【たぶん日本最速レビュー】ありそうでなかった「大喜利」に日本初対応!? 10年ぶりに改訂された『岩波国語辞典』はここがスゴい(2/4 ページ)
たぶん日本のWebメディアで一番早いと思います。
新しい語義
「大喜利」のように、既存の項目に新しく追加されたり、修正された語義をいくつか見てみます。まさに堅実、しっかり日本語を観察していることがよく分かる補修ばかりです。
第7版新版
エンブレム (ブレザーの胸や、自動車などにつける)紋章。▽emblem
第8版
エンブレム シンボルとしての図案。紀章。紋章。「制服の胸の―」▽emblem
「オリンピックのエンブレム」のような使い方に対応した語釈になっています。
第7版新版
じっきょう【実況】実際の状況。「―放送」
第8版
じっきょう【実況】〔名・ス他〕実際の状況(を伝えること)。「―放送」
「実況」はもともと、「実際の状況」というだけの意味でしたが、「実況放送」が略されて、「現場から実況です」「ゲームの実況プレイ」のように「実際の状況を伝えること」という意味が生まれました。さらに、「何々を実況する」というサ変他動詞にもなります。それなりに古くからある用法ですが、この意味をフォローできている辞書はいまだ少数派です。
ちなみに、上記のいずれも、(1)(2)……という風に語義区分を増やさずに対応しているのが『岩国』らしい特徴といえます。『岩国』は、「その語の現象的な意味をいちいち細かく分けて説明するよりも、基本的な意味を明らかにするようにした」と凡例でうたっているのです。
もちろん、語義区分を増やす処理をしている語もあります。
第8版
アリバイ ……(2)とりつくろうための言い訳(程度にすること)。「―作りのための公募」
これもよく使われている用法です。ところが、他の辞書だと、犯罪における現場不在証明の意味しか載せていないものがほとんどです。
第8版
にじげん【二次元】……(2)〔俗〕漫画・アニメ・ゲーム、そのキャラクター。また、それが描く架空の世界。▽平面に描写するので言う。
こんな俗用まで取り込んだとは、ちょっと意外でした。この意味を載せる辞書もまだ少数です。
また、今回から、比喩的な用法や転義の場合は別の区分にするという方針になったようです。このほうが読者に分かりやすいという判断でしょうか。
第7版新版
はんえい【反映】〔名・ス自他〕光などが反射してうつること。転じて、影響が及んで現れること。「流行歌は世相を―する」
第8版
はんえい【反映】〔名・ス自他〕(1)光などが反射してうつること。(2)転じて、影響が及んで現れること。「流行歌は世相を―する」
既存の語釈の手入れ
新しい意味を追加するだけでなく、既存の語釈にも丁寧に手入れがなされているようです。序文には今回「料理用語、スポーツ用語、自然科学用語、オノマトペ、人称代名詞の語釈変更」がなされたとうたわれており、実際にかなり書き換わっています。
第7版新版
ハム (1)豚肉加工食品の一種。(ももの肉を)塩づけにして燻製にしたもの。「ロース―」
第8版
ハム (1)豚肉加工食品の一種。本来は、塩漬け・燻煙した骨付きもも肉。現在は、骨を抜いたもの、他の部位を使ったものが多い。
第7版新版
やきゅう【野球】九人ずつ二組に分かれ、ボールを打って得点を争うスポーツ。ベースボール。
第8版
やきゅう【野球】一チーム九人ずつで、攻守に分かれ、投手の投げたボールを打者が打って得点を争う球技。ベースボール。
確かに、「野球」の旧版の語釈だと、2つのチームがばらばらに、どこからともなく出てきたボールを打ちまくる情景が思い浮かびます。もっとも、新しい語釈でも、攻守が入れ替わるという情報が抜けていたり、ボールを何で打つのかが分からなかったりという不足も感じないではありませんが。
私が新しい『岩国』を読んでいて真っ先に気づいたのは、動植物の語釈に大幅な手入れがなされていることでした。「自然科学用語」に含まれるのかもしれませんが、もっと大々的に宣伝してもいいと感じるほどです。
例えば「いちご」は旧版ではこんな語釈でした。
第7版新版
いちご【苺・莓】オランダイチゴ・ヤマイチゴ・ノイチゴ・ヘビイチゴなどの総称。普通は食用のオランダイチゴ(ばら科の多年生植物)を指す。
『岩国』を利用するような日本語母語話者が「いちご」を知らないということはまずないのでこれでもよかったのかもしれませんが、例えば日本語学習者が引いたらはっきり言って絶望です。
これが新版ではこのようになりました。
第8版
いちご【苺・莓】多く、一口大で赤色の表面に小さな種が多数ついた果物。オランダイチゴ。キイチゴ・ヘビイチゴなど似た実のなる植物を総称しても言う。▽いずれもばら科で、多年草または小低木。
いちごがどのようなものか、イメージの湧く語釈です。
旧版で「何々科の云々」といわば「科学的」に説明されていた動植物は、軒並み生活に根ざした実感的な語釈に改まっています。
第7版新版
あらめ【荒布】(1)こんぶ科の褐藻類。食料・肥料用。(2)こんぶ科のツルアラメの別称。
第8版
あらめ【荒布】波の荒い海の底に林のように大量にはえる、長さ一メートルあまりの海藻。食用・肥料にする。▽こんぶ目の褐藻。別属のツルアラメを言うこともある。
第7版新版
ほうきぐさ【箒草】あかざ科の一年生植物。高さ一メートルぐらいで、多くの小枝を出す。葉は披針形。枝を乾かして草ぼうきを作る。若葉は食用。ははきぎ。
第8版
ほうきぐさ【箒草】茎が根元から盛んに分かれて、高さ一メートルほどの球状・房状に育つ一年草。葉は披針形で、秋、茎とともに紅葉する。茎で草ぼうきを作る。種子は「とんぶり」と呼ばれ食用・薬用。ほうきぎ。コキア。▽ひゆ科(旧あかざ科)
特徴的な鳴き声がある動物には、その聞きなしが追記されているものもあります。猫は「にゃー」、すずめは「ちゅんちゅん」、からすは「かーかー」だそうです。これからは、動植物名を引くならまず『岩国』かもしれません。
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