癒やされたい。肯定されたい。「世話やきキツネの仙狐さん」(原作/アニメ)は、ブラック企業に勤める男性が、神使の狐に何もかも全て癒やされていく、人間全肯定アニメ。優しい空間が覆いかぶさってくる、ある意味現代日本を象徴するような作品です。
何もしてやれておらんではないか……
体調を崩した中野。まあ毎日サビ残終電帰り、休日なし、となったら身体壊さないほうがおかしいくらいです。仕事の量も一向に減っていないようですし。
熱にうかされていた彼が見た夢は、ちょっぴり不思議なものでした。
「なぜじゃ なぜいつものように起きて頭を撫でてくれんのじゃ…… いやじゃ わらわはまだ主に 何もしてやれておらんではないか……」
おそらく仙狐さんだと思われますが、もちろんこんな記憶は、二人で生活しはじめてからのものではない。
1巻の第一尾で仙狐さんは「おぬしの家には恩がある」と語っています。また2巻十五尾では、シロが「センはナカノに先祖の姿を重ねているだけで あなた自身を見てないかもしれないって」と中野に告げたこともあります。
齢八百の神使の狐、仙狐さん。実のところ中野の先祖との間にどのような関係があったか、具体的には描かれていません。ただこれを見るに、世話をしていたのが中野の先祖側で、仙狐さんは世話される側だったようです。
中野の先祖目線でしょうか。死の間際、目に入ったのは、今まで一度も見たことがない、泣き崩れる仙狐さんの顔でした。
この先祖がらみの話は、ざっくりした明るい仙狐さんワールドでは珍しい、謎の部分。なぜ中野が過去の、仙狐さんと先祖のやりとりを見ているかは、現時点ではわかりません。特殊な力的ななにか? 縁的な霊的ななにか?
でもその理由って、ほんとはどうでもいい。涙を流している仙狐さんがいた、という事実が一番大事だ。
目を覚ました時、仙狐さんは中野の隣にいました。治癒術を施し、体調を見ていてくれたようです。
仙狐さんは常日頃、「自分を大切に」と口酸っぱく言い続けています。もっと寝て、休んで、おいしいものを食べて、自分に甘くあれと。でも中野は真面目すぎてそれができない。仕事をやらなければ、という義務感で無理やり身体を動かしているのが現状です。
頑張ろうとするのは、確かに立派なことだけれども、正しいわけじゃない。身体を壊してしまうことも顧みず働いているけれども、悲しむ人がいるということに、彼はようやく気付かされました。
精神的に参っている時って、「自分のために」という意識が回らなくなりがちです。頑張らなきゃ、身を削ってやらなきゃ、休むなんて許されない、と。いわゆる社畜体質。こうなると自分の価値を軽視しはじめて、身体を大切にしなくなって、心を壊して……の繰り返し。負のスパイラル。
心が元気じゃないと、「休みたい!」「遊びたい!」「寝たい!」とそもそもならない。
中野は仙狐さんが来る前までは、その状態が続いていました。もしその生き方が、そばにいる大切な人が涙を流して悲しむものなら、バランスがおかしいんだ。
中野「仙狐さんにあんな表情させるわけにはいかないな……」
仙狐さんに口酸っぱく言われても、会社に必死に行き続けていた中野。まあ、責任もあるしね、わかるんだ。でも、今回の仙狐さんの涙(の夢?)を見て、やっと気付きます。働くことも大事だけれども、無事な身体で過ごすことはもっと重要で、意識しないとできない大変なこと。
「頑張る」「甘える」のさじ加減って、本当に難しい。
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