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きっかけは“遊戯王カード”の盗難事件 「ブルーアイズ持ってる」のラッパーを襲った失望と、新曲を彩った被害者の怒り(1/2 ページ)

ラッパーのDr.マキダシさんと、MVに出演した盗難被害者のUMRさんにインタビュー。

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 ――「ラップ上手くないけど、ブルーアイズ持ってる 1枚60万のブルーアイズ持ってる」。

 2020年9月8日、1本の動画がYouTubeで公開されました。「遊☆戯☆王」愛をラップでユーモラスに歌い上げたこの動画は、コワモテの男たちに対して、サラリーマン風の男が自信満々に「青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)」のカードを見せびらかす姿や、その中毒性のあるリリックが話題となり、Twitterで数万いいねを獲得するなど話題となりました。

【友人が1枚60万円のブルーアイズを自慢するだけの曲】千年バズル feat.オオイエ / MAKI DA SHI*

 「千年バズル feat.オオイエ」と題されたこの楽曲を投稿したのは、現役医師ラッパーのDr.マキダシさん(当時はMAKI DA SHIT)。同楽曲は注目を集め、投稿をきっかけにライブも増えていったといいます。

 一方で、そのころから遊戯王カードを標的にした盗難事件が相次ぐようになります。大会の優勝賞品となるなど1枚しか現存しないカードもあり、そうした希少なカードは数百万円から数千万円で取引されることも。

 Dr.マキダシさんが2022年1月26日に発表した新曲「強欲な壺」は、実在する魔法カードをタイトルに、人間の醜い欲望を歌い上げた内容。「千年バズル」発表後に盗難事件が多発したことを受け、「遊戯王」コミュニティーに対しての誠意を伝える意味も込めて制作したといいます。

強欲な壺 / Dr.マキダシ

 MVには、実際に盗難被害にあった遊戯王プレイヤーのUMRさんも出演。リリックには「割れた窓ガラス 空のショーケース」という事件当時の生々しい現場の様子や「未だ帰宅時たまにトラウマ」という癒えない心の傷を表す言葉が並び、「強欲どころじゃすまされねえ とっくにこっちゃバトルフェイズだ バーロー」と遊戯王用語を絡めながら、いまだ裁かれずにいる犯人への吐き出すような宣戦布告も飛び出します。

 この記事では、Dr.マキダシさんとUMRさんにインタビュー。「強欲な壺」誕生のきっかけから、テーマになっている「欲望」について、さらにはカードへの価値に注目が集まってしまっている現状に対し、プレイヤー目線から思いを話してもらいました。

Dr.マキダシとUMR
左からUMRさん、Dr.マキダシさん

※インタビューは、十分なコロナ感染対策を施した上で実施しています

2作目の遊戯王シリーズ、ラッパー仲間とのコラボレーション

―― 前作「千年バズル」が発表された際、HIPHOP界隈(かいわい)からの反響はどうでしたか?

Dr.マキダシさん(Dr.マキダシ) 悪くはなかったです。まあ、ギャグラップといえばギャグラップなんですけど、割とコワモテのラッパーの方からも「聞いたよ」って言われて。

 ライブの件数自体も結構増えまして、僕らでは「ブルーアイズ営業」って呼んでいたんですけど。いろいろなところで「ブルーアイズ持ってる」をやらせてもらいました。

―― ライブでは「ブルーアイズ持ってる」のコールアンドレスポンスもあったり?

Dr.マキダシ めちゃめちゃありましたね。他の曲は知らないけど「ブルーアイズ持ってる」だけ叫びにくるおじさんとかいて(笑)。すごくうれしかったです。

―― 「千年バズル」に続いて2作目の遊戯王シリーズですが、どういった経緯(けいい)で制作に至ったのでしょうか。

Dr.マキダシ ブルーアイズ以降も「また遊戯王シリーズを出してくれ」っていう要望が各所であったんですけど、前作はモンスターカードだったので、次は別のシリーズでいこうかなと思って。「強欲な壺」は魔法カードなんですけど、キャッチーなフレーズと見た目で認知度もあると思うし、「欲」とかは曲のテーマに絡めやすそうだなと思って作り始めました。

―― モンスターカードに続いて魔法カードということは、今後はトラップカードもあり得そうな展開ですね(笑)。

Dr.マキダシ そうですね(笑)。HIPHOPで今はやっているビートに「トラップ」というのがありまして、そこにかけてトラップのビートでトラップカードの名前をひたすら言い続けるラップをやろうかと思ったんですけど、それはちょっと狙いすぎかなって。「強欲な壺」をやっておいて狙いすぎというのもどうかと思うんですけど(笑)。やるとしたらそれですかね。

―― フック(サビ部分)について、民族音楽的なフロウ(ラップ自体の歌い回し、メロディー)が印象的ですが、楽曲を作るにあたって影響を受けた音楽やエンタメ作品などはありますか?

Dr.マキダシ この曲に関しては、テーマを決めてフックを作っているんです。メロディー含め、サビを自分の脳内で作り、そのサビにあわせて共作している方にビートを作っていただいているんですけど。先に「人間は強欲な壺だ」のサビができて、そこに民族的な3拍子でお願いします、っていった結果できたのがあのビートでした。

―― 曲の前後半でだいぶ雰囲気が変わりますよね。

Dr.マキダシ 後半部分はディス曲なイメージで作っていたので、軽快で癖のある3拍子からは離れたものにしようと思っていて、いわゆるブーンバップ、90年代のオールドスクールのような構成の中に、盗難事件の犯人へのディスや、UMRさんのカードを集めるスタンスまで変わってしまった、という部分を少し歌詞に入れつつ、こんなことが起こらないように、という思いをこめてキツめのものにしましたね。

―― MVには以前取材させていただいた弊社の記事もチラッと登場していましたね。

Dr.マキダシ 歌詞に「人間は強欲な壺 俺もドツボ なんかいいことあっても すぐさま慣れる」という部分があるんですけど、要は前回ちょっとバズって僕とオオイエくんが調子に乗っちゃったところがあるので、バズを経ての今回、という意味合いをこめていろいろな人が「ブルーアイズ持ってる」とつぶやいているのを悦に浸りっている自分たち、というのをメタ的に演出に入れました。

ねとらぼの記事
スマホに映るねとらぼの記事。急な登場にびっくりしました

―― 前回のインタビューで、ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴンを「富と力の象徴であり、HIPHOPの力の象徴と通じるものがある」とおっしゃっていました。今回の強欲な壺はHIPHOPだとどのような位置付けでしょうか?

Dr.マキダシ HIPHOPに限らず、かもしれないんですけど「渇望」ですよね。例えば遊戯王をやっていて、自分の手札に欲しいカードがなくて、状況を打破するためにカードを引くわけじゃないですか。

 強欲な壺は、自分のデッキからカードを2枚引くっていう魔法カードなんですけど、HIPHOPにトレースして考えるなら、状況を変えるために自分自身で手を伸ばすみたいな。もちろん出立ちもいいですよね、インパクト強くて。

強欲な壺を持つDr.マキダシ
いい表情だ

―― 逆に「これはHIPHOPっぽいかもな」と思うカードはありますか?

Dr.マキダシ 遊戯王って、もともと古代エジプトの王族の装飾品だったり壁画をモチーフにしているんですけど、HIPHOPとたまたま整合性あるというか。例えばチェーンのアクセサリーとか、ゴールドのアイテムとかが結構あって。それがHIPHOPのきらびやかさや装飾とちょっと近いようなイメージがあります。エクゾディアもチェーンついてますしね。初期カードは特にそうですね。

―― MVには「金持ち」をスタイルに持ち、MCバトルなどで活躍するAmaterasさんが出演しています。こちらはビートメイクの段階では構想にあったものでしょうか? 出演の経緯を教えてください。

Dr.マキダシ 強欲な壺で曲を作ろうとなった時点で考えていて、彼からも「もちろん出ます!」って感じで返事をもらいました。そもそも彼は凝ったビデオが好きなので、遊戯王以前に何かのMVで出させてくださいって言ってくれていたんですけど、今回はハマり役かなと思って呼びました。

 もともと彼を1番のお金持ちポジションに置くつもりで、彼にお金が入ってきて高笑いさせる、みたいな役にしようかと思っていたんですけど、今回は欲につまずく人間として起用しました。

 その人選も彼が歩んできた道とかラッパーとしてのキャリアを考えるとはまり役だったのかなと。彼は演技も結構できる方で、正統派なイケメンもできるし、ちょっと怪しい感じの役どころもできるかなと思って託しました。

Amateras
どこかで見た演出だ

―― 今後、MVに出演してもらいたい人はいますか?

Dr.マキダシ ラッパー以外ですと、芸人さんにも入っていただけたらなと。僕が好きな芸人さんに「街裏ぴんく」さんという方がいらっしゃるんですけど、劇場支配人みたいな役で出てほしいですね。どこかでラブコールしたいです。

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