「首無し峠」解説
「O夫妻」の死体は腐敗が激しく、死因が特定されなかったにも関わらず、「店主」が「絞め殺されて」とその殺され方を知っていたのは、彼が夫妻を殺した犯人だからです。
旧道に位置する彼の店は、バイパスの開通以来交通量が減り、利用者といえば「赤いオープンカーの噂」を聞いた肝試しの客ばかり。しかしその怪談がデマだと明かされてしまったことで、「店主」は利用者のさらなる減少に窮していました。
追いつめられた店主は、常軌を逸した解決方法を取ることにしました。首無し峠の名にふさわしい、新たな心霊スポットを――オープンカーの噂と違って、現実の首切り惨殺事件という「ちゃんとした根拠のある」スポットをつくり、噂を流すことです。
どうやら彼の目論見は、成功したと言えそうです。
白樺香澄
ライター・編集者。在学中は推理小説研究会「ワセダミステリ・クラブ」に所属。クラブのことを恋人から「殺人集団」と呼ばれているが特に否定はしていない。怖がりだけど怖い話は好き。Twitter:@kasumishirakaba
過剰に合理的ゆえ共感されない動機
私が大好きな、ある有名推理作家の作品に、「犯人ではないある人物が、売却予定の自宅で家族が殺されているのを発見し、事故物件として家の売価が下がるのを恐れて死体を別の場所に移動させた結果、真犯人にアリバイが成立する」という短編があります。「過剰に合理的であるがゆえにかえって共感されない動機」の例として、とても印象的でした。
ところ変わればといいますか、イギリスでは「幽霊の出る家」は、むしろ希少な物件として高値で取引されることがあるそうです。19世紀末の心霊主義ブームの際には、コナン・ドイルやルイス・キャロル、ノーベル賞物理学者のレイリー卿といった知識人たちがこぞって「心霊現象研究協会」に出入りし、交霊会が上流階級の嗜みであった「おばけ好き」のお国柄らしい話です。「ぜんぜんおばけが出ないぞ!」というクレームは、不動産屋さんは受け付けてくれるのでしょうか……?
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