放置系タップゲームと組み合わさった「性格診断」
――ゲームジャンルは放置系タップゲーム。出てくる吹き出しをタップするか時間経過でポイント「EGO」が貯まり、アドベンチャーパート(ストーリー)が開放されていきます。このゲームジャンルになったのはなぜでしょうか。
大野: 自分を見つめなおす、内省的なゲームをやりたかったんです。出てきた吹き出しを見ながら「自分ってなんじゃろう」と考える。その問いにも答えにも終わりはありません。その“積み重なっていくけど、終わりが見えない感じ”が、放置系タップゲームと相性がいいと感じました。
ただ、吹き出しをタップしていくだけではゲームとしては弱い。あまりにも地味なものになってしまいます。そこで出てきた要素が「性格診断」でした。
――プレイヤーは不思議な空間で謎めいた女性「エス」と、彼女と敵対しているような存在「エゴ王(壁男)」と出会います。アドベンチャーパートは、エスとの会話を進めていくうちに、プレイヤー自身やエスの内面を掘っていくようなものになっていきますね。最初からキャラクターやストーリーは固まっていたのでしょうか。
大野: まだ「エス」という名前は決まっていませんが、「プレイヤー」「難しいことを言ってくる壁」「性格診断をしてくる女性キャラ」という配役は最初期から固まっていました。
いとう: この配役は、フロイトの精神分析のモデルに当てはまりますよね。壁男はスーパーエゴ、エスはそのままエス(イド)。その間に自分(プレイヤー)がいる。エス(イド)は、快楽原則にのみ従う、衝動や欲動を司る存在。そんな名前をしているのに、軍服っぽい……つまり抑圧・コントロールされていそうな服装をしていて、プレイヤーの精神を分析してくるわけですよ! ストレートなようでいて、ちょっとねじれがある。
大野: 最初から「フロイトだ!」と思って配役をしたわけではないんですけどね。ただ、頭の中では最初からそのモデルが存在していて、あとから「あっ、これはもしかしてあのモデルを無意識に使っていたのか」と気付いたパターンだと思います。
――序盤、エスがプレイヤーに心理テストを出してきます。その結果がかなり“当たっている”と思わされるもので、ドキリとするプレイヤーが多いです。この心理テストはオリジナルのものですよね?
大野: そうですね。僕は大学で心理学を勉強していて、「働きたくない!」「大学で勉強しながら研究職をやって小説を書いていたい!」という思いをくすぶらせながら、結果社会に出てしまった。「自分のやりたいことを思いっきりやる」を目指していたので、学生時代に学んでいた心理学もゲームの中に入っています。
いとう: このゲーム、ものすごく“自分語り”をしたくなるんですよ。私も初めて診断されたとき、「なぜ私のことがわかるんだエス!」という気持ちでSNSにシェアしてしまいました。ふとTwitterのタイムラインを見ると、みんなが診断をシェアしながら「なぜわかるんだエス……」とつぶやいていて、迫力がありました。
――そういえば、リリース直後に「ALTER EGO」がトレンド入りしていました。
大野: ゲーム内での診断内容をSNSにシェアできるようにしていました。最初の診断のチャプターはプレイしてわりと早い段階で解放されるようなバランスにしていたので、「このタイミングで出てきたら、シェアしてくれるのでは」と狙ってはいました。ただ、エスが下す診断は、けっこうキツい言いぶりなわけですよ。だから「シェアしたくない」と思う人もいるだろうと懸念していました。けれどふたを開けてみると、予想以上にそのキツい診断に喜んでくれていて。
いとう: 最初は「なんだこの女は」と思うのですが、どんどんエスを好きになってしまう……。ゲームを進めていくうちに、「この子を絶対に放っておけない」という気持ちにさせられるんです。気付いたら彼女に飲み込まれているというか、すごく危うい形で寄り添って離れられなくなっている。
――選択肢によってストーリーが分岐して、エスとプレイヤー(=旅人)の関係や、エスのありようが変わってしまうんですよね。
いとう: 最初、プレイヤーを分析する側として存在していたはずのエスが、プレイヤーの選択によって変わってしまう。私が衝動的な選択肢を選んでいくと、彼女もどんどん衝動的になって、バッドエンドを迎えてしまうんです。1つエンドを終えたころには、今度はいつのまにかプレイヤーが分析者側になっている。きわどく危ういゲームだと思います。
大野: 攻守交代するような作り方はしているかもしれません。精神分析のゼミで勉強していたころ、いくつかケーススタディーを学んだのですが、分析者と対象者のコミュニケーションは時折非常に流動的になります。転移、逆転移といった言い方をされますが、例えば親に関する問題を抱えている対象者が、分析者に親を重ねて依存したり反発したりすることがある。逆に分析する側が影響を受けて、親のようなふるまいをしてしまうこともあるんです。
――プレイ中、エスと自分(プレイヤー)が共依存のようになっている感覚もありました。
大野: 配役が流動的になるように作っています。「どちらが分析する側か」は流動的ですし、もしかしたら両方かもしれない。
いとう: 1周目はどんなゲームなのかわからないまま、「自分を分析するゲームなのかな?」と思ってエンドを迎える。「なんだったんだ……」と2周目に突入してみると、今度は全く反対の結末に至るわけです。3周目をやるころには、「自分の性格診断」を目指してはプレイしなくなっているんですよね。ひたすらエスのことを考えているんです。
大野: ダークな話のつもりではなくて、エスがようやくエスという自我を身につける、アイデンティティーを見つけ出すというストーリーです。道中ではエスがひどいことを言ったり、エスをひどい状態にしてしまったり……がありますが、3周やったらエスもプレイヤーも報われるような話として届いていればいいなと思います。
――シナリオは大野さんがクレジットされています。全部ひとりで執筆したんでしょうか?
大野: はい。けっこうシナリオはあっちに行ったりこっちに行ったりで、ギリギリになってから大きく方向変換がありました。ルート(エンド)の構成は変わらないのですが、メタっぽすぎたりあっさりしすぎたりと、今よりもエスが苦しそうではなかった。粘ってシナリオ変更をして、今の形になりました。
いとう: さっきも言っていましたが、「恥」を全開でさらしているんですよね、いい意味で……。
大野: ただ、他の商業的な作品のキャラやストーリーと比べると、エスの情緒不安定さはある意味で「キャラぶれしている」といわれうるんですよね。とがったキャラ設定や世界観を押し切って作れたのは、この制作体制だったからかもしれません。
もしもっと大人数で作っていたら、「もうこの設定をFIXしちゃったから変更できないな」「お願いしちゃったからこの方向でいかないとな」となっていたかもしれない。大人数だからできることもありますが、一方でシュリンクしたりこぼれおちたりするところはあります。「ALTER EGO」は小人数開発だったので、自分のイメージや初期衝動のままやりきることができました。
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