ウソから始まる二重恋愛にひやひや――マンガ「ライアー×ライアー」の金田一蓮十郎先生に虚構新聞UKが会いにいってきたぞ! :虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第26回
本連載のテーマの1つは「男性読者にとってなじみが薄いものの、読んでみると実はおもしろい少女マンガへの綱渡し」なのですが、金田一蓮十郎先生はまさにそのテーマにふさわしいマンガ家さんです。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
いきなりですが、連載1周年となる今回の「ウソだと思って読んでみろ!」は、何とついにマンガ家さんへのインタビューを敢行(かんこう)です! マンガ好きにとってはまさに夢のような出来事。ありがとうございます! ありがとうございます!
「男性読者にとってなじみが薄いものの、読んでみると実はおもしろい少女マンガへの綱渡し」を1つのテーマとして、これまで本連載ではさまざまな作品を取り上げてきましたが、今回お話をうかがったのはまさにそのテーマにふさわしいマンガ家さん・金田一蓮十郎先生です!
金田一蓮十郎先生――社主と同世代なら「少年ガンガン」の人気作「ジャングルはいつもハレのちグゥ」「ハレグゥ」の作者として知っている方も多いのではないでしょうか。社主も「ハレのちグゥ」以来かれこれ18年間ずっと追っかけてきた先生の大ファンです。
これほどまで長く読み続けられる金田一作品の魅力とは何か。それはまず何よりコメディとして抜きん出た笑いのセンス、そして第1話冒頭から「えっ!?」と驚く展開とストーリー運びのうまさ、それに男女の別なく親しみやすい絵柄などなど、数え上げればきりがないほど。まさにマンガは楽しむためにあるのだということを教えてくれる、社主のマンガ観における原体験にもなった作家さんの1人です。
その金田一先生ですが、現在は少女マンガ誌「デザート」にて、初めての本格的少女マンガ「ライアー×ライアー」を連載中。詳しくはこの後のインタビューをお読みいただくとして、その魅力は少女誌でもいかんなく発揮されています。
そんなわけで、まずは先生の経歴を簡単にご紹介。
金田一蓮十郎(きんだいち・れんじゅうろう)
96年「ジャングルはいつもハレのちグゥ」で第3回エニックス21世紀マンガ大賞準大賞を16歳で受賞してプロデビュー。翌97年から「少年ガンガン」で連載を開始。「ジャングルはいつもハレのちグゥ」、改題作「ハレグゥ」はいずれも同誌の人気作として09年まで12年間にわたって連載。そのほか「ニコイチ」「チキンパーティー」、「ミリオンの○×△□(スペル)」などを連載。
現在は「デザート」にて「ライアー×ライアー」(〜5巻、以下続刊/講談社)、「ヤングガンガン」にて「ラララ」(〜2巻、以下続刊/スクウェア・エニックス)のほか、今年6月からはドラゴンクエストX公式マンガ「ゆうべはお楽しみでしたね」の連載も開始。
では前置きはこれくらいにして、ウィキペディアにも載っていない金田一蓮十郎先生のデビューから現在までのお話をどうぞ!
UK は、はじめまして。今日はどうぞよろしくお願いします。
金田一 よろしくお願いします。
UK まず少し自分の話になるんですが、社主は「少年ガンガン」を創刊号から読んでいます。それがちょうど小5の頃で、それからずっと読み続けていたんですが、高1のときに先生の受賞作「ジャングルはいつもハレのちグゥ」(*1)が読み切りで載って、「これめちゃくちゃおもしろい!」って、当時すごくショックを受けたんですよ。それでアンケートはがきに「連載希望」って書いて出しました。
(*1)「ジャングルはいつもハレのちグゥ」:金田一先生のデビュー作。改題作「ハレグゥ」含め全20巻。ジャングルの村に住む主人公の少年・ハレのもとにやってきた謎の少女・グゥを中心に、個性的な村の住人たちや家族とのやり取りを描いたコメディ。今読んでも色あせない不朽の名作です!
金田一 書いたんですか!
UK はい、それはもう! で、それ以来今までずっと先生の作品を読ませてもらっているのですが、高校生だった当時何よりショックだったのは、自分と同い年の人がもうプロのマンガ家として、しかもこんなに面白いマンガを描いているということ。それと「金田一蓮十郎」っていうペンネームだったので、男性だと思っていたら、実は女性だったというところで2度驚きました。
そこでなのですが、まずはデビューに至るまでのきっかけをうかがいたいなあ、と。
金田一 「ドラクエ4コママンガ劇場」(*2)が大好きで、マンガは昔から描いていました。うちは5歳上の兄がいたので、嗜好(しこう)も少年マンガとかゲーム寄りに育って、ドラクエ自体が好きで。その時にドラクエ4コマを知って、「よし、私これ描く人になるぞー」って。それが小4くらいの頃で、その後「少年ガンガン」が創刊して、「ガンガンで描いたらきっとドラクエ4コマ描かせてくれるようになるんじゃないか」と思ったんですよ。
(*2)「ドラゴンクエスト4コママンガ劇場」:エニックス(当時)発行の単行本シリーズ。「南国少年パプワくん」の柴田亜美先生、「魔法陣グルグル」の衛藤ヒロユキ先生など、後に創刊する「少年ガンガン」の人気作家が注目されるきっかけにもなった。
UK もともとはドラクエ4コマが描きたかったんですね。
金田一 そうなんです。本格的にマンガを描こうって思ったのも、ドラクエ4コマが初めてでしたね。その後中3の受験が終わって40ページくらいのシリアスなファンタジーを描いて投稿したんですが、引っかからなくて。それでも続けていこうと思って描いたのが16ページくらいのギャグ作品。応募期間が迫っていたのでショートギャグを送ったんです。そしたら最終選考に残って、担当さんがついたんですよ。高校1年生のときでしたね。
それで「次に投稿する作品を一緒に考えましょう」ということになって、多ければ多いほどやる気があると思ってもらえると思って、いっぱいプロットを出しました。その中にジャングルに住んでいるハレとグゥにあたる男の子と女の子が何だかんだするコメディがあって、担当さんが気に入って「これを描いて」って。「一番何も考えずに描いたやつやわー」と(笑)。最初はもっと「浦安鉄筋家族」みたいなギャグばかりの作品にしようと思ってたんですが、考えてみたら、あそこまでインパクトのあるすごいアイデアは出ないなっていうことで、ああいう作品になりました。
UK 先生がデビューされたころの「ガンガン」は、ちょうど濃い少年マンガ誌から少し路線が変わる時期だったと思うのですが、当時の連載作の中でも「ハレのちグゥ」はシュールと言うか、発想がいろいろ「飛んでる」ように思いました。何か影響を受けたマンガやマンガ家さんはいらっしゃいましたか?
金田一 私はまず絵から入りました。兄がいたこともあって青年マンガ寄りで、中学生の時は「変」の奥浩哉先生と「寄生獣」の岩明均先生を模写しまくったんですよ。
UK えっ、それはちょっと意外です!
金田一 絵柄の方向性はかなり違うんですけど、ものすごく模写しましたね。当時の中学生目線の私には相当そっくりに描けてました。
UK じゃあ少女マンガとかはあまり……。
金田一 読まなかったですねー。少年マンガ、青年マンガばかりで。
UK そんな中、少女マンガ誌「プリンセス」で「チキンパーティー」(*3)の連載が始まりましたよね。「えっ、少女マンガなの!?」って意外に思ったのを覚えています。
(*3)「チキンパーティー」:06年まで「月刊プリンセス」にて連載(全3巻/秋田書店)。一人暮らしの女子中学生・毬央(まりお)の家に突然押しかけて来た着ぐるみのような謎の鳥人間・トリがおせっかいながらに近所の人たちの悩みを解決していくコメディ作品。ちなみに本作のトリは「ライアー×ライアー」にもゲスト出演中。
金田一 少女マンガとは言えないような(笑)。秋田書店さんには本当に好き勝手描かせてもらって。
UK 確かに(笑)。社主が少女マンガに手をつけ始めた頃で、当時少女マンガ自体にまだ抵抗があったんですが、読みはじめてすぐ「ああ、いつもの金田一先生だ」って安心しました。1話目から主人公の女の子にボディーブロー入ってましたもんね(笑)。
「ライアー×ライアー」で本格的な少女マンガに挑戦
UK それで今本格的な少女マンガとしては初めてになる「ライアー×ライアー」(*4)を連載しておられるわけですが、実際に少女マンガを描き始めるにあたって何か違いのようなものはありましたか?
(*4)「ライアー×ライアー」:10年から「デザート」(講談社)にて連載中(〜5巻、以下続刊)。20歳の女子大生・高槻湊(みなと)は遊び半分に友達の高校時代の制服を着て渋谷に出かけたところ、偶然にも同い年の義弟・透(とおる)に遭遇。湊は別人の女子高生・みなを演じて切り抜けようとするが、そのみなの方が透に一目惚れされてしまう。透の女癖の悪さのせいで長らく迷惑をこうむってきた湊は、みなを通じて透を真っ当な性格にしようと試みるが……。試し読みはこちら。
金田一 少女マンガは小学校低学年の頃に「りぼん」を一時期買ってたくらいで、その時も「かっこいい、きゅん……」って思ったかどうかもあやしいくらいだったので、「そんな私が少女マンガ描けるの?」みたいな感じはありました。なので描き始める前に、少女マンガってこういうのなんだっていう雰囲気を知るために、編集さんから「これ読みましょう、あれ読みましょう」っていろいろ作品を渡されて「面白いなあ」と思いながら読みました。
UK なるほどー。でも先生の絵柄は元々かわいいので、少女マンガになっても違和感は全然なかったですね。
「ライアー×ライアー」は、主人公の湊が変装した女子高生・みなと、義理の弟・透がひょんなことから付き合ってしまうというお話なんですが、「このままだとまずい」と思ったみな(=湊)が、透と距離を置こうとしてつくウソがことごとくダメな方向に行ってしまいます。別れようとして親の海外転勤をでっち上げた先がエクアドルだとか、透から関係を迫られたときに「じつはうちカトリックなんだわ!」って切り抜けようとするところとか。そういう斜め上なウソの中身は「昔からの金田一先生だ」って、いつも笑わせてもらってます。
とは言え、やっぱり湊がつくウソのために良くも悪くも周りが振り回されている状況もあるわけで、先生ご自身、一人の女性としての湊はどう見えますか?
金田一 いやー、クズいなーって(笑)。
UK (笑)。いや、それ言っていいのかなあと思ってたんですけど、湊って結構……。
金田一 悪女ですよ(笑)。
UK ですよね(笑)。男の立場から言わせてもらうと、やっぱりちょっと困った子だと思うんですよ。ウソのつじつま合わせのせいで、付き合ってた彼女に振られてしまう男キャラもいたりするとか。悪意がないってことは分かっているんですけど。
金田一 でも、「よくしよう、よくしよう」と思ってやってることなので、多少「がんばれっ!」って思ってもらえたらいいなと思ってるんですけどね。
UK ちなみにM女史(ねとらぼ編集)から見て、湊ってどうですか?
M女史 私はハラハラしながら読みました。想像すると胃がキリキリしちゃって。
UK 確かに1日の限られた時間で湊とみなの2役をこなしたクリスマス(第5巻)なんかはかなり緊迫してましたね。そっか、やっぱり湊の立場で見るのか……。
金田一 少女マンガなのにあまりうれしくない状況を描いていると思いますよ。「モテモテなんだろうけど……」みたいな。「わあ、こんなにいろいろなイケメンに愛されて」っていう目線で見られないと思うんですよ。「うわ、どうするのこれ……」っていう、あまりうらやましい状況じゃないんですよね、少女マンガなのに。そのあたりがコメディなんじゃないかなって思います。
UK そこはやっぱりコメディ要素が入るんですね。
金田一 コメディ要素がないとマンガが描けないです。
UK さっきは少し湊のことを悪く言いましたが、でもこの「ライアー×ライアー」の登場人物って基本的にみんないい子だと思います。特に湊の友達の真樹ちゃんはすごくいいやつだなあって。湊がどんなに厳しい状況になっても見捨てずちゃんと付き合ってくれて。彼女のおかげで湊は何とかやっていけてる。
それで、今社主が一番心配しているのはこれからのことなんです。「これ、どうなっていくのかな」と。さっきも話したように、ウソにウソを積み重ねていった結果が今の複雑な関係じゃないですか。そうすると、いくら真樹ちゃんのフォローがあっても、いずれウソがバレてしまって、湊/みな/透の関係は破綻せざるを得ない、区切りをつけないと仕方なくなる日が来ると思うんです。だとすると、これはどうもハッピーエンドにならなそうだな、と……。だ、大丈夫ですか?
金田一 大丈夫ですよ(笑)。私はバッドエンドが嫌いなので。辛いことなんかは現実にいっぱいあるんだから、マンガという娯楽の中はやっぱり気持ちのいい世界であってほしいな、逃げられる世界であってほしいなって思って描いているので、どんなにしっちゃかめっちゃかになろうとも、私なりのハッピーエンドを描こうと思ってます。
UK おお……。
金田一 「ハレグゥ」のラストも、ハッピーエンドのつもりで描いてるんですよ。「ホラーだ」って言われたんですけど、「あれハッピーエンドだぜ」って。
UK えーっ!
金田一 あのラストは最初から考えてました。もう1巻、2巻が出るあたりで。いつでも終われるようにしなきゃいけないって思ってたので、「よし、最後はこうしよう」って。
UK そうだったんですか! いや、それは本当に驚きました!
金田一先生、ウソつくのはやっぱり悪いことでしょうか?
UK ところで、社主はもうかれこれ10年ウソをつきながらやってきたので、実は湊のことをあまり悪女だ何だとか言えない立場なんですが、ウソをつくのはやっぱり悪いことでしょうか……。
金田一 ウソの種類にもよりますよね。やっぱり悪意を持ってだますウソはバレたときに嫌な気持ちになるけど、優しさでついてくれてたんだなっていうウソはウェルカムでしょう。
UK なるほどー。悪意のないウソはいいですよね、うんうん。
それにしても、今回こうして憧れの金田一先生にお会いできることになるとは、まさかまさか18年前にアンケートはがきを出したときには思いもせず……これまでずっとウソをつき続けてきてよかったです! 今日は本当にありがとうございました!
金田一 ありがとうございました!(笑)
……というわけで、今回のインタビューでは、デビュー作「ハレのちグゥ」と、現在連載中の「ライアー×ライアー」を中心に、お話をうかがいました。それにしても金田一先生、単行本巻末などに出てくるおまけ4コマそのままに本当に気さくな方でした。
ちなみに今回はあまり紹介できなかったのですが、「ドラゴンクエストX」を通じたオンライン×オフラインなマンガ「ゆうべはお楽しみでしたね」と、特に愛し合ってもいない全裸女医とリストラ青年が婚姻届に判を押したところから始まるむちゃ振りな結婚生活を描いた「ラララ」もそれぞれ連載中です。特に「ゆうべは〜」は、社主が長らく引退していたドラゴンクエストを再開するきっかけにもなった作品で、第1話から相当のインパクトがあるので、ぜひご覧ください。
さて、冒頭でも書いたように、おそらく「ねとらぼ」の男子読者にとって、金田一先生は「ハレグゥ」の作家さんとして最も知られているように思うのですが、「ライアー×ライアー」のような少女マンガでも、その面白さは全く変わりません。
これまで紹介してきた数々の少女マンガと同じく、あるいはそれ以上に「ライアー×ライアー」は男性にも読みやすい作品です(「デザート」のほかの作品に比べて男性ファンも多いのだとか)。それはやはり「少年誌出身の女性作家」という、いわば「男心も女心も分かる」先生の来歴にあるんだろうなあ、と今回のインタビューを通じあらためてそんなふうに感じました。
「昔『ハレグゥ』は読んでたけど、最近は読んでないな……」とか、「近頃少女マンガに興味が出てきた」という男性には本当におすすめ! ちょうど来月8月12日に最新刊となる第6巻が出るということなので、これを機会にぜひ手に取ってみてください。コメディとして楽しむもよし、ハラハラしながら読むもよし、しかも後味悪いお話にならないことは金田一先生ご本人の保証付き。もちろん女性が読んでもおもしろいということは、M女史が語る通りです。読めばきっと今回のインタビューがもっと楽しめるようになると思います。
UK いやー、しかし今回金田一先生から「悪意のないウソは許される」って言われて、すごくうれしかったですよ! 何か免罪符をもらったような気分で。
M 正しくは「優しさでついてくれたウソは許される」ですよ。社主は優しさでウソついてますか!?
UK ……。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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