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コラム

国内でのカジノ解禁、いまいち盛り上がっていないのはなぜ?

「カジノ法案」って結局どういう法律?

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 こんにちは、QuizKnockです。

 2016年12月に国会を通過した「カジノ法」。国内でのカジノが解禁されるというのに、それほど話題になっていないように思います。毎年「例年を超える出来!」と盛り上がるボージョレ・ヌーボー解禁にすら負けてしまっているかもしれません。

 もちろん、「賭博」や「ギャンブル」に対しての悪いイメージはあるでしょう。しかし、多くの人が熱狂する競馬やパチンコ、宝くじと比べての勢いの差は、一体どこから来ているのでしょうか。

 一筋縄でいかないカジノ問題、早速解きほぐしていきましょう。

「カジノ法案」って結局どういう法律?

 ニュースなどの見出しは「カジノ法」などとなっていますが、これはマスコミがそう呼んでいるだけです。正式名称は「カジノ法」ではなく、「統合型リゾート(IR)整備推進法」といいます。

 統合型リゾート(IR:Integrated Resort)とは、ショッピングモールやホテル、会議場やスタジアムなど、観光客を呼び寄せる魅力的な施設を集めた複合施設のこと。

 IRの代表例として世界的に有名なのが、シンガポールの「マリーナ・ベイ・サンズ」です。上に船みたいなのが載ってるやつですね。

 さて、おそらく次に思い浮かぶ疑問は「そんな観光施設のためにわざわざ法律がいるの?」というあたりでしょうか。答えを言うと、ずばり「統合型リゾート」の目玉施設がカジノだというわけです。

 もしかすると、読者のみなさんの中には「マリーナ・ベイ・サンズ」にカジノのイメージがないという人もいるかもしれませんが、ばっちり併設されているんです。広さ的にはマリーナ全体のほんの一部なのですが、収益はカジノ部門がなんと全体の80%近くを占めているのです!

 他にカジノ街として有名なマカオでも、カジノはおおよそホテルとセットで運営されています(グランド・リスボアなど)。実は、マカオは古くからカジノで有名だったというわけではなく、近くに世界遺産となっている建築などが多かったことから、観光地化されたという経緯があります。現在では「東洋のラスベガス」とも呼ばれ、カジノの観光資源としての強さが際立ちますね。

 そんなわけで、「IRには実はカジノが外せないんだ!」「でも、日本では賭け事は禁止されているよ?」「じゃあ法律作って認めちゃえ!」というのが今回の大まかな流れです。

 刑法には賭博全体を禁じる条文(185〜187条など)がありますが、別の条文(35条)では「法律で決めて認められたことならやってもいいよ!」という旨も書かれています。宝くじや競馬、パチンコなどのギャンブルは、それぞれ対応する法律を作って例外的に認めている状態です。

 今回の「IR整備推進法」には、「カジノを適切に運用しようね」という目標は書かれていますが、カジノをどのように認めるか(どこまでがオッケーなのか? どういう規制や罰則がかかるのか?)という具体的な内容はありません。

 つまり、今回の「IR整備推進法」とは別に、本当の意味での「カジノ法」をこれから作っていく必要があるのです。

カジノの良いところ、悪いところ

 統合型リゾートにカジノが必要だという意見は、どんな議論を生んでいるのでしょうか。

良い点1:日本への観光客や観光収入が増える

 これは私たちが「マリーナ・ベイ・サンズに行きたい!」と思うのと同じ理屈ですね。これを利用して周辺の観光地にも客を呼び込めないか、という狙いなわけです。観光客だけでなく、話題の「MICE」(Meeting、Incentive、Convention、Eventの頭文字を取った言葉で、展示会・国際会議などを指す)も誘致できるのでは、と期待されています。

 リゾート整備と大阪への万博誘致を同時に行い、相乗効果を目指す動きもあるようですが、これが成り立つには海外に負けないような素晴らしい施設を用意しなければなりません。

良い点2:違法なギャンブルに歯止めをかけられる

 私たちの知らないところで、法律で認められていないギャンブルが行われている、としましょう。このとき、一部でもカジノを認めて公的機関が運営することで、これまで違法賭博施設に行っていた客を取り込み、それらを少しずつ減らしていけると考えられています。

悪い点1:治安が悪化する

 私たちが「ギャンブル」に対して抱く悪いイメージの大半はこれではないでしょうか。運営次第ではありますが、お金の絡む賭け事ではトラブルが起きがちです。

悪い点2:ギャンブル依存症の人が増える

 パチンコや競馬に熱中して破産というのはよくあるシナリオですが、これにカジノが加わることで、さらにギャンブル依存の人を増やすおそれがあります。

 ただし、そこらの街にカジノを作るならともかく、統合型リゾートだとしたら、客は上流層がメインになるでしょう。上記のデメリットは、裕福な客層を想定することで低減されるとも考えられます。

どちらともいえない点も……

 例えば、統合型リゾートの運営には、そこで働く人々が必要です。不景気で仕事を失う人々が多いときにはリゾートが働き口になりますが、景気が良いときには人手不足に陥る可能性があります。少子化で現役人口が減る時代、人手不足は深刻な問題ですね。

海外に学ぶ、カジノ解禁でも冷めている理由

 ここでもう1つ、なぜ「カジノ解禁」の話題がそれほど日本人に浸透していないのか、理由と考えられることを「マリーナ・ベイ・サンズ」の例から紹介します。

 マリーナのカジノは、外国人観光客は行き放題なのですが、なんとシンガポールの国民は、カジノ場に行くのに入場料を支払う必要があるのです!

 その名も「カジノ入場税」、1回100シンガポールドル(およそ8000円)。しかも、入って24時間たつと滞在許可がリセットされます。つまり、カジノに行くのに、賭け以外で毎回8000円が必要になるのです。

 入場レーンも、シンガポール人と外国人とで隔てるという徹底ぶり。おそらくパスポートなどを確認されるのでしょう。

 ギャンブル依存対策などのため、この入場税システムは日本にカジノができた場合にも導入されると考えられます。「日本のカジノで日本人から金を取るんじゃあ」というわけで、マスコミも積極的に「カジノに行こう!」といったような雰囲気にしづらいわけですね。

 しかし、本当に入場税が日本人をカジノから遠ざけるかというと、どちらともいえません。

 例えば「せっかく8000円払ったんだから、せめて元を取らないと」という心理がはたらき、長時間賭けにこだわるなど、ギャンブル依存を助長する可能性もあります。また、公営ギャンブルへの入場が有料だと、無料の違法ギャンブルに客が流れることも考えられます。

まとめ

 「統合型リゾートの一部として」「日本人には入場税がかかる」などの条件付きゆえに、カジノの話題は盛り上がりに欠けていると考えられます。

 しかし、今回「IR整備推進法」が通った以上、統合型リゾートでカジノが解禁されるのは確実でしょう。2025年の万博を誘致し、それまでを目標に大阪で統合型リゾートを開業する、というプランが有力です(夢洲といった具体的な候補地も既に挙がっています)。

 2016年12月にひとまず法案が通ったことで議論が下火になりつつありますが、実際に認可、運用するための法律はこれから作られていきます。議論はむしろこれからが本番です。この機会に優先すべき点を比較して、しっかり議論を煮詰めてほしいところです。

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