とても悲しい。そして怒っている。何がって12月17日から公開されている「マトリックス レザレクションズ」のことである。
1999年に公開された1作目「マトリックス」を中学生の時に初めて見た筆者は「うぉおおー! すっげぇえええー! 超おっもしれぇええええー!」と大興奮し、映画オタクへの道を知り、そして歩んでいく大きなきっかけとなった。現在は主要な配信サービスにあるので、今の中学生にも見てほしいと願うばかりだ。
今回の最新作は、いわば「22年ぶりの中学校の同窓会」だった。不安と期待が入り混じっていて、正直に言えば不安の方が大きいし、行かずにただ思い出として心の中に留めておきたい気持ちもある。
でも行ってみた。初めは掛け値なしに楽しかった。旧友たちとの昔の話題にも花が咲いた。でも同窓会が終わった後に思ったのである。「お前らは誰だ」と。
決して、この同窓会に行かなきゃ良かったとは言わない。いや、後述する理由で行く意義は大いにあった。だが、同窓会そのものは激しく居心地が悪く、ずっと部屋の隅っこでお酒をちびちびと飲むしかなく、せっかく出された食事も少ししか食べられず、残った感情は悲しみと怒りだった。
ここで重要な忠告をしておくが、本作は後述する理由により「マトリックス」「マトリックス リローデッド」「マトリックス レボリューションズ」の旧3部作を見ておくことがほぼ必須な内容になっている。予備知識のないまま楽しめる可能性もゼロではないが、おそらくは全く知らないメンバーの同窓会に間違って来ちゃったような感覚ばかり得てしまうだろう(2日前に3部作を見直した筆者でさえもおおむねそうなのだから)。
何より、「マトリックス」という映画史の転換点となった傑作、その最新作を見るというのは、映画ファンの義務である。たとえ、その評価が極端な賛否両論でもだ(もちろん絶賛している方もいる)。きっと仲の良い友人と見に行けば、ものすごく語り合いたくなるだろう。
良い意味でも悪い意味でも、新たな「マトリックス」を見届けに映画館に足を運ぶのがおすすめだ。そして、エンドロールの最後にいろんな意味で見逃し厳禁のおまけがあるので、最後まで席に座っておいてほしい。
※以下は「マトリックス レザレクションズ」の核心的なネタバレは避けて書いたつもりだが、滲み出てくる程度のネタバレは含むことをご容赦いただきたい。また「レボリューションズ」のラスト付近のネタバレにも触れている。
「続編で求められること」に向き合っていたか?
いきなり関係のない作品を挙げて恐縮だが、「おそらくはこういう内容になるのだろう」と事前に予想していた映画がある。それは「トイ・ストーリー4」と「ターミネーター:ニュー・フェイト」だ。
「トイ・ストーリー4」は、「3」の「完璧なラスト」をひっくり返すような展開があり、特に日本では拒否反応を覚える方が多かった。だが、「おもちゃを大事にしない子ども」だった筆者には大いに響いた作品であり、「誰かに必要な物語」を提示する気骨を感じていた。
「ターミネーター:ニュー・フェイト」の序盤にも「2」のラストを覆してしまうような、「今まではなんだったんだ?」という批判も浴びた衝撃の展開が待ち受けていた。だが、筆者は「そうでもしないと『2』を踏襲した続編は作れないだろう」と納得できたし、十分に「ターミネーター」らしいアクション映画としての面白さも味わった。
この2本は賛否両論を呼んだが、「続編で求められること」に作り手が存分に向き合ったものであり、個人的には大いに肯定したいと思える作品だった。そして「マトリックス レザレクションズ」でも、それら同様の「過去作のラストをひっくり返す」挑戦と共に、「語られるべき物語を語る」続編にする意思は確かに見受けられた。
だが、結果的にはそのどちらもが中途半端で、1作目「マトリックス」にあった魅力も失われた、それどころか作り手の志までもが浅薄に感じられ、はっきり言って「蛇足」感すら覚える作品になってしまっていた。
ちなみに、一部宣伝情報に「マトリックス レザレクションズ」が「1作目の続編」との触れ込みがあり、それを伝える記事も多く存在していたのだが、それは全くのウソ。バリバリに「レボリューションズ」から続く物語だったのにも驚いた。なぜそのような文言が出たのかは謎である。
致命的なアクション面での不満
致命的だと思ったのは、単純に1本のSFアクション映画としての面白みが著しく欠けていることだった。
1作目「マトリックス」のアクションの面白さとは何か。その筆頭は「バレットタイム」だろう。被写体が静止または低速で動作した状態でカメラがグルッと動くシークエンスは当時の観客の度肝を抜いた。その他の柔術の訓練や、2丁のマシンガンで回転しながら敵を駆逐する中二病全覚醒なアクションなど、今でも鮮烈に思い出せるものばかりだ。
「マトリックス レザレクションズ」には飛んだり跳ねたりのアクションをスローで見せたり、大人数での乱闘など、労力がかかっているシーンも多くある。だが、カメラワークやテンポには残念ながらかつての躍動はなく、どこかで見たような悪い意味でのデジャヴュをも感じてしまった。
しかも、アクションに至るまでの話運びも納得しづらいことばかりで、固有名詞が多い上に抽象的な話も多いため、難解な話を理解しようと努力する前に、置いてけぼりになってしまう。これは「リローデッド」「レボリューションズ」の時にも感じていた難点だが、そこをパワーアップしてどうする。
対して、ストレートに感じられた面白さは、1作目を踏襲した「主人公のネオが世界の真相に気づいていく」序盤。ここは過去作のトリビュート的な内容でもあり、ネオには新たな目的も生まれていて、「同窓会って楽しいな!」と心から思えた。現実で年齢を重ねたキアヌ・リーブスとキャリー=アン・モスの再共演、そのキャラクターの新たな関係性も本作の大きな見どころだろう。彼らには同窓会でまた会えて本当に良かった……! と心から思えた。
だが、それも中盤からは分かりづらい会話、納得しづらい展開に飲み込まれてしまい、さらに気持ちが離れてしまった。
「マトリックス」にあった鮮烈なアクションがない。主人公が残酷な世界の真相を知り救世主と呼ばれることに戸惑う様が、哲学的な問答と密接にリンクする物語の面白さにも欠けている。では、新たに打ち出されたのは何か? と問われれば、それは「自己批判的な言及」だったが……それすらも怒りと悲しみにつながっていた。
許せない「バレットタイム」への茶化し
少しネタバレに抵触してしまうが、本作には自己批判的かつ、メタフィクション的な設定がある。「前作までの世界観をそんな風に扱うなよ!」とそれだけでも怒る人もいるだろう。
個人的にどうしても許せなかったのが、前述した「バレットタイム」を批判、いや茶化す、いやバカにするようなセリフがあったことだ。
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