普通に読んでいればなんてことないお話。だけどひとたび気づくと、全く違う光景が見えてくる……「意味がわかると怖い話」を紹介する連載です。
旧友からの連絡
長らく放置していたFacebookのページに、大学時代の友人から友達リクエストが来ていた。
就職で地元に帰ってしまい、3年ほども会ってない懐かしい名前。プロフィール写真を見ると、ぴしっとスーツを着て真面目な顔をしているが、本人に間違いなかった。リクエストを承認すると、すぐにチャットからメッセージが届いた。
『久しぶり! 同じサークルだったYです。覚えてる?』
すぐに返信した。『覚えてるに決まってるじゃん! 3年ぶりだね!どうしたの?』
『実は結婚するんだ。式に出てほしい友達に連絡して回っててさ』
「宗教とかマルチの勧誘だったら嫌だな……」と、少しだけ思っていた俺は安堵し、同時に旧友のおめでたい報告に、うれしくてつい饒舌になった。
『おめでとう! 絶対行く! 相手はどんな人?』
『こっちに戻ってから付き合い始めた地元の子。今度写真送るわw』
『あんなに遊び回ってたYも結婚か。なんかびっくりだよ』
『おい、彼女まじめな子だから、会ってもあの話とか絶対すんなよ。やばいからさ』
『あの話ってなによ(笑)心当たりがありすぎて分からんわ』
『俺がお前に「あの話」って言ったら1つしかないだろ』
ああ……と思い至り、俺は苦い気分になる。
『ナンパした人妻と酔っぱらって3Pしたこと?言う訳ないじゃん(笑)こっちまで人格疑われるよ』
冗談めかして書いたが、後味の悪い思い出だった。「恋愛心理学を試す」なんて言ってバーで声をかけた女性に、旦那がいるからと拒まれたのが癪(しゃく)だったのか、Yは馴染みの店員に言い含めて彼女の飲み物に度数の高い酒を混ぜさせて酩酊させ、強引にホテルに連れ込んだのだ。意気地がないと言われるのも、「チャンス」をふいにするのも嫌で、俺もYを止めなかった。
あの夜のことはしばらく、わだかまりとして俺の中に残っていたのだが、Yにとっても掘り返したくない出来事だったのだと知り、ちょっとだけ安心した。
その後、招待状の送付先として住所を教え、『今度、東京に出るから久しぶりに飲もう』と約束してその日は終わった。
Yが死んだと共通の友人から知らされたのは、3日後のことだ。
ニュースサイトを確認すると、Yは帰宅途中に夜道で殴り殺されたらしく、犯人はまだ捕まっていないという地方紙の報が引っかかった。
ついこの間、絡んだばっかりだったのに……。つらくなってFacebookのページを開くと、Yからの未読のメッセージが届いていた。
『これで確信が持てた。ありがとう』
――ピンポーン。呼び鈴が鳴った。
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