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劣化した謎のフィルムを復元したら貴重な人形アニメCMがいっぱい出てきた! Twitterで拡散され川本喜八郎作品と判明(1/3 ページ)

復元した北海道アーカイブセンターと、人形アニメーション作家の細川晋さんに話を聞きました。

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 投影できないまでに劣化した、内容不明の映写フィルムを復元したら、テレビ放送草創期の貴重な映像が大量に――。まるで遺跡の発掘のようなエピソードが、Twitterで注目を集めています。

フィルム 話題のフィルムは、劣化して蛇の抜け殻状態。いったい中身は……?

 話題となったのは、映像や音声といった資料の電子化を手掛ける会社、北海道アーカイブセンター(@Hokkaido_ACC)。くだんのフィルムはある人の遺品で、蛇の抜け殻のような形にゆがんでいて映写機を通らず、「もうゴミにしかならない」と言われていました。

 内容を示すメモもなどなく、ビューワー(簡易的にフィルムの内容を確認する装置)を使っても、コマがゆがんでいて静止画の確認すら不可能。そこで、同社は映写機に通せるレベルまでフィルムを復元し、投影を試みました。

 そうしてスクリーンに映ったのは、昭和30年代のものと思われるモノクロのコマーシャル映像。アサヒビールや三ツ矢サイダーなどの商品が、似た作風の人形アニメーションで演出されています。

フィルム
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 どうやらフィルムの持ち主は、一連のCMを保存用につないで記録していた様子。同社も把握していない珍しい映像ばかりで、確認できた既存の資料映像と比較してみても、人形の振り付けや歌が異なるバージョンだったといいます。

 貴重な映像が発掘される過程は、「ロマンがあってワクワクする」「これはいい仕事」「見たこともないのに懐かしい」と話題に。拡散するにつれ、これらの映像に「シバ・プロダクション」の作品が含まれるとの情報も寄せられました。

 シバ・プロダクションは、NHKの「人形劇 三国志」などで知られる人形美術家・アニメーション作家の川本喜八郎さんと、劇作家の飯沢匡さんがともに設立したCM製作会社。川本さんは1958年から1962年(昭和33年〜昭和37年)に常務取締役を務め、CM製作にも携わっていました。

 Twitterではこれらを裏付ける証言も上がりました。川本さんの遺作「死者の書」に参加経験のある人形アニメーション作家、細川晋(@hosokawa_shin)さんが、川本さんがアサヒビールのCMを手掛けたことや、当時の製作事情といった貴重な話を明かしてくれたのです。

 北海道アーカイブセンターを取材したところ、細川さんや、広告史に詳しい専門家などから同社に連絡があり、映像は昭和35年(1960年)前後に製作された、シバ・プロダクション作品と判明したとのこと。細川さんによると、全てが川本さんの作品とは言い切れないものの、アサヒビールと江口証券のCMに関わっているのは確かだそうです。ちなみに、多くの人形はシバ・プロダクションに参加していた土方重巳さん(佐藤製薬の象のサトちゃんのデザイナー)のデザイン。

 今回の発見について、北海道アーカイブセンターは「これらが作られたのは、現在のようにアナログとデジタルの力を合わせて復元するなど想像ができなかった時代ですから、多くが破棄されてしまっています」とコメント。「一見ゴミのように劣化したフィルムの中にはとても大切な記録が眠っているかもしれません。みなさんには『簡単に諦めずフィルムを捨てないで!』と呼びかけたいです」と述べています。

 細川さんも、「これまで個人的には見たことがなく、発見されたことはうれしいです」と喜ぶ一方で、「こういったテレビ初期の人形アニメーションのCMがどのように残せるのかという心配はあります」と、映像が失われゆく現状を憂慮。「個人管理は徐々に厳しくなるので、できれば然るべき機関や施設が整備されてほしいです。人形アニメーションの関係者として、このような発見がまたあればうれしいです」と、ねとらぼの取材に答えました。

画像提供・協力:北海道アーカイブセンター(@Hokkaido_ACC

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