東海道新幹線の速達列車「のぞみ」は2021年現在、東京、品川、新横浜、名古屋、京都、新大阪に停車します。利用需要の多い大都市に特化し、主要駅のみに停まることで目的の駅へ「より早く着くサービス」を提供する列車です。
国鉄時代の新幹線「ひかり」は東京、名古屋、京都、新大阪に停まりました。つまり、新幹線開業時から名古屋駅と京都駅は主要駅と位置付けています。多くの人も昔から「名古屋と京都は新幹線が必ず停まる」と思っていることでしょう。
そんな国鉄時代の常識を打ち破ったのが1992年3月にデビューした「のぞみ」です。実はデビュー当初、「名古屋駅と京都駅を通過する列車」が設定されたことがありました。停車駅は東京、新横浜、新大阪だけ。今では考えられないですね……。
のぞみは、最高時速270キロの新型車両「300系」を用いたこともあって、東京〜新大阪間を当時の「ひかり」より22分も早い「2時間30分」で結びました。「新幹線は速くて、早い」「当日発でも朝9時の会議に間に合う」なども大きくアピールしました。
「名古屋、京都に停車しない」のぞみに名古屋駅利用者、激おこ
しかし、こののぞみ停車駅の設定が明らかになった瞬間、名古屋の人々は激怒しました。「は? どういうことだー!!」。
デビューした「のぞみ」2往復(4本)のうち、名古屋駅と京都駅を通過する列車は早朝東京→新大阪行きの1本(のぞみ301号)だけです。当時は線路保守の関係から東京側で徐行運転を行う必要がありました。徐行を穴埋めするために、大阪で「朝9時の会議に間に合う」ようにするために、やむを得ず両駅を通過するようにしたのが理由とされています。
その代わりに、のぞみ301号(東京駅6時発)の7分後に発車する「ひかり1号」で東京、名古屋、京都、新大阪の順に停車するようにしたので、JR東海は問題なし(名古屋にはこの発車時間でも「朝9時の会議に間に合う」)と考えました。
その意に反して、「格下げなど許せない」。新幹線の名古屋駅通過は「名古屋飛ばし」と呼ばれ、名古屋を通過してしまうのぞみ301号を巡って政治家や団体、財界、メディアも大騒ぎ。ダイヤ変更をJR東海に訴えます。
一方の京都の方は「早朝の1本だけで、京都観光への影響はほとんどない」ので反発の声はほとんどなかったとされています。
のぞみ301号は結局、1997年11月のダイヤ改正で廃止となります(かなり長く運行されました)。以後、名古屋と京都駅を通過するのぞみは2021年現在まで設定されていません。
「新幹線や特急が通る」「新幹線や特急が停まる」。このことは、昔も今も、そしてリニア中央新幹線が開通する将来も、住民や利用者の利便性はもちろん、その都市、自治体、政治、経済にも大きな影響があり、極めて重要なことなのです。
新田浩之(にったひろし)
1987年神戸市生まれ。関西大学文学部卒、神戸大学大学院国際文化学研究科修了。主に鉄道と中欧、東欧、ロシアの旅行に関する記事を執筆。2018年からチェコ政府観光局公認の「チェコ親善アンバサダー2018」を務める
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