2話「死にたがりの手紙」
傑作エピソードです。メインになっているのは、練炭を使った一家心中事件。一家心中ものは「無理心中だった」「実は殺人だった」「意外な動機だった」といった解決に落ち着くくらいしかないので、正直話の膨らませようがないとパッと思う。
ところが身分証が出てきて、死んでいるのは全員他人だということが明らかになる。そこでいきなり思考停止させられるわけですが、解剖を進めていくと「みんなは一酸化炭素中毒死なのに、1人の少女だけは凍死している」というとんでもなく不可解な状況が現れます。もうダブルパンチですよ。さらに1話目で触れられたミコトの過去エピソードを回収し、今起こっている事件と重ね合わせるというスピード感に度肝を抜かれます。
盛りだくさんの謎が詰まっているのですが、早い段階で構造は分かりやすく整理されます。視聴者は「1人の少女はなぜ死んだのか」というシンプルな謎だけを追えばいいので、見かけの複雑さのわりに混乱しません。さらに話が進むと、今まさに窮地に立っている人物がいることが示されます。言わずもがなですが1話と同様に、「1人の死を解き明かすことで、未来の人を助ける話」という構図になっているわけです。
さて、このエピソードを見た時に、多くの人が座間市の事件を思い浮かべたのではないでしょうか。もちろん制作時期は事件発覚よりも前なのですが、結果的に時事ネタを拾い上げたようなエピソードになりました。「アンナチュラル」は、「事件を通して現代を描く」という点でも成功しているドラマだと思います。現代の苦悩や喜びを浮き彫りにするために、「今この社会でしか起こりえない事件」を的確に選んでいったからこそ、「現実がフィクションに追いつく」ようなことが起きたのでしょう。
編集担当からのどうしても言いたいひとこと
2話でミコトと東海林が話題に出している「ボーンズ博士」とは、アメリカのドラマ「BONES」に登場する女性法人類学者ブレナン博士のこと。骨から証拠を見つけて事件を解決していくドラマです。空気を読まず人間にもあまり興味がないボーンズ博士とマッチョで心優しいブース刑事とのコンビが最高。それから「CSI」をはじめアメリカの海外ドラマではシーズン終わりにレギュラーキャラが犯人に捕らえられ絶体絶命の危機に陥ることが多いので、「いきなり2話でやるんだ〜!」とテンションが上がりました。
3話「予想外の証人」
妻殺しに関する裁判に、検察側の証人として出廷したミコト。しかし裁判中にミコトは「凶器が違う」ということに気が付く――という出だし。こうきたらまずもって容疑者の無実を証明するしかないわけで、どう考えても地味な話になりそうです。
実際、ストーリーは派手な事件を用意していた1〜2話と比べてオーソドックスです。初めに明示されている手掛かりから、科学捜査によって被告の無実を証明する決定的な証拠を引きずりだす。「現在凶器とされている包丁は左利き用だが、解剖初見からは凶器は右利き用包丁のはず」という発見は、決定打にはならないこそ、より確実な証拠をそろえる必要が出てきます。この手がかりの「微妙さ」加減は見事だと思います。
今回は1〜2話と異なり、事件の構造自体は1回も反転しません。3話がすごいのは、違うところに反転の気持ち良さを用意しているところ。事件の解決ではなく、ミコトと中堂さん、それぞれのピンチにおいて、「どうやったら相手を説得できるのか」が主眼になっています。これってかなり現代的なミステリのテーマで、例えば円居挽先生の「丸太町ルヴォワール」や城平京先生の「虚構推理」は、「真実がどうであるか」よりも「どうやって人々を納得させるか」が主題になっています。最近だとさらにそれを発展させ、「みんなが納得したものが真実である」となっているものもあるのですが……脱線するのでこれくらいで。
さて、「アンナチュラル」3話では、ミコトと中堂さんが直面している問題を、非常に鮮やかな方法で解決します。布石として「男vs女」という構図を過剰なほどに強調しつつも、視聴者が予想した方法では解決しない。物語上非常にうまいです。これも1話とつながるのですが、本作におけるミコトの敵は「不条理な死」であって、男女差別意識の強い検事や世間ではない。不条理な死という本物の敵に、ミコトは勝っているんです。
ただ、それだけだと視聴者のモヤモヤが晴れません。そこで中堂さんが最後に吐き捨てる言葉が、視聴者にとってのカタルシスになっていますね。本作は視聴者の倫理観や正義感にかすかな引っ掛かりを作っておいて、後にきちんとフォローすることでカタルシスを作るのが非常にうまく、配慮がされていると思います。
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