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映画「PMC:ザ・バンカー」レビュー 北の最高指導者を捕まえることになった特殊部隊のド派手アクション大作

「単にハリウッドっぽいアクション映画ってだけでは収まらないぞ!」という心意気。

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 公開中の映画「PMC:ザ・バンカー」は、白人や黒人が出てきて銃をぶっ放す、まるでハリウッド映画のような韓国映画である。しかし、この映画はそこにとどまらない。「今まで見たことがないようなアクションを見せて、客をビビらせよう」という意図が充満した映画である。


予告編

アメリカ大統領選の煽りを食って、朝鮮半島の地下施設でPMCが大乱闘!

 「PMC:ザ・バンカー」の設定はけっこう壮大である。2020年代前半の近未来、アメリカは北朝鮮に対する経済制裁を緩和、それによって北朝鮮は中国や周辺国との貿易を活発化させる。北朝鮮の経済活動の好調ぶりに支持率の下がったアメリカのマクレガー大統領は北朝鮮に対する態度を硬直化させ、最高指導者「キング」を捕らえて自身の再選のための踏み台にしようとしていた。

 そんな情勢の中、南北朝鮮の軍事境界線地下30メートルにある秘密通路「バンカー」では、韓国との会談に出席する北朝鮮高官の拉致が計画されていた。CIAの指揮のもと、作戦を担当するのは民間軍事会社(PMC)ブラックリザードのチーム「ラプター16」。隊長のエイハブは元韓国軍空挺部隊のエリートである。短時間で終わるはずの作戦だったが、会談に出席したのは予定していた高官ではなく、まさかのキング本人だった。


大臣の拉致が目的だったが(画像は予告編より)

会談に出席していたのはまさかの最高指導者本人


 多額の懸賞金がかかったターゲットを目前にして、色めき立つラプター16のメンバーたち。CIAとの混乱した打ち合わせがあったものの、予定通りバンカーの中へと突入し、キングを拘束する。

 しかしそこに全く別のPMCチームが攻撃を仕掛けてきたため、バンカー内で傭兵たちは孤立してしまう。キングはなぜバンカーに姿を現したのか、そしてラプター16はなぜ襲撃されたのか。CIAと大統領の思惑も絡まって、混乱する現場から仲間を助け出すため、エイハブの必死の戦いが始まる。

 というわけで、いきなり「アメリカの大統領選」というアメリカ映画以外ではそこまで描写されたことのないネタをぶっ込んできた「PMC:ザ・バンカー」。ただのアクション映画というよりもうちょいポリティカルな内容である。

 CIAの仕事を請け負うPMCたちが主人公ということで、主役を演じるハ・ジョンウ以外のラプター16(アメリカの不法移民を集めた傭兵部隊という設定)のメンバーは全員白人か黒人かヒスパニック。セリフもほぼ英語で、ハ・ジョンウがスムーズにCIAのアナリストや仲間の傭兵と会話するのには舌を巻く。


国際色豊かなキャスト

 PMCというだけあり、ラプター16の皆さんの装備は私服の上にボディーアーマーを着た分かりやすいもの。おまけに近未来のお話なので、ゴロゴロ転がって壁や天井に張り付くボール型のカメラドローンなんかも登場する。

 正直このPMCの着こなしに関しては「ちょっとかっこよすぎるな〜」というところもなくはないのだが、そこも含めてゲームっぽい演出が楽しい。


「単にアメリカっぽいアクション映画」を良しとしない

 「アメリカの映画のような、ド派手なアクション映画を作ってやろう」というのは、非ハリウッドの映画業界が一度はトライしてみるやつだろう。その中でも戦争アクションは、それこそアメリカ映画の独壇場である。


派手なアクションにも果敢に挑んでいる

 例えばその昔だったら、リュック・ベッソンとかはそういう「非ハリウッドだけど、なんかすごいブロックバスター映画を撮る人」として知られていた。日本製の大作映画でも「ハリウッドを超えた」みたいな宣伝文句が今でも見られるあたり、非アメリカ製アクション映画におけるハリウッド・コンプレックスは相当なものである。

 「PMC:ザ・バンカー」で印象的なのは、このコンプレックスを乗り越えてやろうという製作陣の気負いが感じられるところである。キャストは欧米のコワモテな俳優をそろえ、ストーリーには半島情勢とアメリカの大統領選を絡ませ、韓国人の傭兵がCIAの女性アナリストと丁々発止のやりとりをする……。

 日本で言えば(アニメだけど)「FUTURE WAR 198X年」とかをやってたころのような、「国際規模の話をやってやるんや!」という気合いが伺える。



 しかし、「PMC」はハリウッドのアクション映画のような道具立てをそろえるだけではなく、もうちょっと踏み込んだところまで到達しようとしているように見える。一例が、アクションの見せ方と緊迫感の演出だ。

 エイハブは過去の事故によって片足を失っており、実際に戦闘に参加することができない。その代わりカメラドローンを使ってバンカー全体の様子を見張り、チームメンバーの動きを把握しつつCIAと連絡を取って、戦いの指示を出すのである。

 この「観客とエイハブは遠隔操作でしか戦場の様子を知ることができない」というハンディーが、思わぬ効果を発揮している。地面を這ったり天井に張り付いているカメラは、廊下の向こうから歩いてくる敵兵とそれに備えて身構える味方とを同じタイミングで捉える。

 じわじわと高まる緊張。エイハブはそれに耐えながら味方に指示を出し、双方が接敵した時に銃撃戦の火ぶたが切られる。「志村! うしろ〜〜!」をさらにイヤな感じにしたやつが、連続して観客とエイハブにおそいかかるのである。

 おまけにエイハブもじっと落ち着いて指揮だけ取っているわけではない。エイハブが立てこもるバンカー内の司令室でもさまざまなトラブルが発生し、義足が破壊されて立つのもせいいっぱいなのに負傷者の救助をやり、その合間にカメラ越しに銃撃戦を見守って指示を出さなくてはならないのである。地獄のワンオペ育児みたいな状況で、危機また危機の連続が畳み掛けるように発生する。

 何が言いたいかというと、「PMC:ザ・バンカー」はちょっと普通のアクション映画とは異なるやり方でアクションを見せようとしているのである。あっちでもこっちでも火の手が上がり、冷静だったハ・ジョンウがどんどん追い込まれるというプロセスを、ハ・ジョンウ自身にはほとんどアクションをさせずに表現してみせる。


どんどん追い込まれることになるエイハブ

 ヘルメットや銃につけたカメラの映像でFPSっぽく銃撃戦を撮るという手法は今ではさほど珍しくないが、「PMC:ザ・バンカー」でのヘルメットカメラの映像には必然性がある。派手なアクションを見せようという意気込みだけではなく、とにかく従来になかった方法と筋立てで銃撃戦を見せようという気概があるのだ。「PMC:ザ・バンカー」は単にハリウッドっぽい戦争アクション映画に収まろうとせず、なんとかして爪痕を残そうとしている。

 正直、ディテールを見れば「そうはならんやろ……」というところもある。もうちょっと単純な設定でもよかったんじゃないのという気もするし、基本的にコンクリート製のバンカーの中でしかお話が展開しないところから、「予算」という2文字が脳裏をチラつくところもある。

 しかし、この映画で特に大事なのは、「ただ単にハリウッドっぽいアクション映画ってだけでは収まらないぞ!」という心意気である。「パラサイト」であらためて注目されている韓国映画だが、アクション映画でも気合の入った作品が生産されているのだ。お隣のそんな土壌が、少しうらやましくなるような一本だった。

(C) 2018 CJ ENM CORPORATION, PERFECT STORM FILM ALL RIGHTS RESERVED/2020年2月28日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー/配給:ツイン



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