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コラム

自分を微分しても、2次元の世界には行けない数学的な理由

これだから現実世界ってやつは……。

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 アニメの中で甘酸っぱい青春を過ごしたい。そう、2次元の世界に行きたい

 そんなとき、「自分を微分できれば」などという人がいる。3次元の存在である自分を微分すれば、次元が1つ落ちて2次元になれるのでは、という発想だろう。

 しかし! 微分なんかしても、絵の中には入れない。「自分を微分することはできない」とかそういう問題ではなく、できたとしても絵にはならんのだ。

「次数」と「次元」

 高校数学では「三次関数を微分すると二次関数に、二次関数を微分すると一次関数になる」と習う。例えば、「y=x^3+5x^2+6(三次関数)」から「y'=3x^2+10x(二次関数)」といった具合だ。

 これを見ると確かに3次元が2次元になっているように思えるのだが、ここで1減っているのは「次元」ではなく「次数」であることに注意しないといけない。

 文字式において、“+”や“−”で区切られた各式のことを「項」といい、(変数がxの文字式なら)xのn乗が現れる項を「次数がnの項」「n次の項」などという。微分によって減るのはこの「次数」なのだ。

 一方、次元とは「変数の種類」のこと。変数がxだけの1種類なら1次元、xとyの2種類なら2次元。

 つまり、上の微分していった式は、xしか使っていないのでどれも「1次元」である。


中学数学で言葉だけ出てくる「二元一次連立方程式」は、変数がxとyの2種類(二元)で、次数が最大でも1(一次)の「連立方程式」。

 「3次元」という言葉は、物体の位置や大きさを3つの変数で表せる、ということを示している。一方、絵や写真は2変数で表現できるので「2次元」。

 というわけで、微分は「次数を落とす手段」としては使えるが、「次元を落とす手段」にはならないのだ。

「写像」から始める異次元生活

 微分は、2次元の世界へとつながる切符ではなかった。しかし、われわれの前から希望の光が消えてしまったわけではない。

 「俗世間を捨てて絵に入ってウハウハしたい」を数学的に定義すれば、「実3次元空間を実2次元空間に移したい」(※)となる。

 これを実現するものを、数学では「(実3次元空間から実2次元空間への)写像」という。

 ※現実空間における物体の座標は3つの実数で表せるから、これは独立な3つの実数体の直積=実3次元空間である、と考える。平面空間も同様。


立てている指が違うのはご愛嬌

 「写像」という言葉は高校数学まででは出てこないが、基本的には「関数」と同じような意味で、別の2つの集合(今回の例なら3次元空間と2次元空間)を結び付けるものである。

 ここでは「モノAをモノBに変更する処理」程度に考えてもらっていい。Aが生の牛肉、Bがステーキだとしたら、「焼く」という行為が写像である。(なので、微分することも写像の1つではある)

 関数y=f(x)でxの値を決めるとyの値が出てくるのと同様に、現実空間の座標を平面座標に対応させる写像があれば、現実を絵にできる。

 一番簡単な写像は、「3次元上の物体からある平面(スクリーンに当たる)に向けて垂直に各点を移すもの」として定義できる(数学的には「射影」)。これはスクリーンから物体を見たときに見える映像そのものであり、要するに「写真」にあたる。

 ただし、鏡を見れば分かる通り、自分の姿は大好きなアニメキャラクターたちとは程遠いものだ。何かが足りない。

 夢見る2次元の世界は、絵特有の色使いがなされているはずだ。すなわち、空間の座標だけでなく、色も変換対象に加える必要がある。数学的にいえば「実3次元空間×色空間から実2次元空間×色空間への写像」。


三原色を表す変数の定義域をいずれも0〜255と定めれば、色空間は実数体の部分集合[0, 255]3つの直積

 しかも、現実空間とアニメ絵ではしばしば物体の造形(顔のパーツの配置など)が異なるから、ただの射影ではうまくいかない。

 物体を絵として違和感がないように平面上に配置し、適切な色を設定する一連の操作がここでいう「写像」であり、普段これをやってくれているのが画家やイラストレーターということになる。

まとめ:それでも、「2次元に行く」ができない理由

 最後に、重大な問題点が残っている。写像では「絵に物体を写す」ことしかできないので、仮に絵の中に意識を持って動ける自分を写し出したとしても、自分本体は現実空間に残ったままだ。……何も解決しないじゃないか!

 それから、2次元の世界がステキに見えるのは、「クリエイターの想像の中にある空間」を絵に落とし込んだものだからだ。現実空間の次元を落としてみたところで、もしも素材がダメだったら……。

 自分で書いていて悲しくなってしまった。おしまい。

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