山梨県や静岡県を舞台に、女子高生たちがキャンプする姿を描いた漫画『ゆるキャン△』(作者:あfろさん)。7月1日には初の映画が公開され、7月3日時点での累計動員数は25万人、興行収入は3億5000万円を突破するなど注目を集めています。
原作は、マンガアプリ「COMIC FUZ」(芳文社)で連載中。2018年にテレビシリーズがスタートし、2020年にはスピンオフ作品「へやキャン△」、2021年には「ゆるキャン△ SEASON2」が放送されました。キャンプブームの火付け役としても知られ、7月16日には山梨県身延町に「道の駅しもべオートキャンプ場〜ゆるキャン△の里〜」がオープンするなど、勢いはとどまるところを知りません。
映画は、大人になったなでしこたちがキャンプ場作りに挑戦するというオリジナルストーリー。本栖高校時代のゆるい日常や、まったりキャンプとは違い、社会の荒波にもまれる彼女たちのほろ苦さも描いた作品となっています。もちろん劇中では、高校時代を思い出すようなほんわかしたやりとりや、「飯テロ」がさく裂するキャンプシーンもあるのですが、一方で、社会人になったなでしこたちという原作にはない設定だけに、映画公開前には「どうなるんだろう」という期待と不安が入り交じった声もあがっていました。
なぜ映画では、大人になったなでしこたちを描くことになったのか、そしてキャンプ場を作るという、これまでの枠組みから外れたストーリーになったのか。テレビシリーズから引き続き監督を務めた京極義昭さんに、制作の裏側と映画に込めた思いを聞きました。
「テレビシリーズの拡大版にしたくない」から始まったストーリー作り
―― ついに映画が公開されましたね。
京極監督 無事に出来上がってほっとしています。スケジュールが押してギリギリになっても終わらなかったんですけど、スタッフの頑張りのおかげでなんとか完成できました。
―― 映画の公開前後で、思い描いていた景色に違いはありましたか?
京極監督 映画が出来上がる前はもっと悔いが残ると思っていました。
―― 悔い、ですか。
京極監督 オリジナルストーリーという、かなりチャレンジな企画だったので、制作中も「受け入れてもらえるだろうか、余計なことをしちゃったんじゃないか」と悩んで、自信がなくなるときもありました。
でも終わってみると、これしかない、これが一番良いと思えました。もちろん良いという声も悪いという声もあると思うんですけど、自分が思う『ゆるキャン△』の良さとか、これが『ゆるキャン△』の映画だと思うものを描き切れたので、自分でも意外なほどすっきりした気持ちです。
―― 監督は普段からネットの反応を見ますか?
京極監督 時々見ますけど、今回の映画に関して言えばもともと賛否両論が必ず起きる企画だと思っていました。あfろ先生の原作がいかに完成されたものかというのを、僕はテレビシリーズを作りながら身にしみて感じていまして、なんとかアニメに原作の良さを落とし込むのに精いっぱいでした。だから、それを飛び越えて先のストーリーを作るというのは批判されて当然ですし、その気持ちはよく分かるんです。
でも、僕らが『ゆるキャン△』という作品に関わり、与えられた仕事というのは、いかに作品の面白さをたくさんの方に知ってもらうかだと思っています。だから、あえてチャレンジして、いろんな方に届くように映画を作るという道を選びました。そこはもういろいろ言われても仕方がないと思っています。覚悟しているので。
―― 2018年3月に第1作目の放送が終わり、同年10月に「映画化・SEASON2・へやキャン△」が一気に発表されたわけですが、映画のパンフレットによると監督は最初、続編の制作に乗り気じゃなかったとか。
京極監督 第1作目が終わってから、もうできませんって断り続けていました(笑)。やりきったという気持ちが強かったんです。でも映画をやるという話だったので、これは面白そうだぞと。単純に続きを作るだけという企画だったら引き受けていなかったと思います。チャレンジングな企画を用意してくれたので、それならやってみようかなと。
―― 映画化の話が来た時点では、物語はまだなにも決まっていなかったそうですね。
京極監督 その通りです。
―― ストーリーはどのように考えていきましたか?
京極監督 テレビシリーズを拡大しただけの内容にしたくない、というのが前提にありました。いろいろと案が出ましたけど、いつもの5人が出てきてキャンプをしてとなると、どこに行くか、どんなキャンプをするかぐらいしかバリエーションがないんです。それで、発想を変えて「キャンプ場作りとかどうだろう」と提案したところ、それいいじゃんとなりまして(笑)。
キャンプ場に行ってキャンプをするという行為から、キャンプをする場所を作るというこれまでとは違う関わり方になるわけです。しかもそれは大人にしかできないことだし、そこにドラマというか、今までの高校生の彼女たちとは違う、気付きや成長が描けるかもしれないという予感がしました。それで、進めてみようよという話になったんです。
―― 映画では大人になったなでしこたちが描かれたわけですが、彼女たちを描く上で、高校時代から変えようと思ったこと、逆に変えないでおこうと思ったことはありますか?
京極監督 『ゆるキャン△』のアニメを作る際、彼女たちはそのときどうしていたのか、というところから考えるようにしています。普通なら、こういう話にしたいからキャラクターをこういうふうに動かそうと思っちゃうんですけど、『ゆるキャン△』の場合はそうやって配置していくと絶対にうまくいかない。つまり、『ゆるキャン△』らしくなくなってしまうんです。テレビシリーズでも、必要に応じてオリジナルシーンをいくつか入れましたけど、すごく難しかったですね。
たぶんそれって、原作の完成度がすごく高いからだと思うんです。少しでも勝手な味付けをしてしまうと、すぐにバランスが崩れてしまう。だから、映像としては映っていないけれど、そのとき彼女たちはどんな行動をしていたんだろう、どんなことを考えていたんだろうと発想していって、彼女たちが動くのを見守るみたいな。そういうふうに作っていかないと、『ゆるキャン△』の世界観を表現することはできないと思っています。
映画では大人に成長していますが、高校生から大人までいきなりジャンプするわけではなく、いろいろな経験や出来事があって今があると思うので、その過程をまず追っていこうと考えました。なでしこだったら、高校を卒業してどんな進路を選ぶんだろうとか、リンだったらどんな場所に行ってどういう勉強をするんだろうとか、そういうふうに考えて作っていきました。
その結果、背丈や服装はもちろん変わるんですけど、キャラクターの造形は高校時代からあまり変わっていません。キャストの皆さんにも、大人っぽさを意識しすぎないで演じてくださいと伝えました。
彼女たちの行動やせりふを追っていけば、自然にちょっとした変化が生まれてくるので、あえて強く演出する必要はないという結論に至ったんです。あえて変えていないことの方が多いかもしれないですね。
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