SNSで怖いのは、いわゆる“身バレ”。例えば、公開した写真に建物などが写っていると、そこから撮影場所を特定されてしまう恐れがある。
2018年1月31日、日本で皆既月食が観測され、撮影した人も多いかもしれないが、「夜空に月が浮かんでいるだけの写真」から撮影者の居場所を割り出すことは可能なのだろうか。実は、そのために使えそうな数学的な方法が全くないわけでもない。
今回は、月夜に乗じて個人情報を狙う“月食ストーカー”は存在しうるのか、大真面目に考えてみた。
月の写真から、撮影場所を割り出す方法
模様が描かれたボールを別の角度から撮影すると、模様が少しずれて写る。これを利用すると、2枚の写真から、撮影した角度の差をある程度把握できる。ご存じの通り、月にも独特の模様があり、同じようなことができるかもしれない。
地球上の2地点(地点A、地点B)から、月を見上げたとしよう。
地球と月のそれぞれの中心は平均で38万4400キロ離れており、地球の半径(6378キロ)と月の半径(1738キロ)を引くと37万6200キロ。今回は便宜上、月を見上げる2地点と月までの距離が、等しくこの値になるとする(※)。
※ 実際にこの値になるのは、月が観測地点の真上にあるときに限られる。そうでない場合は、この値より大きくなる。
この仮定に基づき、地点A、地点B、月の中心Mの3点を結んだ三角形を作る。
辺AMとBMの距離は先ほど決めたので、AB間の距離さえ分かれば角AMB、つまり観測角度の差が求まる。地点Aを札幌、地点Bを那覇とすると、この2点間の距離は2244キロ。ここから三角関数で角AMBを求めると0.342度となる。
だから、札幌で撮った月の中心部は、那覇のそれから半径の約0.6%分(※)ズレることになる。
※ 観測角度の差が0.342度(0.006ラジアン)の場合、sin(0.006)=0.006なので、半径の0.6%分ずれるという計算
“月食ストーカー”はほぼ不可能
以上の計算の通り、月の写真から撮影位置を割り出すことは不可能ではない。しかし、2つ致命的な欠点がある。
1つは、超高解像度なら分からなくもない程度の微々たる差しか出ないこと。もう1つは、月の位置は時間とともに変わるため、同じ時刻に撮影しないと意味がないことだ。せいぜい「全く同じタイミングで撮った高解像度の月の写真なら、誤差100キロくらいで撮影地点が分かるかもしれない」くらいの精度だろう。
というわけで、今回の結論。「月の写真から撮影場所を特定しようとしたところで、たぶん何の役にも立たない」。
ちなみに次に日本で月食が見られるのは、2018年7月28日。気兼ねなく月食を撮影して、SNS上に投稿しよう。
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