樫尾 了(@ka40ryo)さんがTwitterに投稿した短編作品『二匹のばけもの』が「切ない」「引き込まれる」「胸にくる」とさまざまな反響を呼んでいます。絵本のような雰囲気で描かれたユーモアのあるダークな内容が、何度も読み返したくなる世界観です。
物語は、ある日二匹のばけものの大きい方が、食べるために人間の赤ん坊を拾ってきたことで始まります。ちょうどペットの金魚が死んだ直後だったこともあり、小さい方の案でやはり赤ん坊を食べずに飼うことにする二匹。
彼らは、人間とは別の常識の中で生きる二匹の“ばけもの”であり、直接的なシーンこそないものの、生活の中で人をあやめることもあり、一見すると暗く恐ろしいお話です。
ですが読んでいくと、二匹の印象的なせりふから、彼らは純粋な感情を元に行動していることも伝わってきて、だんだん憎めない存在になっていくのを感じます。
本を通して人間について少しずつ学ぶ彼らは、赤ん坊が母乳を飲むと分かると人間にわけてもらいに行き「うるさい奴だな」と殺してしまいますが、牛の乳でも大丈夫なことに気付くと「背に腹は代えられん」と牛を居間に置きます。
また赤ん坊が成長すると学校へ連れていき、家に友達を連れてきた日にはお茶を入れてその友達を食べてしまいますが、悲しむ子どもを見て「すまない俺らへのお土産だと思ったんだ」「泣くなよ 友達ならまた見つけてくればいいじゃないか」と、謝ったり励ましの言葉をかけたりします。
そして「名前なんて無い方が良いさ その方が何にだってなれるだろう?」という理由で彼らが“子供”と呼ぶ拾い子は、いつの間にか年老いていきます。そこでようやく彼らにとっては「やけに短い」寿命が近いことに気付き、「せいぜい可愛がってやろう」と言ったタイミングで、大きい方のばけものが間違えて弱った“子供”の首を取ってしまいます。
「ごめん…」「いずれ死んでた 仕方ないさ」という会話が、淡々としつつも愛情があったことが分かって、静かな切なさを覚えます……。
その後小さい方が「生き返りのまじない」として、怪しい鍋を煮込み始めます。実際には輪廻転生の呪いらしいこの儀式を経て、死んだ子供を地中に埋める2人。ついでに「肥料としては申し分ない」と林檎の種も埋めて、長い時間がたったラストには、大きく大きく育った林檎の木がベンチに座る二匹の背後にそびえ立ちます。子供の生き返りを待ち続ける二匹のばけものはひと言、「戻ってこないなぁ」と呟くのでした。
作者の樫尾さんによると、同作は短編漫画「同じ顔シリーズ」の前日譚(物語の始まるきっかけのお話)で、続く『足の遅い兎』と『勇気』では、今回育てられ最後に輪廻転生の呪いをかけられた“子供”として登場する黒髪の男が、違った物語・世界で描かれています。どちらも若干のグロ要素を含みますが、pixivでも公開されているので、興味がある方はのぞいてみるといいかもしれません。
なお樫尾さんは、自身の作品については「正解の解釈は用意していないので見た方それぞれで自由な想像をしてもらえたらうれしい」とも話していて、さまざまな見方による感想はどれも歓迎だとしています。
独特な読後感にTwitterでは「すっごい染みる」「とても好き」と称賛と感動の声が多く集まり、世界観に引かれたという声からばけものの言葉が好きという声まで、人によっていろいろな感想を抱いているのが分かります。
また大人向けの絵本作家としてカルト的な人気を誇るエドワード・ゴーリーを連想したという声も見られますが、ゴーリーは樫尾さんが好きなアーティストの1人で、同作は特に意識して描いたため、そこに気づいてもらえたこともまたうれしいとコメントを残しています。
ちなみに「絵本で欲しい」といった声もありますが、絵本ではないものの樫尾さんが7月発行予定の漫画短編集に収録する予定とのことです。
画像提供:樫尾 了(@ka40ryo)さん
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