「そこは蒸気機関士の意地なんです」 「SL銀河」で感じた鉄道マンのカッコ良さ:月刊乗り鉄話題(2019年8月版)(4/4 ページ)
JR東日本もスゴいけど、現場の意地もスゴかった話。4時間乗り続けても飽きませんでした。てへ。【写真30枚】
なるべく客車に頼らない「蒸気機関士の意地」にも感動
SL銀河は陸中大橋駅で下り列車とすれ違います。構内には、かつて鉄鉱石を貨車に積んだ施設が残されていました。ここからSL銀河はトンネルに入ります。このトンネルは「オメガループ」とも呼ばれているヘアピンカーブのような曲線勾配です。トンネルを出てしばらく走ると、駅名の由来となった鉄橋を通過。眼下にさっき通った線路が見えます。
さて、蒸気機関車と客車はどのように連携しているでしょう。客車の先頭に行ってみました。なるほど、ディーゼルカーの運転台があって、運転士が座っています。しかし目の前は蒸気機関車の炭水車があって前方は見えません。運転士は座っているだけ……と思ったら、運転台の受話器を取って何やら話しはじめました。
私の隣で待機していた職員さんが説明してくださいました。
「いま、蒸気機関車と連絡しています。例えば、ここからしばらく時速30キロ、という指示を受けると、ディーゼルカーのマスコンを操作して時速30キロまで加速して、速度を維持する操作をします」
なるほど、運転士さんが左手側のレバーを操作しました。あれ、でも右側のブレーキハンドルがないぞ。
「ブレーキは蒸気機関車側で一括制御する仕組みになっています」
あ、なるほど。他の客車列車と同じように、空気ブレーキのホースを連結しているから、まとめてブレーキをかけられる。やっぱり客車として扱われるんですね。
ちなみに、このように連結した車両の別々の運転士がマスコンを操作する方式を「協調運転」といいます。これに対して、電車やディーゼルカーを連結して、ひとりの運転士がまとめて加速もブレーキも一括して操作する方法を「総括制御」といいます。
── なるほど、SL銀河ではいつもディーゼルカーに助けてもらうんですね?
「いえ、実は協調運転はなるべくしないように技術を磨いているんですよ」
── え? どういうことですか?
「SL列車なのに、“いつもディーゼル機関車に助けられてる”なんてお客さんに思われたくないんです。そこは蒸気機関士の意地なんです。だから営業開始前の試運転の時から、協調運転が必要な区間を見極めて、最低限の区間にしようと研究してきました」
── 最低限の区間、例えばどのあたりですか
「協調運転する区間は、この列車だと釜石から陸中大橋までの上り勾配です。その他の区間は原則として蒸気機関車だけの力です。ただし、長いトンネルだと、煙が客室に入ってご迷惑をおかけすることがあるので、煙を減らすために協調運転する場合もあります」
── たったそれだけ……意外でした。
「花巻発の場合は勾配がキツくないので、ほとんど協調運転はしません。強いて言えば、さっき話したような長いトンネル、そして、新花巻駅を発車するときですね。あそこは上り勾配の途中の駅なので、出だしで協調運転します」
すごい。蒸気機関士のプライドだ。ここにSL列車を走らせようとするJR東日本の意地もすごいけれど、現場の機関士の意地もすごい。良い意味で張り合っている。
そうすると、SL銀河に乗る場合、SL列車としての走りを楽しみたい場合は、花巻発の釜石行きがオススメです。逆に、SL銀河ならではの「協調運転」を体験したい場合は釜石発の花巻行きがオススメ、ということになります。もっとも、協調運転時の前後の揺れは、乗り物酔いをしてしまう人はちょっとツライかもしれません。お気を付けください。
このあと、SL銀河は遠野駅で1時間10分も停車します。これは花巻発釜石行きも同じ。駅前など遠野の街歩きを楽しめます。オススメは「馬車」。駅前から出発して、約30分で街を案内してくれます。所要時間の約4時間半のうち、1時間は遠野駅停車でした。
遠野駅発車後に観たプラネタリウムも楽しい時間でした。列車に揺られながら、景色が見えない空間に入り、星空と物語を楽しむ。そのギャップが面白いです。ただし、観ている途中で上映に集中したため、列車にいることを忘れます。車内にある宮澤賢治ゆかりの展示物も美しく、興味深いものばかり。実質3時間半の旅は飽きる事なく、楽しい思い出となりました。
乗車券プラス820円(※)の指定席券で乗れる、日本でいちばん長時間を楽しめるSL列車。ぜひあなたもおでかけください。ちなみに花巻〜釜石間の乗車券は1660円です。普通列車扱いの快速列車ですから青春18きっぷでも乗れますよ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。ITmedia ビジネスオンラインで「週刊鉄道経済」連載。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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