外国の人名は日本人にとって非常に分かりづらいことが多いですね。西洋だと姓名の順が逆になっていたり、やたらと長かったり、途中にただの通称が挟まれて呼ばれていたり……。
競技クイズの世界では「東洋人はフルネームを、それ以外はファミリーネーム(名字)を答えられれば正解」というルールになっていることが多いですが、問題を作ったりしていると「この人はどこからどこまでがファミリーネームなのか」とよく悩まされます。
身近な外国人名の謎の代表格として、「欧米の人名についているミドルネーム」があると思います。
そもそも西洋人の名前は、ざっくりといえば「ファーストネーム・ミドルネーム・ファミリーネーム」の順になっており、「拓司・編集長・伊沢」みたいな感じになっています。あれは一体、どういう仕組みなのでしょうか。
カトリックの慣習・モーツァルトの例
ミドルネームは、もともとキリスト教のカトリックにおける洗礼に関係するものです。時代や地域、宗派などによってさまざまなルールがあるようですが、基本的に誕生日と関連がある偉大な聖人や、信心深い親戚・知人の名前をとって付けられます。
例えば、作曲家モーツァルトは、よく「ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト」が本名として紹介されていますが、これは本来の洗礼名を少し変形したものです。洗礼名はこちらです。(画像参照)
カトリックでは生まれたばかりの赤ちゃんに洗礼を施す慣例があります。モーツァルトも、生まれてすぐに洗礼名を授かりましたので、本来はこれが本名と言うべきかもしれません。
ところで、有名な「アマデウス」という名前は、洗礼名に含まれていません。一体どこから来ているのでしょうか。
実は、「アマデウス」は洗礼名の中にあるギリシャ語由来の「テオフィルス」をラテン語に言い換えたもので、後になって同様の意味だと知ったモーツァルト本人が、語呂の良い通称として使ったようです。
宗派による違い
「カトリック」の洗礼名の例としてモーツァルトを紹介しました。洗礼名が長かったり、本名に洗礼名の一部が挟まるなどしてミドルネームとなることが多いようですが、パターンはさまざまで、一概にはいえないようです。
それだけでなく、プロテスタントや正教会といった別の宗派では、同じキリスト教であっても慣習が異なります。実は「欧米人」というまとめ方はかなり大ざっぱなんです。
例えば、正教会ではカトリックの洗礼名と同様に「聖名(せいな)」を授かるのに対し、プロテスタントではふつう「洗礼名」は付けず、本名で洗礼を受けて入信します。
現代の慣習・ケネディの例
こうしたキリスト教の慣習が残ってミドルネームがついている人もいれば、宗教と関係なくミドルネームがついている人もいます。
例えば、かつてのアメリカ大統領のジョン・F・ケネディの“F”は「フィッツジェラルド」の略で、ケネディの母、ローズ・フィッツジェラルドの名字に由来します。
2018年4月27日11時53分 追記:記事初出時、「ジョン・F・ケネディはプロテスタントなので洗礼名はないはずですが」との表記がありましたが、ケネディはカトリックであり、誤った記述でした。お詫びして訂正いたします。
ケネディの家系を図にするとこのような具合です。
また、ジョン・F・ケネディの弟、ロバート・F・ケネディの“F”は、母方の祖父ジョン・フランシス・フィッツジェラルドの「フランシス」です。
このように、宗教と関係なくミドルネームが付けられる例が、現代では多くなっています。
ミドルネームを付ける理由を調べましたが、「父方・母方の両方の名字を留めたい」「ミドルネームがあることで同姓同名の人物と区別しやすくなる」などさまざまで、これといった決まりはないようです。こうしたことを気にしない家系は、父母どちらかの名字のみを継ぎ、ミドルネームを付けていないこともあります。
おわりに
ミドルネームは、もともとは宗教との関わりが深かったものの、現代ではその色は薄れてきているようです。
その他にも、ハンガリー人の名前が日本人と同じ「姓・名」の順だったり、レベッカ→ベッキーなど多くの短縮形があったり……と、個々の事例ごとにややこしいことになっています。
やはり名前はその人の個性。簡単にくくることはできませんね……。
参考文献
西川尚生『作曲家◎人と作品 モーツァルト』音楽之友社、2005
ジェームズ・M・バーンズ著、下島連訳『ジョン・ケネディ −その生いたちと政治的横顔ー』日本外政学会、1960
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