癒やされたい。肯定されたい。「世話やきキツネの仙狐さん」(原作/アニメ)は、ブラック企業に勤める男性が、神使の狐に何もかも全て癒やされていく、人間全肯定アニメ。優しい空間が覆いかぶさってくる、ある意味現代日本を象徴するような作品です。
海で生まれる幸せのループ
アニメ8話の「仙狐さん」は、海回。猛暑な日々が続く日本にはとてもありがたい……。とっても爽やかな晴天を見せてくれました。仙狐さんたちの水着が上品なのもポイント高いです。
言い出しっぺはもちろん、甘えん坊狐のシロ。仙狐さん、中野、高円寺の4人で出掛けることになりました。人が誰もいないビーチにすぐに到着できたのは、シロがちょっとしたズルをしたから。ここは「あの世とこの世」の狭間だそうで、人は普通入れないらしい。……怖いけど楽しそうだからいっか!
ところで、中野はくたびれ社畜ですし、仙狐さんはおとなしい性格なので、さほどはしゃぎません。
シロと高円寺は心の底からはしゃいでいます。それを遠くから見守る、仙狐さんと中野。
一応バレーなどもしていますが、「海遊び」を積極的に満喫するわけではない、珍しい海回です。2人の会話は、親の視点、もしくは老人の視点。
「海っていまいち どう遊んだらいいか分からなくて……」という中野のセリフは、社会人だと共感できる人多いはず。海に入って、きゃー! と水かけ合うでもなし。てか子どもの時に、なぜ水ではしゃげたのか忘れてしまった……。
じゃあ中野は楽しめていないかというと、そんなことはありません。会社と家の往復の日々にくたびれはてた中、無理にでもシロに連れ出されたことで気分が明るくなりました。太陽の光と人の笑顔は、心を元気にしてくれます。たぶん大人が海に行きたがるのは、水遊びしたいからよりも、心を充電したいからなんじゃないかなあ。
シロは心の底から海を楽しんでいるようです。めちゃくちゃはしゃいでいます。彼女の自慢を、仙狐さんも高円寺も中野もベタ褒めする、それを聞いてシロがうれしそうになる。ドヤ顔を見てみんな微笑ましくなる。
なんて幸せなループ! これだけでも海に来た価値ありです。なんて優しくて幸せな世界なんだろう。
終わるのは寂しいけれども
8話の海回は、働く日常全てを忘れるような、楽しみの絶頂のような回です。夢のような時間が続きます。中野ははしゃがないけれども、ぼんやりみんなを見ているだけで、海の音を聞くだけで、どんどん心が浄化されています。
中野「でも本当は少し寂しいです この楽しい時間も終わっちゃうんだなって」
楽しい時間は終わりが本当に寂しい。
中野は仙狐さんが来るまで、幸福というものを考える余裕がありませんでした。しかし今は、認めてくれる仙狐さんやシロがいることで自己肯定感が高まり、心に余裕を持って良いんだ、幸せな時間をすごしたいと思って良いんだ、と感じ始めています。
彼は、線香花火のような消え際の儚さを好むようです。夜になって帰る間際のフェードアウトする空気で、楽しかった時間をかみしめる。風流じゃの。
昼間は思いっきり海ではしゃぎ、夕方にBBQを食べ、夜は花火。だんだん帰る時間が近づいてくる。
シロは丸一日、日本の夏を堪能しまくっています。それを仙狐さんと中野は、笑顔で見守り続けます。元気が流れ込んできます。たぶん心のエネルギーは満タンでしょう。
でも必ず、その日は終わる。幸せが大きいだけにギャップで胸が締め付けられる。
仙狐「じゃが今はそんなこと どうでもよいではないか どんなことにも終わりは来る 終わってしまうのは寂しいかもしれんが わざわざ苦しんでやる必要はあるまい」
ここで「明日から頑張ろう」などと言わないのが、仙狐さんらしいところ。苦しくなってしまうのは仕方ない。でも中野のそばには、仙狐さんがいるじゃないか。仙狐「わらわが忘れさせてやろう!」
アニメも8話。ぼくは「ロス」について真剣に向き合いはじめています。仙狐さんの世界は幸せしかない。働く人間の全てを肯定する完璧な空間。仙狐さんのいる生活の甘さが、アニメを・マンガを見ているぼくを包み込んでくれていた。だが、このアニメもいつか必ず終わりはくる。終わった時、悲しみにうちひしがれそうだ。
だから仙狐さんの「じゃが今はそんなこと どうでもよいではないか」という発言は、ぜひとも壁に書いて貼っておきたい。未来を憂うのはもったいない。今楽しいなら……今仙狐さんを見て幸せを得られているなら「どうでもよい」。何も考えず楽しみ、そのあとは、次の幸せや平穏について考えよう。そうしよう。
結局原作では海には入らなかった中野と仙狐さん。でもそれでいいんです。何をしててもたぶん楽しいです。そばに仙狐さんがいるのだから。
うん、仙狐さんっていう、受け入れてくれる優しい作品に出逢えたのだから、それだけでぼくも、幸せものなんだ、って考えよう。
(たまごまご)
<前回までのお話>
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