戦略を練り上げるみたいな感じです。僕も『ヴァルキリープロファイル』で状況再現をして、完全に同じ操作をして絶対に先制できるようにするんですけど、それも見つけた方が教えてくれたものをやってるだけで。
――こういう研究をされてる方は、労力を割いてやってる訳ですよね。
もかさん そうですね、ゲーム別に日本でも研究タイプの方は多くいます。『ヴァルキリープロファイル』のRTAの研究も、昔なんかは掲示板というかファンサイトにて書かれてきたんですけど、海外で最近発見されて北米版でも修正されてないってことが分かって、国内外で盛り上がるってこともありましたね。
――そう考えると、例えばアドベンチャーゲームのようなタイムアタックもある?
もかさん 結構アドベンチャーゲームのタイムアタックやってる人いらっしゃいますよ。僕らかいわいで広まってたのはファミコンの『美味しんぼ』で、山岡さんが「アンキモ」と叫ぶバッドエンドまでが3分ちょっとで終わる。
――ゴールにバッドエンドを持ってくるという遊び方もあるんですね。そういえば、RTAのルールはどこで決められるんでしょうか?
もかさん ルールは最初に始めた人が勝手に決める感じですね。それが実は問題になることもあって、例えばニューゲームから始めるゲームがあると、ニューゲーム前に乱数が動いてるゲームもあるんですよ。開始前に調整できたりすると、そのルールの設定でもめたりすることもありますね。一番ひどいのが『ロマンシングサガ2』で、スーパーファミコンの電源を抜いて電池の残存電力で乱数が変わるっていう、ひどいゲームなんですよ。あとはスーファミの型番によっても違う。電池を抜いて放電して15分くらいしてから始めると、確実にひらめく乱数があったり。
――現在『ロマサガ2』ではどんなルールが主流になっているんでしょうか。
もかさん “電池法”っていう電池を使って状況再現するルールと、ROMをさしっぱなしのルールと、2通りですね。
――そういうルールの細分化は、アップデートが頻繁な最近のゲームに多いと思ってましたが、昔のゲームにもあったりするんですね。
もかさん ありますね。前期ROMと後期ROMで違ったりすることもあったり。今回応募された方では『魔界塔士SAGA』の方が、SFCの型番によってゲームボーイのロゴ表示の速さが違うってことで、一番早いの持ってきますと言ってました。
――全体的に聞くと、基本的には最初に世に出した人のルールが採用されるんですね。
もかさん そうですね、ただたまに海外と日本で意思疎通ができてなかったりすると勘違いが起きたり、ストップウォッチの計測が違うってこともある。困ったら電源入れてから全部録画しといてってのがセオリーになります。だいたい始まりは電源入れてからかスタートしてからの2種類、終わりはスタッフロールが流れた時かラスボス倒した瞬間ってのが主流ですね。
――バグの許容の仕方でも大きく変わりますよね。
もかさん バグ有り無しかでも大きく変わったりします。有名なのは『ゼルダの伝説 時のオカリナ』なんかで、実はワープ先を自分で選べて、いきなりボス倒した所に飛んだりするんですよ。それがありがなしか、バグありかなしかでも細かく分かれていて。持っているビンによってメモリを操作できるゲームなんで。
――今回は「RTA in Japan」第1回となりますが、次回以降はさらにどのようなイベント内容にしたいと考えていますか。
もかさん 今回は時間的にみると2日間、50時間ずっとやっているんですが、結構これが短くてですね。人によっては長いRTAをやりたいという希望者もいて、今回一番長かったのは24時間の応募だったんですけど。
――タイトルはなんでしょう?
もかさん 『Dark Souls』の「プラチナトロフィーRTA」ですね。これ16時間で成功したという記録が最近あったんですけど。
――確かに50時間だと、1つのタイトルに16時間をかけるわけにはいかないですね。北米の「AGDQ」だと、一週間規模でやってますけど。
もかさん そうですね。それを踏まえると今回はちょっと時間が足りない。今回は短いものを選んでるみたいな感じです。
――ほかにも海外のRTAイベントと比較すると、今回チャリティは実施されていないみたいですね。
もかさん したい気持ちはありますけど、1円も間違えることなく慈善団体に飛ばすって仕組みを作るのは難しいらしいんですよね。海外の方からもチャリティをやらないのかって問い合わせがきてたんですけど、「イベントが成長してからね」と返答しておきました。
――短期的には次回開催が目標になると思いますが、中長期的にはイベントをこうしていきたいという考えはあるでしょうか。
もかさん 今はもうゲームのテクニックって英語圏が先行していて、英語が分からないとできないってのがあるんですよね。一月に「GDQ」があるんですけど、実は今回の参加者の中の2人が渡米して行ってくるんですよ。そういう英語圏との交流がもっとできたらいいなって感じですね。
――少し違うかもしれませんが、格闘ゲームでは「EVO」というイベントがあって、2018年からは国内でも開催されます。あんな感じで国内外で開催されるような、大規模なRTAイベントもできると面白いですよね。
もかさん イベントごとに交流ができるとすごく面白いんですけど、今は海外から日本人のプレイヤーにコンタクトが取れないという問題がありますね。ただ、「RTA in Japan」みたいな大きなイベントからつながっていければと思います。
――最後に、もかさんから読者の方々へ向けてメッセージをお願いします。
もかさん 今回の「RTA in Japan」は、まだまだ広がりきれてないと思うんですよね。是非これから2回3回と続けていくうちに知名度をあげていって、一般のゲームプレイヤーの方々に知られて欲しいなと思ってます。まだまだコアゲーマーしか知らないみたいな所があるんで、今はニコ生なんかで広がりつつあるとは思うんですけど、もっとそれを加速して、ゲーム好きなら知ってるというレベルにまで昇華したいなと。日本ではそういうのがなくて相当苦労しましたから。
――インタビュー外でのお話では、そもそも「RTA」って言葉自体が日本で作られたということもお聞きしました。
もかさん そもそも海外では使わなかった(海外ではスピードランが主流)んですけど、日本人があまりに使うものだから一般化したみたいです。昔のタイムアタックってストップウォッチを使うようなものじゃなくて、ゲーム内時間でクリアタイムを競ってましたよね。例えば『ファイナルファンタジー』とか、セーブポイントが最終地点についたときのセーブデータを記録としてた。でもそれだと「多く」のゲームを計れないしってことで、できたのがRTA(“リアル”タイムアタック)ですね。ストップウォッチをつけて、終わったら止めるっていう分かりやすいルール。『ファイナルファンタジー』が多くて、今は『ドラゴンクエスト』も多いですけど、昔は全然なかった。『ドラクエ7』がプレステになってようやく冒険時間が分かるようになってって感じです。
――他のプレイヤーの方々にもお聞きするつもりですが、みなさんがRTAにここまで情熱を注げる動機はどこにあるんでしょうか。
もかさん 単純に「ゲームの遊び方」としてものすごく面白いからですよね。自分でやっていても見ていても。ファミ通の話に戻りますけど、自分は当時やりこみビデオの特集を見て衝撃を受けたんですよね。こんな遊び方があるのかと。僕はその頃小学生くらいでしたけど、その衝撃を受けてそれから20数年やってきたので。最初にその衝撃を受けて、やってみたら本当に面白くて、だからこの面白さを広めようってことで「RTAPlay!」ってサイトを作ったのは、それがあるんですよね。是非やってみて欲しいと思って。
――自分にとって「RTA」とはと聞かれたら、なんて答えますか?
もかさん 人生を変えられたくらいの話になっちゃってますよね。こんなイベント開かなかっただろうし。ファミ通を読んだときの衝撃を今でも忘れてない。やめていく人も多かったですけど、僕は熱量を保ってこれたので今があります。もっとやる人も見る人も、一般に広がって欲しいです。マイナーゲームに光がもっと当たって欲しいって思いもあります。最近「ファミコンミニ(ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ)」が出てみんな懐かしいなって言ってますけど、僕らから言わせれば全然現役ですし、懐かしくなんてないのにって感じです。
――ありがとうございました。
「RTAプレイヤー」としてのつながり
――RTAは韓国では人気ですか?
金さん やってる人はいるんですけど、横のつながりがあんまりないですね。日本もニコニコが主流で、こんな風にみんなで集まるイベントってのは今までなかったですが、韓国はさらにそれよりもないですね。ただTwitchとしては、年に二回「GDQ」というイベントをやってたりして、そこのスタッフを「もかさん」に紹介したりしてます。今回のイベントは英語での配信が予定されていて、日本の配信をみながら英語のコメンタリーをつけることにしています。「GDQ」自体は海外のRTAイベントにすごく興味がありますし、Twitch全体でもかなり興味があるジャンルなので、「GDQ」スタッフもサポートしていきたいと。
――韓国ではどういったタイトルのRTAがプレイされているんでしょう?
金さん 『Dark Souls』とか有名なタイトルしかないんですけど、やってるにはやってます。韓国に関してはTwitchと、日本でいうニコニコみたいなサイトとかを通じて、個人配信やってる人が多いです。あるいはYouTUbeにアップするとか、そんな感じですよね。コミュニティーがないので、自慢できる場所がないんです。
――やっぱり見て欲しいですよね。
金さん 日本だとWikiを作ったりするんですけど、韓国ではプレイヤー同士でまだそういうのを必要としてないですよね。海外の情報を見て自分でやればいいやみたいな感じです。
――今後、アジア全体でこういうイベントが展開されていくといいですね。
金さん ゆくゆくはやっていきたいですよね。今回のイベントにアメリカの「GDQ」に参加している人もいますので、日本はRTA分野でも強い、「GDQ」としても日本は強いっていう認識ではいます。ただ人口がアメリカでやってるゲームと日本でやってるゲームで違ったりするんで、そういう差がありますね。「GDQ」だとネックとしては、英語が話せないとなかなか招待しづらいみたいなとこもあるんで、日本でのイベントが育っていくと相互の交流もしやすくなります。個人で招待するよりはイベントで協力していったほうがやりやすいみたいなところもあるんで。
――お話を聞いていると、Twitch韓国チームと「もかさん」のつながりがなければ、今回ほどのイベントはできなかったかもしれないですね。
金さん 「もかさん」自身はTwitchでやるつもりだったらしいですけど、つながりがなければ、もしかしたらここまでにはならかったかも知れません。
――もかさんとはどういう関係だったんですか?
金さん もともと僕がピアキャスで放送してたRTAのタイトルを、先に「もかさん」がやってたとこからのつながりですね。全然うまくはないですけど、RTA自体は何回かやってました。
――ちなみにタイトルは?
金さん 『ブレスオブファイア5』ですね。あれは早くやると1時間15分くらいで終わる、どちらかと言えばRPGというよりは『バイオハザード』みたいな感じのゲームで、周回しないと見れないイベントがあったりするんです。あとは主人公がすごく強い攻撃が出せるんですけど、自分の命を削って出さなければいけないので、それをどう効率良くだすかみたいな。その時は早解きをするって概念がなかったんですけど、たまたま見てた配信者がやってて、動画を見ながらまねをしながら始めました。「もかさん」はその攻略同人誌も出してて、最初に会えたのがそれを買いに行ったときですね。
――攻略同人誌はコミックマーケットなどで販売されているような?
金さん そうですね、4、5年前になります。僕は毎年コミケに遊びにいってるんです。
――2017年は最終日しかいけないですね(注釈: RTA in japanは12月28〜30日の日程で開催された)。
金さん 残念ながらそうなりますね
――韓国チームがこのイベントに参加するのは、Twitchという会社的にはどうなんですか。
金さん 僕が若干無理言った感じはありますね。紹介は僕で、あくまでメインは日本チームで、僕らはお手伝いという感じですね。
――ありがとうございました。
主催者側も熱いが、実際にイベントにプレイヤーの立場で参加した方々の思いはさらに熱い。次回、次々回はこのイベントで「走った」プレイヤーの思いに迫りたいと思う。
[編集・撮影・取材 Shuji Ishimoto]
[執筆・取材 Nobuhiko Nakanishi]
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