欅坂46「不協和音」「サイマジョ」はどうやって誕生したのか 作曲家「バグベア」に聞く“ヒットの裏側”(2/3 ページ)
「サイレントマジョリティー」「不協和音」などの作品で知られる「バグベア」に「作曲家になる方法」などを聞きました。
――コンペのお話が出てきたので、気になっていたことを聞いてみたいと思うんですが、坂道AKBGの曲って秋元康さんの作詞がマストですよね。あの詞ってコンペの段階でもうできているものなのですか。
こぎみいい:詞はいつも後からつけてくださいます。どの曲もすごくギリギリまで考えて、そのときに1番合った“リアルで鮮度の高い歌詞”をつけてくださるイメージがあります。コンペの段階では「どういう曲調で」といった要望がある場合がありますが、作曲家サイドが作ったとりあえずという感じの仮歌詞でコンペに提出する場合も多いですよ。
ここみらい:曲調の指定がない場合もあります。
――欅坂46といえばデビュー曲の「サイレントマジョリティー」の印象が強い方も多いです。あの曲はどのように制作されたのでしょうか。
こぎみいい:「サイマジョ」を作ったころは、当時僕たちが所属していた作曲家事務所から移籍するというタイミングだったのですが、曲が出せない期間がすごく長かったり、つらい時期でした。そういうときに「鳥居坂46(後の欅坂46)がデビューする」というお話や彼女たちが大変な状況に直面しているというお話が聞こえてきて、僕の中ではなんとなく「この子たちはここから戦っていくんだな」という印象を持ちました。そうこうしていたら、ここみらいが異常なぐらい「鳥居坂が〜」「鳥居坂が〜」と僕にプッシュしてきて、直感的にこの曲は書かなくちゃいけないと思ったんです。
ここみらい:普段自分からこぎみに「これをやりたい」ということはそんなに多くないのですが、なぜか鳥居坂のことがすごく気になったんですよね。
こぎみいい:でも「デビュー曲に決まった」と言われたときも正直そこまでの実感がなくて、あんまり意味が分かっていなかったようなところもあったんですよ。
――その後「サイレントマジョリティー」は女性アーティストのデビューシングル初週売り上げ歴代1位を記録するなどの快挙で話題となりましたが、「これは大変なことになった」と感じられたのはどのタイミングでしたか。
こぎみいい:当時タイアップしていた「メチャカリ」のCMを見たときですね。あのCMはメンバーごとに各エピソードが存在していて、当時はYouTubeで連続視聴できるようになっていたんです。それで何の気なしにそれを見始めたら、涙があふれて止まらなくなって、5〜6時間ぐらい泣いていました。普段からあんまり泣かないので、「人間ってこんなに泣くんだ」って思うぐらい自分でもびっくりしましたし、漠然と「この曲は跳ねるんだ」「ここからはじまるんだ」と思いました。
――メチャ泣きですね。涙が出てきた理由ってどんなことだと思いますか。
こぎみいい:まさにメチャ泣きですよ(笑)。やっぱりあの曲ってあまりにもいい曲だし、秋元先生ご自身が気持ちなどをくんでくださる方というのもあり、歌詞が当時の自分たちの気持ちとも重なっていたことが大きいと思います。あのころは夜、社会人が働いていない時間に散歩をすることが多くて。歩いていたら何かをやっている気がするから、ひたすらここみらいと2人で夜空を見ながら歩いていたりしたんですけど、そういう悔しい気持ちとか、裏路地を歩いていたときの気持ちが「サイマジョ」の世界観にぴったりでした。あの曲に対して僕たちが思う一つのテーマ、「街の孤独」という感じがバグベアに合っているのかもしれません。
――ちなみにメチャカリのCMだと誰のエピソードがお好きですか。
こぎみいい:僕は「ドキドキが人より多くてごめんなさい」というメッセージが印象的な土生ちゃん(土生瑞穂さん)ですね。
ここみらい:私は渡邉理佐さんです。涙を流す姿が印象に残っています。
――「サイレントマジョリティー」と並ぶ人気を誇る「不協和音」もバグベアの代表曲の一つです。個人的には初めてパフォーマンスを見たときに衝撃が大きすぎて、「見ちゃいけないものを見た」感と同時に、「良い曲!」とびっくりしたのを覚えています。
こぎみいい:ありがとうございます。今だからこそ良い曲と認識していただけたり、評価してもらえて本当にありがたいのですが、「不協和音」が世の中に出てすぐのころは、YouTubeなどのネット上で賛否両論がありました。自分たちは絶対にいい曲だと思って出したので、精神的にショックを受けてしまって、「外に出るのも怖い」というところまで落ち込みました。しかしNHK紅白歌合戦などで披露してもらえたことで少しずつ「いい曲だ」と言っていただけるようになって、やっと「作ってよかった」と思いました。
――2017年4月5日に発売されてから、12月31日の紅白までずっと苦しい思いをされていたんですね。
こぎみいい:正直に言うと、紅白が終わるまでは本当に悩んでいました。いつかは評価される曲だと信じていましたが、2017年は本当に苦しい1年でした。
――「不協和音」はメッセージ性が強いからこそ、「特別だ」と言われることもあります。それについてはどう感じておられますか。
こぎみいい:僕たちとしてはライブなどで披露されたりするとやっぱりうれしいです。さまざまな解釈がある曲ですが、ありがたいことに欅坂46のファンの方からサインを求められる際、「不協和音って書いてください」と言われることも多くて。苦しい時期もありましたが、今では「サイマジョ以上に刺さる曲になったのかな」と思うようになりました。
――でもそれは本当にそうだと思います。「不協和音」は脳にダイレクトに入ってくるので、思考能力を奪われたままそのあとずっと聞いてしまう……というような謎の中毒性があるというか。
こぎみいい:「サイレントマジョリティー」はメロディーがしっかりしているから、一回見ると満足感がある曲だと思うんですが、「不協和音」で目指したのは、「何回も見ちゃうもの」でした。だから今仰っていただいた「謎の中毒性」というのはまさに狙いにはまっています。
――色々なお話を聞いて改めて「不協和音」の魅力に気づくことができたので、パフォーマンスがまた見たくなりました。欅坂46のメンバーに対する印象はいかがでしょうか。
ここみらい:欅坂46(漢字欅)/けやき坂46(ひらがなけやき)の子たちってすごくいい子たちだなと感じることが多いです。先日卒業された志田愛佳さんに関しても、コメントを見るたびに「この子本当にいい子だったんだな」ってあらためて思いましたね。
こぎみいい:お会いしたときに「漢字欅にまたいい曲書きたいな」と思わせてくれたのは、守屋茜さんですね。やっぱり目が強くて、あの目で見られたら「やらなきゃいけないんだな!」と思うというか、火をつけられた気がしました。最近欅坂46(漢字欅)には2期生、けやき坂46(ひらがなけやき)には3期生が入ってきたので、新メンバーの活躍にも期待しています。
――欅坂46(漢字欅)には最年少メンバーとなる13歳の山崎天(崎はたつさき)さんも加入されましたが、若い子が入ると書きたい楽曲も変わってきますか。
こぎみいい:変わると思います。
ここみらい:それこそライブなどを見るとインスピレーションもわいてきますし、見た方が絶対にわいてきやすいので、会ってみたいですね。
こぎみいい:自分の場合はしゃべっているうちにその人のテーマソングがわいてくるというのがあって、話を進めていくうちにその人の曲が聞こえてくるんですよ。だからこそ一度会ってお話したいなと思います。
――これはいろいろな方に聞いているのですが、今年の欅坂46を漢字1文字で表すとしたら、何になりますか。
こぎみいい:漢字一文字だと「鯉」ですかね。
――お魚の「鯉」ですか。
こぎみいい:「鯉」ってドラゴンの元になっているっていう神話とかがあったりするじゃないですか。欅坂46はこれからもっともっと化けていくと思うので、2018年の漢字には「鯉」を選んでみました。
――面白い発想ですね、鯉。バグベア以外の作曲で、これはやられたな〜という曲はあったりしますか。
こぎみいい:ツキダタダシさんが作曲・編曲している、けやき坂46(ひらがなけやき)の「NO WAR in the future」です。ツキダさんとは仲がいいのでご本人にも聞いてみたら、同じことを言っていたんですけど、最初に聞いたときに「これは欅坂46(漢字欅)のシングル曲でも良いのではないか」と思ったんですよ。クオリティーもかなり高いし、技術面も光っているし、メロディアスでもあるし。
ここみらい:奥で動いているメロディーも良いし、みんなで「NO WAR」いうところも盛り上がるし、あれは本当によく考えて作られた曲ですね。
こぎみいい:本当にそうだと思います。イントロがクラブミュージックっぽいトラックから始まるところとか、かなりの工夫が施されているんですけど、それでいて複雑じゃないところなんかは本当に「うまいなぁ」と思います。Bメロのリズムに関しても「やられたな」と思いました。
――他にも注目している作曲家さんはいますか。
こぎみいい:シラッティー(白戸佑輔さん)です。セカアイ(欅坂46の「世界には愛しかない」)もとても良いですし、ラストアイドルの「バンドワゴン」はものすごい名曲だなと思います。
ここみらい:井上ヨシマサさんもすばらしいですね。AKB48の「Everyday、カチューシャ」や「RIVER」、HKT48の「メロンジュース」などAKB48グループに多数の楽曲を提供されていて、私たち2人が尊敬している作家さんです。
被災地で頼まれたのは「チャリティーソングらしくないチャリティーソング」
――今年は岡山県が開催した「岡山県魅力発信プロジェクトPRイベント」にも出席されるなど、西日本豪雨災害のチャリティー活動にも積極的に取り組まれているお2人ですが、復興支援のきっかけは何だったのでしょうか。
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