新型コロナウイルスの影響で子どもの世話のために休業を強いられた保護者向けの支援金(以下、支援金)において、風俗業従事者が支給対象から外されていたことについて、4月6日に菅義偉内閣官房長官(以下、菅官房長官)は答弁を行い、風俗業従事者への支給を検討すると答弁しました。
この支援金は、子どもを持つフリーランスの保護者を対象に、小学校や幼稚園などの休校の影響を受け、子どもの世話をするために休業した場合、1日あたり4100円を支給するという制度です。支給しない対象を定めた「不支給要件」に風俗業従事者が設定されていたため、多くの批判が続出しました。加藤勝信厚生労働相(以下、加藤厚労相)は4月3日の閣議後会見で、不支給要件の取り扱いを変える考えはないと述べています。
今回の支援金問題について質疑応答が行われたのは、衆議院の決算行政監視委員会第一分科会及び第三分科会です。第一分科会では寺田学衆議院議員(以下、寺田議員)から菅官房長官や自見はなこ厚生労働大臣政務官(以下自見政務官)に、第三分科会では柚木道義議員(以下、柚木議員)から加藤厚労相に対し、不支給要件を批判する形で行われました。
菅官房長官「不支給要件を再検討」
寺田議員は、風俗業従事者の苦しい状況について説明し、支援金を風俗業従事者に給付するよう求めました。
寺田議員の支援金不支給要件に関する質疑は以下の通りです。
- なぜ風俗業従事者が不支給要件に含まれているのか。
- 多くの風俗業従事者が、「助けて」と声を上げることを「してはいけないこと」と認識している。これは大きな問題だ。
- 聞き取り調査をしたところ、風俗業従事者の3分の1には子どもがおり、経済的に苦しい人が多い。
- 支援金の不支給要件から、まず風俗業従事者だけでも削除すべきだ。
寺田議員の質疑を受け、菅官房長官は不支給要件の再検討を行いたい旨を答弁しました。
また、今回の支援金の不支給要件は、従来存在した雇用関係助成金の共通要項から流用されたものです。「なぜ風俗業従事者を排除する要件を設けたのか」という寺田議員の質問に、厚生労働省本田大臣官房審議官は、従来の雇用関係助成金制度に準じて運用していることを述べました。さらに従来の雇用関係助成金における不支給要件に風俗業従事者が含まれる理由として、「雇用の安定をはかるという目的に照らして風俗業を除外した」と回答しています。今後は雇用関係助成金における不支給要件の撤廃も、議論の射程に入りそうです。
明言避けた加藤厚労相
一方、加藤厚労相らが答弁に立った第二分科会では、柚木議員が質疑を行いました。柚木議員は、当事者の生活の困窮、感染拡大防止の観点から風俗業従事者への休業補償の必要性を訴えました。さらに補償の対象から風俗従事者を外すことが差別の助長につながりかねないとして、支援金の不支給要件を撤廃するよう求めました。
柚木議員の主張は以下の通りです。
- 風俗業従事者を支給対象から外す不支給要件を撤廃すべき。
- 風俗業従事者には貯金のないシングルマザーも多く、休業補償を必要としている。
- 感染拡大防止の観点としても必要な措置。
- 風俗業従事者を支給対象から除外することは、風俗業従事者を「感染してもいい人」扱いしていると受け取られる行為で、差別を助長する。
- 加藤厚労相には差別を助長する意図はないはずなので、そのように発信してほしい。
それに対し加藤厚労相は、菅官房長官と同様、今回の支援金の不支給要件は以前から存在した雇用関係助成金における不支給要件をそのまま流用したものであることを繰り返し強調しました。
また、「緊急時の考え方は私はあるんだろうと思ってます」と述べ、支援金の不支給要件の撤廃については可能性をほのめかしつつ、明言を避けました。緊急時の運用に関する具体的な取り組みや、従来の雇用関係助成金における不支給要件改正の意思については、いっさい提示されていません。
また、柚木議員は差別を助長する「誤解」が現場に広まっていることについて、「差別の助長は本意ではなく、申し訳ないと思うならそのように答弁してほしい」旨を述べましたが、謝罪はありませんでした。
加藤厚労相の答弁は以下の通りです。
- 不支給要件は以前からあった雇用助成金の制度をそのまま運用したものであることを強調。
- そもそも雇用関係助成金の不支給要件を改正するか否かは別の問題である。
- 緊急時の運用を考える必要性は、(加藤厚生相は)あると考えている。
- 差別の助長について謝罪、弁明はせず。
まとめ
支援金の不支給要件を巡っては、4月2日にセックスワーカーの支援団体「SWASH」から要望書が提出されるなど、当事者を中心に多くの批判がありました。今回は主に菅官房長官の答弁によって4月3日の加藤厚労相の見解が覆された形になります。
しかし「検討する」以上の答弁はなく、確約はされていません。実際に支援金の給付が実施されるのか、今後の動向を注視していく必要があります。
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