作品のテーマを汲み取る
―― 映像に実写を積極的に使うのも10GAUGEの特徴ですよね。「正解するカド」の予告では冒頭から長尺の実写パートが使われていて、テレビを見ていて「何のCMだろう?」と引き込まれました。
依田:実はあそこの実写パートはうちではなくて、アニプレックスの高橋祐馬さんのアイデアだったはずです。実写部分の映像処理は多少手伝いましたが、そちらも主にプロデューサーの野口光一さんが手掛けていました。プロデューサーなのに野口さん自身CGクリエイターでもあるんですよ。あれも変わった座組で、おもしろかったですね。
―― 「正解するカド」ではOPも手掛けられていますよね。グネグネ動いてるあれは何なんですか?
依田:あれも実写です。ものすごく寄りで撮れるマクロレンズをハイスピードカメラに付けて、いろんな液体を混ぜたりしたのを撮影してます。社内にはカメラが趣味のスタッフが多いので、いろいろな機材があるんですよ。せっかくだから使わない手はないと、実験映像風な素材を作って、それをアニメに落とし込んでいきました。これは本当にアニメの仕事なのか? と一瞬頭をよぎりましたが(笑)。
―― 野口プロデューサーつながりだと、「楽園追放」の予告編はノイズのかかった画面が強烈でした。
依田:もっと絵を奇麗に見せろと怒られそうなところですが、あれは野口プロデューサーに「オリジナルコンテンツなので、どういう作品か分かってもらう前に話題になるような何かを作りたい」というお題をもらって。映像だけでなく音楽も切り刻んで、「ノイズの世界」というテーマで作ってみました。冒険しても防波堤になってくれるプロデューサーがいてくれるとやはり心強いです。
―― “予告編”という今回の趣旨からややずれてしまうのですが、「劇場版 プリティーリズム・オールスターセレクション プリズムショー☆ベストテン」では総合演出にクレジットされてますね。
依田:テレビシリーズには参加していませんでしたが、プリズムショーの名シーンを集めた劇場版を作りたいというお話がきて、まず放送済みだったテレビ版を100話以上一気に見ました。本編のスタッフが参加しない劇場版だったので、それをお預かりする以上きっちり予習しておかねばと。
―― 映画本編の映像チョイスのすばらしさもですが、エンディングのワイプに出てくる名場面集が涙腺崩壊ものだと知人のプリリズファンが絶賛していました。
依田:映画本編は歌って踊る楽しいシーンが中心だったので、シリアスな場面はなかなか入れられなかったんです。でも「プリティーリズム」って実はドラマも濃いんだよっていうのをどこかで入れたかった。それで最後にああいう形で入れさせていただきました。でも、そんなところまで見てくれるのはうれしいなあ。テレビ版を全部見た甲斐がありました(笑)。
いろんな映像を「散弾」していく
―― 本当にさまざまな映像を作られていますが、一度成功したら、またそれをやろうという気になったりしませんか。
依田:確かに黄金パターンみたいなものもあるにはあります。「同じものは作れません」ときっぱり言えればかっこいいのですが、難しいのは、メーカーさんが求めているのがまさにそれだったりすることです。
最近多いのは「『君の名は。』みたいなPV」を作ってほしいというパターン(笑)。でも、はい分かりましたと「君の名は。」みたいなPVを作っても、良くて「同じじゃん」と言われるだけですよ。最初の「君の名は。」のPVには絶対勝てない。ちょっとでも違うものを入れてあげないと、という思いは常にあります。
―― いろいろなバリエーションに応える柔軟性が求められそうですね。
依田:社内でスタッフの趣向がバラバラなのも良い化学反応を生んでいるのかもしれません。共通の好きな作品といったら「機動警察パトレイバー 2 the Movie」ぐらいで、アニメや映画の趣味は皆バラバラです。そういえば、僕もスタッフに参考として出す資料はアニメではなく、写真集や実写の映画であることが多いです。
弊社に松木(大祐)というスタッフがいるんですが、彼はハリウッド映画や海外ドラマが大好きで、僕がちょっとこじらせた美大生みたいなものを出すと、彼がポップさを足してちゃんと一般性を持たせてくれる。そんな良い感じの調和が取れてます。
―― ところで、“10GAUGE”という名前には何か由来があるんですか?
依田:散弾銃の弾の口径に「10 GAUGE」という大きなサイズがあり、そこから取っています。僕ではなく松木が付けたもので、会社化前の時代にサイトのドメインを取得する際に決めました。彼は銃などの兵器類が大好きで、「いろんな映像を散弾していく」という勢いも込めた名前だそうです。僕は「なんか男根感すごいから名前変えたい!」と何度か主張しましたが、結局いつの間にか定着していました。
―― 今後挑戦してみたいことはありますか。
依田:今まで僕がプロデューサーを兼任していましたが、最近会社に新しくプロデューサーに入ってもらいました。自分たちで何かを作るときにどっしり居てもらわないと困るだろうと。
普通、会社の代表だから経営に専念して……という流れになると思うんですが、僕は自分で映像を作っていたいんです。10GAUGEはもともと大学時代に松木と2人で始めた映像ユニットでした。松木は当初ゴンゾロッソという会社に就職して、僕は学業の傍らアルバイト的に彼の仕事を手伝っていた。次第に他からも仕事が取れるようになって2007年に会社化したんです。
―― 音や映像素材を自前でなんとかしてしまうのも、学生時代からの蓄積があるからなんですね。
依田:自主制作精神は確実に残ってます。現在、BS-プレミアムで放送中の「がんがんがんこちゃん」というショートアニメを作ってますが、こういったオリジナルコンテンツは今後も作っていきたいですね。もちろん30分枠のテレビアニメを作る体力はないですし、継続的なスタッフの育成も必要です。
そういう意味では新海さんのコミックス・ウェーブ・フィルムはひとつの理想形です。もともと新海さんは個人で作りたい人だったと思うんですけど、それだとどうしても制限がある。そこでコミックス・ウェーブさんは新海さんの作品で一番のキモとも言える美術スタッフをゼロから育て上げたと聞きました。それが結果、「君の名は。」で花開いた。
アニメ業界ってみなさん忙しいし、例えば宮崎駿さんが声をかければみんな宮崎さんの方に行っちゃうじゃないですか。それぞれ優先度を持って仕事されているので、どうしても自主制作的なものを業界の人に手伝ってもらうのは難しいんです。そうなると、やりたいことをやるには実は自分たちの力をコツコツ付けるのが一番の近道という気がしています。
10GAUGEの主な担当作品
・劇場アニメ「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」PV・CM(2017)
・DAOKO × 米津玄師『打上花火』MV(2017)
・劇場アニメ「劇場版 はいからさんが通る 前編」特報PV・CM(2017)
・TVアニメ「メイドインアビス」タイトルワーク・タイポグラフィ(2017)
・TVアニメ「機動戦士ガンダム サンダーボルト」PV・CM・イベント用映像(2017)
・TVアニメ「有頂天家族2」OP(2017)
・TVアニメ「正解するカド」OP・PV・CM(2017)
・TVアニメ「サクラダリセット」OP(2017)
・TVアニメ「文豪ストレイドッグス」劇場アニメ「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」PV・黒の時代編OP(2016〜)
・TVアニメ「モブサイコ100」OP・アイキャッチ・PV(2016)
・TVアニメ「おそ松さん」「おそ松さん(2期)」PV・CM・ショートフィルム・OP(2016〜)
・劇場アニメ「君の名は。」PV・CM(2016)
・TVアニメ「3月のライオン」EDモーショングラフィックス(2016)
・TVアニメ「血界戦線」「血界戦線 & BEYOND」PV・CM・テロップワーク制作・総集編制作(2015〜)
・TVアニメ「Wake Up, Girls!」劇場版「Wake Up, Girls! 青春の影」「Wake Up, Girls! Beyond the Bottom」PV・ポスターデザイン・CM・OP/ED 主題歌 MV(2013〜)
・劇場アニメ「楽園追放 -Expelled From Paradise-」 PV・CM・タイトルロゴモーション・本編テロップワーク(2013〜)
・TVアニメ「ノラガミ」「ノラガミ ARAGOTO」PV・CM・ED主題歌MV(2013〜)
(福田瑠千代:聞き手・構成、Kikka:聞き手)
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脚本は連続テレビ小説「てるてる家族」などの大森寿美男さん。