美しく不思議な力があり、ひとの手で収穫できる“星”。漫画『星に魅入られた人たちの、小さな3つのお話』は、そんな特別な星にそれぞれ違う形で関わり心ひかれる3人の繊細な物語です。しっとりとした夜を過ごす、独りの時間のおともに。
作者は、グラフィッククリエイターの渡邊 春菜(@watanabe_haruna)さん。小さな3つのお話とある通り、「星を採る人」「星を紡ぐ人」「星を編む人」の3つに分かれており、同時につながりがある1つの物語となっています。
物語のキーとなるこの世界の「星」は、空に輝く美しい光であると同時に、さまざまな症状に効く万能薬の材料。そして舞台は、ひときわ標高が高い町。星が採れ、療養目的で多くの人が集まる町です。魔法のようなアイテムがある夢の世界にも思えますが……?
星に魅入られたひとたちの、小さな3つのお話(著・渡邊 春菜さん)
「星を採る人」
星は、資格を持った者が特殊な道具を使って収穫し、そのまま製薬工場に納品。星は細かく粉砕され、高価な薬として取引されます。ただ、その実、効能がはっきりしていない新薬であり、また薬は鮮度が重要という気になる特徴もあります。なお、標高が高いこの町に人が集まるのは後者の理由から。
最初のお話で描かれるのは、「星を採る人」である主人公の女性の日常。星を収穫する仕事から帰宅した彼女は、日課として愛鳥の「ヘメラ」に星くずをひいて与えます。2年前にケガを負っていたヘメラが、星の薬によって今では獣医師も驚くほど元気に回復したというエピソードですが、一方で「ヘメラの鳴き声を聞いたことがない」と気になる部分も語られます。
「時折、薬に関わることが虚しくなる時がある」と表情が陰る彼女。しかし、それでも今日も星を採るだろうと言葉は続きます――「星はいろいろな気持ちがかすんでしまうほど美しいから」。星の薬のおかげで飛べるようになったヘメラは彼女の肩にとまり、彼女と一緒に明るくなっていく空を見つめるのでした。
「星を紡ぐ人」
2話目の「星を紡ぐ人」では、星を加工して瓶詰めする工場が登場。そこでは、服用に不向きな“星の硬いトゲ”の部分「星の殻」を取り除く工程があることが描かれます。
同話の主人公の女の子は、その捨てるしかないとされる星の殻を「あんなにキラキラしてるのに」もったいないと、「星の糸」として利用することを思い付きます。しかし、使いやすさ等のバランスを考えた結果、少し見た目が地味になってしまい、なかなか売れません。
すると最後の一軒で、これまでと違う反応をもらいます。女の子が説明する前に、その家の女性は「あら…とても…きれいね…」と糸を見つめ、すぐに女の子から糸を買い、さらに「新しくできたら またもってきてくださいますか?」とも。女の子はその質問に「よろこんで!」と答え、1人だけとはいえ好評を得たことに、ウキウキ気分で帰るのでした。
「星を編む人」
最後の「星を編む人」は、生まれつき目の見えない女性が主人公。「小さな頃から、私は哀れみの対象だった」とこれまでを振り返り、「私は自分のことを可哀想だなんて思ったことはない」と語る彼女は現在、治療のためにと父親が買った家、“星を採る人”がいるこの町に3年前から住んでいます。
星の薬を服用し続けてしばらくたつと、「薬だけをぼんやりと感じるように」なり、それはやがてはっきりとした感覚に。医者からそれが「見える」ということだと教えられた彼女は、最近では夜空に広がる星の輝きが見えるようになり、その変化に周囲の人々は喜びますが、彼女は「私は、『見えること』が本当は少し怖いと感じている」と心の内を語ります。
そんなある日、誰かが「星を練り込んだ糸を作ったのですが」と訪ねてきます。星だけが見える女性の目には、その星の糸が「ほそく、こまかく 輝いて」見えたといいます。彼女は、それまで目数を数えながら手の感覚だけやっていた編み物を、目で見ながら作る体験をします。「はじめて『見えること』がうらやましく思えた」――そうして彼女の作り上げた“光のレース”は、ひっそりと、だけれども美しい輝きを放っていました。
星が採れる町に住む人々を、いずれも違う角度から描いた3編。登場人物同士のつながりはささやかに見えますが、間接的に重要な部分で深くつながっています。
作者の渡邊さんは、漫画作品以外にも、イラストや旅のメモ、レシピにコラムなどをTwitterとnoteで公開中。他にもポートフォリオサイトのCREATORS BANKのページでも魅力的なイラスト作品を見ることができます。
画像提供:渡邊 春菜(@watanabe_haruna)さん
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