4話「誰がために働く」
交通事故によって亡くなった工場員を死に追いやったものは、「過労」させた工場長なのか、「病気」を見逃した医者なのか、それとも「バイクの故障」を見落とした修理工場なのか――4話で初めに提示されるのは、トリッキーな謎です。
従来のミステリ作品では、あまりこういう問いの立て方は見ません。真相がその3つのどれになっても、あまり面白くないですよね。大体ミステリでこういうつまらなそうな謎が出てくると、自殺か殺人という方向に話が転がっていきそうなものです。
ところが「アンナチュラル」では、早々に「過労による事故」という方向で絞られた上に、「真実は最初に提示された3つのうちのどれでもない」と示される。本当の要因になったのは、実際に死んだ日よりも1カ月前の事故であり、本当の“悪”は成金の社長――という意外な展開になります。視聴者にとって一番勧善懲悪的なカタルシスが得られる相手、つまり「こいつに報いを受けてほしい」と視聴者が感じる人物を、最後の対決相手にしているのが非常にうまいですね。
「アンナチュラル」の分かりやすい特徴として、いわゆる「犯人側」の物語はほとんど描かれません。テンプレ的なキャラ描写がされていると感じることも多い。細やかな心理の裏表を描く物語だからこそ、「悪役」については視聴者の解釈が揺らがないように描かれていますね。実際問題、「残された者の物語」を描くことを目指すなら、犯人の物語を描き込む余裕なんてなくなっていくというところもあるでしょう。
4話については、その「生者の物語」をうまく感動的なエンタメとして仕上げています。最初加害者のように見えていた工場の人々のイメージをしっかり転換し、“味方”として描きなおす。被害者の家族だけではなく、工場の人々も、1人の死に向き合うことで、結果的に自分たちが生きることを選択する――というきれいな構図になっていました。
さらに、六郎くんの掘り下げもしっかりやっています。彼はジャーナリズムに漠然とした興味を抱き、UDIに“ネズミ”として入り込んだキャラ。1〜2話の暴走気味なところを経て、3話ではジャーナリズムの負の側面を知ります。その裏返しとして、4話ではジャーナリズムのプラスの側面も知りました。だからこそ彼は今後さらにはざまに立たされていくわけですが……、よいバランス感覚ですよね。
物語の大きな転換点となる第5話以降のレビューは、引き続き以下の記事でお届けします!
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