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議論も根拠も足りていない「打ち水で東京は冷やせるか」問題

そもそも打ち水とはどのような原理なのか?

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 2018年は災害レベルの酷暑で、全国各地で40度近い気温の日が続出している。そんな暑い日本に対して、世界規模での懸念が間近に控えている。そう、2020年の東京オリンピックだ。

 開催期間は「7月24日から8月9日まで」の一番暑い時期。もちろん野外での競技も多く、選手の熱中症が心配される。この酷暑であらためていろいろな対策が提案されているが、小池百合子都知事が説明したその一つが「打ち水」である。



東京都、国土交通省、環境省などが後援している「打ち水大作戦2018

 しかし、このことが報道されると批判が殺到。打ち水の効果に疑問を持つ人は多く、中には「アスファルト上では逆効果だ」とする意見まである。実際のところはどうなのだろうか。


打ち水の原理

 打ち水で涼しくなる原理は次のように説明されることが多い。

 液体の水が気体(水蒸気)に変化するにはより大きなエネルギーが必要である。地面にまかれた水は、蒸発するときに地面の熱をエネルギーとして奪うため、地面が冷える。すると地面からの放射熱が和らいで涼しくなる。



地面の熱(赤丸)が蒸発する水に奪われる

 実際に打ち水の効果を調べる実験はいくつも行われていて(下記参照)、基本的には打ち水によって“地表温度が”下がることは間違いないようである。

参考


 一方、打ち水効果への反論として「熱を含んだ水蒸気が大気中に放たれたら結局気温は上がるのでは?」というものがある。

 こうした実験の考察では、「気温が1〜3度低くなった」と報告しているものが多いが、環境によって気温や湿度の厳密な比較が難しいことは念頭に置いておきたい。


「現代の」打ち水

 現代の打ち水で問題になるのは、昔とは地面の性質が違うことだろう。

 アスファルトの地面は土の地面に比べて水を含みにくいため、打ち水によって冷やせる地面が表面近くに限られ、また乾き切るのも早い。よって土への打ち水に比べると涼しさは一時的で幅も小さいと考えられる。



アスファルト(左)は水を含みにくい

 そもそも打ち水には暑さ対策としてだけではなく、砂ぼこりをおさめる意味合いもあり、涼むことを目的として水をまいていた訳ではないという指摘もある。

 それはともかく、アスファルトの地面で打ち水効果を引き出すには、常に濡らし続けられるような仕組み、例えば道路の下にパイプを通し、常時チョロチョロ水を流し続けるなどの工夫が必要だろう。


街レベルでちゃんと冷える?

 最も気になるのは、街レベルの広範囲に打ち水をしたときの効果があまり検証されていないところだ。玄関の前に水をまいて涼むのと、街全体を濡らすのでは規模がまったく違う。

 参考になるのが、2007年から岐阜県多治見市で行われていた、散水車による打ち水活動である。「湯気が立ち込めて暑い」という市民の苦情で中止になったといい、今回の件でも引き合いに出された。

 これは確かに「やってみて、失敗した」という分かりやすい例ではある。ただし、「市民の感覚」による評価だったこと、打ち水をした場合としなかった場合を厳密に比較していないことも考慮して、「本当に逆効果だったのか?」と問うてもいいポイントである。


議論は冷静に

 ということで、打ち水に効果はある/ない両方の立場から吟味してみたが、これだけの材料で白黒はっきりつけるのは難しい。

 筆者が調べた限りだと、

  • 打ち水によって地表温度が下がるのは間違いないが
  • 広範囲でも気温が下がるのか、また湿度が上がって不快になるのではないかについては科学的に十分調べられてはいない

 という状況だ。裏を返せば「効果はあるかもしれない」ということ。とはいえ、現状では議論も根拠も足りていないというのが実際のところだろう。

 都と市民とが互いに冷静に議論を進め、少しでも「涼しい」オリンピックになることを願う。


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