「男女で着るものが違うことがおかしいんじゃないか」――“メンズサイズのかわいい服”ブランドはなぜ生まれたか(3/3 ページ)
「性別や体形にとらわれずかわいいお洋服を着たい」という願いをかなえることを目指したアパレルブランド「blurorange」の代表にお話を聞きました。
10代のころは男の子になりたいという気持ちがあり、お兄さんのお下がりの丈を調整して着ていたこともある松村さん。スカートや女子向けの学生服を拒否する気持ちもあったそうだ。しかし、中学ぐらいから体形が女性へと変化すると、今まで着こなせていた男の子向けの服が着られなくなり、葛藤を抱えることに。
「以前の私は『男』と『女』を別々のものだと分けていて、『嫉妬深い』とか『おしゃべり』だとか女性的だといわれる部分を自分から排除したかったんです。だけど成長するにつれ、『嫉妬深い』『おしゃべり』な男性もいて、女性と男性ってそれほど違わないんじゃないかな、と思うようになりました。すると、女性向けの服も悪くないなと感じるようになったんです」(松村さん)
それからは女性向けのファッションを楽しんだり、制作したりするように。しかし、「レディースサイズのメンズ服」が普及していたら男性向けの服を着続けていたかという問いには「着ていたと思う」と答える。思春期に着たい服が着られなかった悔しい気持ちは、ブランド立ち上げにもつながっているようだ。
そんないきさつで生まれた「blurorange」だが、現在は「トランスジェンダー向けのお洋服」とは考えていないという。
「『トランス』という考え方自体、男と女は別々だという発想から来ているから、私は疑問に思っています。そもそも男女で着るものが違うことがおかしいんじゃないかって」と松村さん。「ただ、服に関しては男女で身体のフォルムが違うので、メンズサイズ、レディースサイズが存在するのはしょうがない。ブランドの表記は正直迷ったんですが、【大きいサイズのレディース服】にしてしまうと、男性として生まれたけどかわいいお洋服を着たいという人は、こそこそレディース服を買い続けることになる。それでは何も変わりません。だから【メンズサイズのかわいいお洋服】という表記にしようと思いました。男性がワンピースを着ることが自然な世界を作りたい。着るものが変われば、男女の無駄な争いもなくなるんじゃないかな」
性別やファッションに対するそんな思いから、「メンズサイズのかわいいお洋服」という表記にしているそうだ。
これからの挑戦
6月3日に、松村さんは女性装の大学教授として知られる東京大学の安冨歩さんとともに、学術イベント「ファッションポジウム-男女の垣根を越えたファッションの未来を考える-」を開催する。百貨店の丸井グループの協力を得て、東京大学安田講堂でファッションショーも行う点が異色だ。
安冨さんとは、2017年6月にブランドを立ち上げた当初、有名な人に来てもらいPRしようとSNSでアプローチしたことが出会いとなった。
「『(商品を)プレゼントするので着てください』って言ったのですが、最初は『高いものなので申し訳ない』と断られてしまって。でも、話すうちに安冨さんも以前から同じ問題意識を持っていたことが分かり、応援してもらえることになりました。そして、安冨さんに『ファッションショーをしたいのですが、どこかインパクトのあるところありませんか?』とお聞きしたところ、『安田講堂はどうですか』とご提案いただいたんです」(松村さん)
東京大学を象徴する大講堂、安田講堂。松村さんはそこで、「なぜ男女で違うものを着なければならないのか」という、ファッションや性別を通して人間の根幹を揺るがしかねないイベントを開催することになった。50年ほど前に、学生たちが革命を起こそうとしたその場所で、新たな革命が起きようとしている。
またblurorangeでは3月21日から新作「晩夏 New Collection」に向けたクラウドファンディングを自社サイトで展開している。3万円から支援することができ、商品化されたものの中から好きなものをリターンとして受け取ることができる。
「新作では今までのかわいらしさもありつつ、クラシカルな雰囲気のあるお洋服を制作しています。また、男性を単に女性に見せるのではなく、長身を生かして美しくみせるデザインにも挑戦しています」(松村さん)
5月27日時点では350万円の支援が集まっているが、デザインした全ての洋服を商品化することはできず、3デザインのみ商品化可能となっている。より多くのデザインを実現するためにもクラウドファンディングを続ける予定で、6月2日にいったん締切り、6月3日から1カ月、再度資金募集をかける予定だ。デザイン画しかない段階からの支援者と違いを付けるために、6月3日のファッションポジウムでのお披露目以降は、リターンは同じだが金額は異なるという。
今回の新作からは同じデザインでレディースサイズも展開するとのこと。女性向けのサイズを作った理由は、「私が着たかったからです」と松村さん。カップルでのおそろいコーデも可能になりそうだ。
ブランド名「blurorange」には「blur(ぼんやり) orange(オレンジ)つまり、『ぼんやりした夕焼けのように男女という枠組みもぼんやりでいいよね』という意味が込められています」(松村さん)。今後も体形や性別を超えたかわいい洋服作りを進めていくにちがいない。
2018年6月3日14時から東京大学(東京都文京区)の大講堂(安田講堂)で開催されるファッションポジウムでは「男女で違うものを着なければならない」というファッション業界の“切り分け”を、ディスカッションやblurorange主導のファッションショーなどで問い直す。16時からの「みんなのファッションショー」では、来場者もショーに参加可能。安田講堂の舞台でプロのカメラマンに撮影してもらうことができる。入場無料(子どもも歓迎)、入退場は自由
(谷町邦子)
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