4月13日に政府は海賊版サイトへ緊急対策を行うことを閣議決定し、民間のプロバイダー事業者に「漫画村」など特定サイトへの「サイトブロッキング」を促していく方針を発表しました(関連記事)。法整備が行われるまでの「臨時的かつ緊急的な措置」としていますが、憲法の「通信の秘密」や「検閲の禁止」に抵触するおそれがあるサイトブロッキングを性急に進める政府の姿勢を巡って、ますますの議論を呼びそうです。
「政府はブロッキング要請までに十分な議論を尽くしたか」に注目が集まる中、2018年2月16日に内閣府・知的財産戦略本部が海賊版サイトへのブロッキングについて集中的に議論を行った会合について、議事録が非公開になっていることに一部の識者から疑問の声があがっています。
会合の場とその議事録は原則として公開するよう定められていますが、この会合で非公開としたのはなぜなのか。担当する知的財産戦略推進事務局に取材しました。
非公開となっているのは、「検証・評価・企画委員会コンテンツ分野会合」の2018年度第3回。知財本部では2013年11月から有識者を集めて知的財産の活用について議論する「検証・評価・企画委員会」を開催しており、うち1つの「コンテンツ分野」の会合では定期的に海賊版サイトへの対策についても話し合ってきました。
知財事務局担当者によると、そもそも今回の会合は事前に、委員会の座長・中村伊知哉氏を含む事務局全体の判断で、会合の場そのものを非公開で実施すると決定していたそうです。理由について次のように説明します。
「海賊版サイトによってどれだけ被害が生じているのか個別の具体的な状況を討論する場では、どうしてもサイト名などの固有名詞が出てしまい、それがサイトの宣伝につながってしまうと判断したためです。また企業が公にはしていない数字などの情報も出てしまうので、全てをつまびらかに公開するのが難しいのもあります」
議事録も同様の理由で全文非公開にし、要旨のみの公開に至ったとのこと。もともと事務局では、検証・評価・企画委員会の運営ルールにおいて、委員会の様子は原則として公開するが、「座長が議事を公開しないことが適当であると判断したときは、この限りではない」と定めていました。また議事録は原則として会議終了後に速やかに発言者名を付して公開するとも明記してました。
コンテンツ分野会合では初めてでしたが、企業の情報を公にしないため会合や議事録を非公開にした例は、2017年の「映画の振興施策に関する検討会議」など過去にいくつもあったと事務局担当者。文化庁でもリーチサイト規制に関する会合において議事録を公開しなかったケースがあったと、今回が異例ではないことを説明しました。
議事要旨と資料によると第3回では、ブロッキングについて海外での導入事例、国内における児童ポルノサイトへの実施事例、法律面の問題などから検討を行いました。委員からは「通信の秘密」はDNSブロッキングにおいても該当するのか質問があった他、「法制化によらない迅速なサイトブロッキング導入の必要性」について意見もあがったと記されています。現時点で議事録の公開や議事要旨の更新は予定していません。
2018年2月16日「コンテンツ分野第3回会合」出席者(一部抜粋)
参加委員(15人)
座長・中村伊知哉氏(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)
石川和子(日本動画協会理事長、日本アニメーション代表取締役社長)
内山隆氏(青山学院大学総合文化政策学部教)
大崎洋氏(吉本興業代表取締役社長)
川上量生氏(カドカワ代表取締役社長)
喜連川優氏(国立情報学研究所所長、東京大学生産技術研究所教授)
重村一氏(ニッポン放送代表取締役会長)
瀬尾太一氏(日本写真著作権協会常務理事、日本複製権センター代表理事)
竹宮恵子氏(漫画家、京都精華大学学長)
野間省伸氏(講談社代表取締役社長)
福井健策氏(弁護士、骨董通り法律事務所)
堀義貴氏(ホリプロ代表取締役社長)
宮島香澄氏(日本テレビ放送網報道局解説委員)
菅野委員代理
華頂委員代理
参考人
後藤健郎氏(CODA代表理事)
墳崎隆之氏(CODA事務局長)
森亮二氏(弁護士)
木下昌彦氏(神戸大学法学研究科准教授)
海賊版サイトのブロッキングの是非については、4月6日の毎日新聞の報道を受け賛否両論が巻き起こっていました。「漫画の海賊版サイト問題への対策は他に手段がないため仕方がない」といった肯定意見の一方で、「一時的な緊急非難だとしても法的根拠がない」「要請までに十分議論し尽くしたといえない」と否定意見も多く、12日から日本インターネットプロバイダー協会など業界団体が次々と反対声明を発表しています(関連記事)。
(黒木貴啓)
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