なぜ大穴は理不尽がいっぱいなのか 『メイドインアビス』の作者つくしあきひと、初インタビュー(3/3 ページ)
「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第85回。アニメが絶賛放映中『メイドインアビス』の作者・つくしあきひと先生に、緻密なファンタジー世界はどうやって生み出しているか根掘り葉掘り聞いてみました!
危険な生物に上昇負荷 なぜアビスは理不尽なのか
―― 2年半前にこの連載で「一見すると度し難くかわいらしいキャラたちとコミカルな動きに引っ張られがちながら、実はそこに重く存在している生と死のリアリティ」と紹介させてもらいました。その後の冒険でもやはり、作品全体を貫く理不尽さや過酷さ、甘えのなさというのが感じられます。
そう言われるとうれしいですね。リコってどんどん傷の数が増えてるんですね。どんどん不自由になっている状況なんですけど、目だけは生きているんです。
命は闇の中においてこそ輝く。どんな弱い光でも真っ暗な中では輝くじゃないですか。リコも地上にいるときはそそっかしいだけの迷惑かけるやつだったけど、穴に入って本領が発揮できてよかった。あの子はアビスオタクと言うか、アビスバカなんで。前人未踏が夢じゃなくなって、たぶん今生まれて一番楽しいんですよ。
―― リコが毒が全身に回らないよう、ひじの関節でなくわざわざ腕の骨を折ってほしいと頼んだシーンは、探窟家としての決意が感じられました。
「127時間」(2010年)という映画があります。右腕が岩に挟まれ動けなくなった登山家が生還するまでの実話を基にしているんですけど、生命活動の限界が迫った時、彼はなぜか自分の腕を関節で切らなかったんですよ。作品の中で理由は語られなかったんですが、その後彼は義手をつけて再び冒険を始めるんです。
「そうだよな、冒険をあきらめない奴はわざわざ痛い思いをするんだ」って思って。だから探窟家もみんなそうするだろうと。
―― 深く潜るほど帰るリスクが大きくなる「上昇負荷(アビスの呪い)」という一方通行な概念も、異色の設定ですよね。ゲームっぽい設定が多く見られる「アビス」としては、「死んでも復活できる」逃げ道が用意されそうですが。
実は、最初は潜っていくと時間の感覚が狂うというだけで、上昇負荷はなかったんですよ。でももっとハードに、危機感があった方が面白いと思って。七層から帰還する負荷に「確実な死」というのを持ってくることで、誰も見たことがない世界が作ることができるので。
―― それにしても七層で確実に死ぬって重すぎないですか……?
でも言ってみれば、人間は何かの途中で死ぬわけだから。そういう意味でリコは選んだんですよ、ワクワクする自殺を。
―― ワクワクする自殺……!
そうしないで地上で生きた人はワクワクしない日常を送ることになるんですよ。「行けばよかったかな……」と思いながら死んでいくかもしれない。でもリコは行った。行っちゃうんですよ。
理不尽が起こらないと面白くないんですよね。理不尽を起こすと、読者も「何が起こるんだ!?」って思いますよね。僕も思ってるんですよ(笑)。作品そのものも後戻りできない中で描いています。
影響を受けたのは“潜る”ではなく“登る”
―― このインタビューでは恒例ですが、好きな作品、影響を受けた作品などはありますか?
この作品を作るに当たっては『神々の山嶺』(全5巻/原作・夢枕獏、作画・谷口ジロー)です。
主人公の羽生は自分のことを「山屋」と言ってるんですが、「山屋は山をやらなかったらただのゴミだ」って言うんです。そこにしか自分の価値を見いだしていない。どんな傷を負っても山をやめようとしないんですよ。
―― 探窟家に通じるものがありますね……。
ラスボスはエベレストに挑むんですが、めちゃくちゃ面白いです。あとマンガの描き方的には、石黒正数先生の『それでも町は廻っている』(全16巻/少年画報社)は、コマ割りも基本的で、1話完結で、なのに何でこんなに面白いんだろうと。
僕も当時は浅くしか分かっていなくて、最終巻と一緒に出た本人解説の時系列を見て「何だこれは」と。そのワクワク感が作品からにじみ出ていたんでしょうね。すごく面白かったです。やっぱりワクワクは大事です。
―― 最後に今回のアニメ化をきっかけに原作に触れる読者もたくさんいると思うので、何か見どころなどがありましたら。
言いたいことは全部マンガに描いてあるんで、それを見てください。それ以外のことはないです。読んで「何だか分かんねえな」って言われたら、僕の負けです。あと、アニメで面白かったら、その続きは原作で読めます。
―― 原作はいよいよ深界六層まで来ましたが、連載は今後どう進んでいくんでしょう?
困難はまだまだあります。結局リコたちは人間なので、老衰であれ何であれいずれは「終わり」を迎えるわけですよ。どうやって終わるのか……。楽しみじゃないですか?(笑)
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