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「2010年代のオタクは、推しに毎日会えるようになった」 ”カップリング表記研究家”に聞く、奥深い同人文化の世界(2/2 ページ)

週一から毎日へ。

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 そうです。ドラマ・特撮ときた実写作品人気の流れにハリー・ポッターがさらに拍車を掛けました。そして同じ年には「ロード・オブ・ザ・リング」も来たことで、一気に洋画系の波が来ています。



 洋画ジャンルの当たり年だったんですね。



 そう、当たり年みたいな流れってありますね。両作品ともイギリスの小説が原作でしかもファンタジーっていう共通点も面白い。ハリー・ポッターって一般層を多く取り込んでいた作品でしたし、ここで足を踏み外……同人界に足を踏み入れた方も結構いるんじゃないかと思います。ちなみにその前は中華ブームがありました。90年代後半の中華ブームは、封神演義、それに「最遊記」……。



 最遊記は「最遊記RELOAD BLAST」が現在放送中ですね。そして「魔法陣グルグル」も放送中だし……今年って本当に2017年なの……?




2000年前後に起きた中国ブームの担い手となった最遊記シリーズ。「最遊記RELOAD BLAST」はアニメ放送中

 作者の峰倉かずやさんはもともと同人作家さんで、その頃オリジナルで描かれていた作品が商業化されてます。調査中にサークルカットで見かけましたが、格段に絵がうまくてオーラがありましたね。中国の話に戻ると、この時期ゲームでは「幻想水滸伝」が人気です。最遊記の元ネタ「西遊記」と同じ中国三大奇書仲間の「水滸伝」が元になってる作品ですね。それと2000年からは「真・三國無双」のシリーズが出始めてます。



 やっぱり、特定のジャンルが当たり年みたいな流れってあるんですよね。不思議ですよねえ……。



 偶然もあるとは思いますが、「この分野が熱い」となると他の人たちも参戦してくるからではないでしょうか。それでさらに盛り上がる。



 ファンとしても、「このジャンルがおいしいぞ!」ということになると類似作品に手を出してみたりしますからね。必然ですねきっと。



 ハリポタで面白いのが、私は普通に主人公の三人組が人気なのかと思っていたら、実際に人気があるのは親世代なんですよね……。



 えっ! ハリポタのカップリング人気は親世代なんですか? 親世代がピンと来なくて取り残された気分です。そしてこれと同じ感覚を「忍たま」の時に感じていました……。2000年代半ばくらいに忍たまが盛り上がった「忍たま彗星」が訪れたときも、「乱太郎、きり丸、しんべヱじゃないんだ」って取り残された気持ちになりました。上級生なんですよね。



「忍たま彗星」として一部ではおなじみの「忍たま乱太郎」。「カップリング表記データブック・作品ガイド」p.28より引用した画像は2000年代半ばの「忍たま彗星」より前のもの

 あ、でも土井先生は人気ですよ。一般認知度も高いですよね。



 あーー、土井先生は分かります! 「土井先生が初恋の人」って言っている子が周りに何人かいたはずです。



 忍たまは常に一定数のファンがついているようなイメージなのですが、時々「忍たま彗星」が飛来するとはよく聞きます。そろそろ調査に差し掛かる年代だと思うので、どんな彗星だったのか周期とか成分を調べられると思うとわくわくしますね。


2000年以降の同人文化


 2000年代は何がトップジャンルなのかイマイチ見当がつかないですね。テニプリは2004年がピークといわれているので中盤まではテニプリが強いと思いますが、「ハガレン」(鋼の錬金術師)と「ガンダムSEED」のブームもどこかにあるはずで、後半には「リボーン」(家庭教師ヒットマンREBORN!)に「ヘタリア」に「ガンダムOO」、そして「おお振り」(おおきく振りかぶって)と、かなり群雄割拠なのではないかと。2010年代になると「黒バス」(黒子のバスケ)が出てくるので、分かりやすくなってくるんですけど。



 なので、2000年代についてはこれから調べるのが楽しみです。私の本を読んでくださっている方は、このあたりで同人の世界に入った方が多そうですし、特にテニプリで新規参入された方も多いと思いますので、その熱気のある時代を早く知りたいですね。



テニスの王子様。現在は「新テニスの王子様」がジャンプSQ.で連載中。画像はAmazon.co.jp

 やっぱりテニプリは強いですね……。



 当事者の方に聞いてみたら「テニプリは心に楔(くさび)のように残っている」と言ってました。今は別ジャンルが好きだったりするんですけど「それは跡部王国で見ている」という。最近跡部王国で「おそ松さん」とか「ユーリ」(ユーリ!!! on ICE)が流行ってる、みたいな。あとヘタリアが好きな人は、「体はイタリアにいる」とか。



 うわ「体はどこかに所属していて、そこから流行ジャンルもおいしく食べる」みたいな感覚めちゃくちゃ分かる……!



 ちょうどおそ松さんの話が出たところで、あれだけ二次創作の人気があるおそ松さんですが、コミケのカップリング表記では最高3位で、トップジャンルになったことはありません。



「おそ松さん」(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会(公式サイト

 社会現象にもなった「おそ松さん」、コミケでは覇権が取れていないだと……?



 ただこれは、近年コミケの立ち位置が変わってきた、ということがありますね。かつてのコミケは、「最大かつ唯一のイベント」みたいな意味合いが強かった。今でも最大のイベントではあるんですけども、旬の作品に限定すれば「オンリーイベント」の方が規模が大きくなってきています。

※オンリーイベント……特定のアニメやゲームなどの作品、もしくはその中に登場するキャラクターやカップリングに特化した同人誌即売会、同人イベントのこと。


 昨年の冬コミだとおそ松さんのサークルは500くらいしかなかったんですが、翌月のオンリーイベントでは1700サークル以上あったりしました。コミケには参戦しないでこちらのオンリーに合わせた方も多いと思います。



 ……でも、その事実を踏まえてみると、覇権は取れていなくてもコミケのカップリング表記的に上位にいることってめちゃくちゃすごいことですよね。



 本当にすごい。コミケのカップリング表記研究でいうと、歴代のトップジャンルはほとんどが漫画作品なんですね。おそ松さんみたいなアニメ作品は放送中に一気に盛り上がる傾向にあるので、申込みから開催までが長いコミケにはあまり合っていなくて、そういう意味でもフットワークの軽いオンリーの方がフィットしてる感じがあります。



 1クールは3カ月と短いですからね……。「おそ松さん」は2クールでしたが。そこでパーッと盛り上がって、徐々に徐々に沈静化していく。という感じですか……。



 そうですね。毎週あった「アニメ」という公式からの供給がなくなってしまうのはやはり大きいと思います。続編は決まっているので良いですが、それまでの期間で新しいアニメも始まりますし、当然人気が落ち着いてしまう。なので、「継続的に掲載している週刊漫画は強い」っていうのはそこですね。



 だから、週刊の少年誌の掲載作品が覇権になりやすいんですね。毎週マンガという公式からの供給がある。そして、「刀剣乱舞」の強さも……。



 そう! その戦術で今一番強いのがソシャゲなんですよ。



「推しに毎日会える」ソシャゲは強い


 ソシャゲはサービス停止しない限り、終わりがないですからねぇ。



 ジャンプは週刊誌ですから、基本週一で見てるわけじゃないですか。でもソシャゲには毎日ログインする。それがシンプルに強い。



 2010年代のオタクは、推しに毎日会えるようになった……!



 だから、今ソシャゲが同人で人気なのは分かります。ログインボーナスとかイベント周回のために毎日触れるし、SNSでも毎日のようにイラストやスクショが上がってきます。定期的にイベントもあるし、新キャラ投入はあるし、そのたびに盛り上がる。



 Twitterでもソシャゲの新キャラ投入やイベントのたびにトレンドに上がりますからね!



 そうですね。お祭りが日常になったかんじでしょうか。こういった安定した継続性もあって、同人へ参戦しやすくなってるんだと思います。



「カップリング表記データブック2001×2016」とタルトさん。ありがとうございます。


 今回は同人の人気作品の歴史について伺っていきました。週一で公式からの供給がある少年マンガ誌が強かった時代がずっと続いていたのが、ソシャゲの登場により2010年代のオタクは推しに毎日会えるようになりました。そして次回、今回盛り込みきれなかったカップリングの歴史や男性向け作品のカップリングへと続きます!

ちぷたそ

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