きっかけは“遊戯王カード”の盗難事件 「ブルーアイズ持ってる」のラッパーを襲った失望と、新曲を彩った被害者の怒り(2/2 ページ)
ラッパーのDr.マキダシさんと、MVに出演した盗難被害者のUMRさんにインタビュー。
「千年バズル」発表後、目につくようになった“悪いリアクション”
―― お待たせしました。ここからはUMRさんにもお話を聞いていこうと思います。Dr.マキダシさんはMCバトル、UMRさんはデュエルにおいて「勝ちたい」という欲望がつきまとうかと思いますが、勝負におけるマインドに欲望は作用するものなのでしょうか?
UMRさん(以下、UMR) 前まではそうでしたね、勝たないといけないというプレッシャーに押されていて、前日の寝る前とか動悸(どうき)がしていました(笑)。
Dr.マキダシ 身を削ってデュエルしていたんですね。
UMR 大会の2週間前くらいからずっと練習していましたし、勝たなきゃ、勝たなきゃって、ちょっとミスしたときとかに自分自身にイライラして。空回りするところがありました。
Dr.マキダシ 僕は、MCバトルのためにめちゃくちゃ長い韻を仕込んでおいたのに、長くしすぎてどこの部分で踏んでるか分からなくなっちゃったりとか。欲をかいて仕込みすぎると頭の中がごちゃごちゃになっちゃってだめですね。
―― MCバトルやデュエル以外で、欲望って湧いたりしますか?
UMR あんまり湧かないですね(笑)。自由人なんで。
Dr.マキダシ めちゃくちゃ健康的じゃないですか!
UMR それこそ空き巣に入られるまでは「このカード欲しい」という思いはあって、絶対買わないといけないってやつは買っていましたね。
Dr.マキダシ じゃあそのときは欲望に対してストイックに……。
UMR そうですね。途中からは意地になって買っていました。
Dr.マキダシ ちゃんと強欲なところあるじゃないですか(笑)。僕はね、医者をやりながらラッパーをやっているくらいなのでかなり欲にストイックな方ですけど、うまく循環できていると思います。欲ってモチベーションでもあるんで、そこを上手に変換できれば。
―― HIPHOPで成り上がりたい人の願望の一つに「make money(金持ちになる)」というものがありますが、Dr.マキダシさんは医者という世間的な認識ではお金に困らない仕事をされています。
Dr.マキダシ これは僕の持論なんですけど、確かに医者をやっていて、安定した生活を送ったりだとかMV、曲を作ったりだとかには困らないようなお金はあるんですけど、「富と名声は別物」なんです。
いくらお金を持っていても、潤沢に自分の生活を潤していっても、それだけでは満たされないものがある。ラッパーとして、ちょっと舞台で活躍して応援してくれる人が増えたときに、満たされる部分とお金とは別だなと思っています。結論、僕がすごく強欲な人間だった、ということですかね(笑)。
―― そこに落ち着きますか(笑)。では、MVの話に戻りまして、UMRさんを起用した経緯についても聞かせてください。
Dr.マキダシ それこそ前回の「千年バズル」のときにTwitterアカウントをフォローさせていただいて相互フォローになったんですけど、ちょうど「千年バズル」の直後くらいにいいリアクションと悪いリアクションがあったんですよ。すごく盛り上がってバズってくれて、割といろいろな人からフォローしてもらえたりYouTubeの再生数も増えたりしたんですけど、カードの価格がフォーカスされてしまって。僕らとしては“遊戯王愛”と高価なカードを持っている、という事実に救われた一人のサラリーマン、遊戯王ラッパーを描きたかったんですけど、どうしても「遊戯王カードって値打ちがあるんだ」みたいに注目されてしまった時期がありまして。
僕もオオイエ君も曲についていろいろな人のつぶやきを見るんですけど、投資家の人が「よし! 今は遊戯王だ! 明日秋葉原で買い占めるぞ!」みたいなツイートをしているのを見てゲンナリしたことも。その直後くらいにUMRさんをはじめとしたカードコレクターの方々が、次々と空き巣の被害に遭うといった事件がありまして。
僕らの曲が直接の原因になったとは考えていませんが、ネガティブなインフルエンスをしてしまった部分があったのかなと。ちょうどそのときに相互フォローになった方が被害に遭われていて、ショッキングなツイートをしているわけですよ。この一連のムーブメントにいた人間として、ラッパーとして曲にしたいなという思いがありまして。それでUMRさんにDMをしました。
事件後、変わってしまったカード収集へのモチベーション
―― 先ほど、Dr.マキダシさんからもカードの金銭的な価値に注目が集まってしまっているという話がありましたが、いちプレイヤーとして思うことはありますか?
UMR 界隈が盛り上がることはうれしいんですけど、その反面空き巣や転売が増えてしまっています。プレイヤーをやっている立場では特に大きな影響はないんですけど、SNSを見ていると悪い面が目についちゃうのが気になりますね。
―― UMRさんの周りのプレイヤーとコレクターの割合はどれくらいでしょうか?
UMR 私の周りではプレイヤーの方が圧倒的に多いと思います。プレイヤーをしながらコレクションをしている人も結構多いですけど、体感的には7対3から6対4くらいですかね。
―― UMRさんは盗難事件の被害者でもあります。思い出すのはつらいと思いますが、当時の状況やその後について明かせる範囲でお聞きしたいです。
UMR 現状について話すと、犯人はまだ捕まっていないです。心当たりはあるんですけど、まだ言えないことが多くて。総額だと、私の家では400万〜500万円くらい。カード以外ですとブランドものだったり家電だったりも。空き巣に遭う3日くらい前が私の誕生日だったんですけど、友達からもらったものも盗られてしまったので結構悲しかったですね。
―― 事件前と事件後でカード収集へのモチベーションに変化はありましたか?
UMR 変わりましたね。コレクションを集めても同じことがあるのはすごく嫌なので、カードを集めることはあまりしなくなりました。その代わり興味が湧いたゲームなどには結構使っていますね。
―― 今一番お気に入りのカードを教えてください。
UMR 「究極竜騎士」(マスター・オブ・ドラゴンナイト)っていう2021年に発売されたボックスについているボーナスパックから出るカードで、私が空き巣に遭ってから初めてコレクション用で購入したカードなので大事にしています。
―― お話ししていただきありがとうございました。ではあらためてMVについて、初めてのレコーディングで大変だったことはありますか?
UMR どうやって韻を踏めば良いか分からなくて、教えていただきながらやりました。
Dr.マキダシ 歌詞はいろいろと情報をいただきながら僕が書いて事前に送ってはいたんですが、フロウの練習などができていなかったのでその場で教えつつでした。
続けてやるのがなかなか難しくて、1小節ずつ細切れで録って。後半はちょっと慣れてきて少し長めに録ったりはしたんですけど。最終的にはかなりかっこいい感じになりました。
―― MVではいまお話ししているUMRさんとはかなり印象が違っていましたけど、出演してみていかがでしたか?
Dr.マキダシ どうですか? 緊張しました?
UMR 緊張しましたね(笑)。普段ああいうことをやったことがないので。
Dr.マキダシ メイクも普段しないギャル的なものにね。ビートの話に通じるんですけど、あえてゴリゴリの「ラップしてます!」って感じをあそこのパートは演出しようかなと思っていて。
普段のこの感じで出ていただいてもよかったんですけど、あえてそこはギャルUMRでラップしてもらいました。でもそれがすごくハマっていて、多分普段こういう方だって存じ上げない人はギャルのカードコレクターだと思っている人もいると思います(笑)。一部の人にはギャルゲーマーだと思われていますよ、きっと。
―― 今後の展望(欲望)を教えてください。
UMR 私は、興味を持ったことにはいろいろとチャレンジしていきたいなと思います。
Dr.マキダシ もう高額カードはしばらくいいですか(笑)。
UMR しばらくいいですね(笑)。最近は旅行にハマっているんで、そっちを楽しんでおきます!
Dr.マキダシ 普通のいい女子!
UMR 女の子っぽくなりましたね。
Dr.マキダシ 僕は自分の好きなことを好き勝手突き詰めてやっているんですけど、自分と同じようなことをやっている人はいないし、それが自分のスタイルというか、自分といういちジャンルになっていますね。遊戯王や医者のネタだったり怪談もやったりしているんですけど、最終的に、それぞれの表現やスキルが有機的につながって、マキダシという1つのエンタメの集合体みたいな存在になれればいいなと思っております。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「ブルーアイズ持ってる」で話題の“遊戯王カード自慢ラップ”はなぜ生まれたのか? ラッパー本人に聞いてみた
「ブルーアイズ」=誰しも心に抱えている「自分だけの大切な何か」。 - 「ちいかわ」アニメ化記念インタビュー 青木遥と小澤亜李が語る“ちいかわ”の優しさと“うさぎ”のパッション
ちいかわ役とうさぎ役の2人に聞きました。 - 鳴っているか分からないぐらいでいい―― 名曲を生み出してきた下村陽子がアニメ「ハイスコアガール」で目指した意外な曲作り
「キングダム ハーツ オーケストラ ワールドツアー」中の下村陽子さんを直撃しました。 - 乃木坂&モー娘。元メンバーが結成、Youplusインタビュー 「悪い大人にだまされて」アイドル卒業後、酸いも甘いも経験しての再デビュー
恋愛ルールについても聞きました。 - とにかく俳優の良い芝居が見たい―― 佐藤二朗が語る、映画監督をする理由と第2作「はるヲうるひと」を経て強固になった思い
打ち合わせ中だという3作目についてもお話を聞きました。